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カードゲームみたいなやつ  作者: SIS
激闘! 襲来、ダークファイブ!
39/57

トウマ危うし! 危険な遊戯にとらわれて その4



 ついに始まってしまった闇のデュエル。


 向かい合う両者を前に、私はとっさに声を張り上げた。


「ちょ、ちょっと待った!」


「ん?」


「デュエルするならレフェリーが必要だろう。私がする!」


 見た所、相手はイカサマの類を躊躇するような相手には見えない。それに、『悦楽』デッキはあまりにもややこしい動きをするデッキ、ちゃんとしたレフェリーがいないと解釈次第で揉める事もあり得る。


 闇のデュエルだからこそ、そのあたりはハッキリさせておかないと不味い。


「お前にも悪い話じゃないだろう、長沢。レフェリーという立場なら、私は平等にしなければならない。そのデッキの説明を隅々まで岩田さんにした上で勝てると思うか?」


「うぃひひひ、勝てる勝てないはおいておいて、貴方様がレフェリーを務めるというなら、私めに異論はありませぇん、いひひひ」


 よし。とりあえずこれでルール無用のオカルトパワーは躊躇するはず。


 あとは……。


「じゃあとりあえず戒めを解いてくれ、コイントスできない」


「それとこれとは……話が別……」


「ちぃっ」


 そう上手くはいかないか。


「仕方ない。岩田さん、右手にコインを握らせてくれ。投げる」


「いや、まあ、うん。お前がいいんならそれでいいが……」


 何だか渋い顔をした岩田さんがコインを手渡してくれる。縛られたままの腕で、えいやと私はコインを放り投げた。


 凸凹した床でコインが跳ねる。結果は……。


『裏、か。先攻は長沢に決定!』


「ち。まあいいか」


「ふひひひ……じゃあいきますよお」


 にたにた笑って手札を物色する長沢。


 ふん。どれぐらい出来るのか知らないが、『悦楽』デッキはかなりトリッキーなデッキだ。果たして使いこなせるのかな? 高みの見物と行こうじゃないか。


「私は手札から、“堕落の注ぎ手”“酩酊の誘い手”“叫喚の踊り手”を特殊召喚……」


『……悦楽デッキの悪魔達は、召喚権を放棄する事で代わりに特殊召喚できる。もっとも彼らはそのターン終了時、相手の手札に加わってしまうという特性があるが、そこからさらにコンボが繋がる訳だ』


「なるほど。元々はお前のデッキだけはある、妙なデッキだな」


 場に顕れる三体の、蠱惑的にして醜悪なデザインの悪魔たち。エログロを絵にしたようなモンスターを前に、岩田さんのコメントは実に辛辣である。って、ちょ。


『酷くない? 私をなんだと思ってるんですか』


「普段性別を偽ってる小生意気なクソガキだが?」


『…………はい。その通りです……』


 返す言葉もありません。


『……をほん。とりあえず、先攻なので攻撃はできません。にもかかわらず大量展開したという事は、何かすでにコンボが見えているという事ですか』


「いひ、いひひひ……! その通り、流石、貴方様はご明察……。私は、カードをさらに一枚伏せて、ターン終了……!」


 これで長沢の手札は一枚。さらにターン終了に伴い、場に呼び出されていた悪魔達は、岩田さんの手札に加わってしまう。闇のゲームだからか、手渡されずともカード達は自らひらりと宙を舞って岩田さんの手に飛び込んだ。その絵柄を間近で見てしまった彼が、サングラスの向こうでうげえ、という顔をする。


『んで、いきなり手札一枚か。ここまで思い切った事をするっていう事は、居るんだろ?』


「んっひひひひ! 私の場のカードがぁ、手札に戻ったことでぇ……“ホラー・チャリオット”を特殊召喚んんん!!」


『相手の手札に加わるのも、手札に戻ったと言えるからな。いわゆるコンセプトコンボカード、という訳だ。これで場ががら空きになるのは防げたな』


 長沢の場に呼び出されるのは、中世のコロッセウムで使用されていたような馬引きの武装車輛だ。大きな車輪の軸は鋭い刃になっており、すれ違いに敵を切り裂く。まあ、馬車を引いているのは馬ではなく鳥と蜥蜴を足して割ったような得体の知れない怪物だし、御者席にいるのも両手が鋭い爪になった半陰陽の悪魔だが。


「いひひひひ、ホラー・チャリオットは上級モンスター! さらにこいつは、手札から特殊召喚されたモンスターにバトルシーンとは別に攻撃をしかける、速攻能力をもつぅうう」


『まあそんな訳で、今手札に加わった連中を特殊召喚してもロクな事にならないので、注意してね、岩田さん』


「言われんでもこんなクッソ気持ち悪い奴使わねえよ」


 嫌そうに顔からカードを遠ざけながらのお言葉です。気持ちは分かる。


「ちっ、調子が狂うぜ。俺のターン、ドロー!」


「ひひひひっ! この瞬間、私のぉ、トリックカード発動! “同調する悦び”! このカードは相手の手札が4枚以上存在し、ドローした時に発動できるぅ! 相手と同じ手札になるまで、私もカードを引くぅ! ひひひひっ!!」


 うげ。『悦楽』デッキ的には理想的な展開になってきたぞ。


 自分で使ってると楽しいが敵に回すと嫌なコンボだなあ、これ。


「……けっ。俺は後攻1ターン目、手札は一枚も使ってない上にお前から押し付けられたカードが3枚! 手札の数は……9枚か」


「うっふ! 私の手札は0枚! よって、デッキから9枚ドローするぅ!!」


 フグの刺身を掬い上げるような勢いで、がばぁ、と一気に長沢がドローする。うへえ、いいな、私もそれ実戦で決めた事ないんだよ。気持ちいいんだろうなあ……


「く、くひひひひひ! あ、ああ……きもちい゛い゛……」


 胸を仰け反るようにして喜悦にひたる長沢。気持ちは分かる。わかるんだが……なんか、ちょっとおかしくないか。


 見開かれた長沢の瞳。黒い瞳孔の奥で紫の陰がちらついていたそれは今は瞳全部が紫に染まり、だらりと垂れた舌は30cm以上に長く伸びている。その先が、ちろちろと引いたカードを舐めていた。


 なんか、おかしいぞ。この異様な空間だ、光の差し込み具合だとか、空間の歪み具合とかで身体のバランスが崩れて見えるとかはあるかもしれないが、それで説明できないレベルの気がする。


「けっ。まあいい、その程度の手札、ちょうどいいハンデだ。てめえはどうやらわかってねえようだからな……俺は、手札からDF パンサーマスクを特殊召喚! こいつは俺の場にモンスターがおらず、相手の場にモンスターが居る時、手札から特殊召喚する事が出来る!」


「いひひひひ、馬鹿ですかぁ?! ホラー・チャリオットの効果発動! 手札から特殊召喚されたモンスターに速攻攻撃をしかけるぅ!!」


 岩田さんの場に現れたのは、豹マスクのDF。いかにも切り込み隊長、といった感じのモンスターだが、それに反応してチャリオットが動き出す。ぱちぃん、と鞭の音を鳴らし、超高速でチャリオットがレスラーへ迫る。


 このままでは哀れ轢殺死体だが……。


「馬鹿はてめえだ。俺は手札から“DFEダーティ・フェイス・エキストラ セコンド・コマンダー”を特殊召喚! こいつは、自分のDFモンスターが戦闘を行う時に手札から特殊召喚でき、そのモンスターの戦闘破壊を無効化する!」


『岩田選手、巧みなアシスト! まあ分かってる効果にひっかかるようではとてもプロとは言えないからね、当然です』


 場に現れたのは、白いシャツに腹巻を撒いた、いかにも、という感じのセコンドのおっさん。彼が『いまだ!』と言わんばかりにメガホンで声を張り上げると、パンサーマスクは一つ頷いて、迫りくるチャリオットの車体の下にスライディングした。途中で悪趣味な装飾にマスクの一部をひっかけるも、強襲を回避したレスラーが、セコンドと互いにサムズアップする。


「ん、ぎぃいい! 小癪なぁ!」


「変わらないなあ、お前。相手の行動の裏を読めと教えただろう……俺は“スカーフェイス”状態のパンサーマスクをトラッシュに送り、手札から“DDF ダークスカル”を特殊召喚する!」


『きたあ! ここで岩田選手のエースモンスターが登場だ! まさかの後攻1ターン目の出番に私も驚愕が隠せません!』


 いやあ、ほんとにね。戦闘絡む効果なのに1ターン目で出しちゃうかあ。臨機応変とはこの事だね。セコンド・コマンダーの効果そのものはとても汎用性がある効果だし、デッキ組んだ段階では想定してないでしょ、この流れ。


「ハァイ、レディー! 可憐な少女の声援を受けて、本日も残虐ショーの時間がやってまいりました。屋内であっても降る雨は何か、答えはマットに降る血の雨だ! レイン……メーカー! ダークスカルの入場です!!」


 場に顕れる、牛の頭骨をマスクにした筋骨隆々の大男。彼は退廃した空気を大声で打ち破ると、のっしのっしと場に歩み出る。


 そして、ダークスカルといえば、当然……。


「DDF ダークスカルの効果発動! 1ターンに一度、相手モンスターのステータスを下げる!」


「が、がああ! ホラー・チャリオットのステータスがぁあ!」


 正面からがっつりチャリオットに組み付いたダークスカルが、まずは馬車を引くよくわかんない獣を殴り倒す。つづけてブラスナックルが煌めき、馬車の骨組みに痛撃を与える。何かの骨と木材で編まれた馬車はその一撃で大きく歪み、車輪が斜めに傾ぐ。御者がその衝撃で放り出されてその場に転がった。


 傍目からみても明らかに手痛い一撃。


「おらおらおら、まだ俺は召喚権を残しているぜ! 今度は手札からDF ブラックパピヨンを通常召喚! バトルだ! まずはダークスカルでホラー・チャリオットに攻撃! クラッシャースカル・パワーボム!!」


 ダークスカルがその剛力で、戦車の車体を持ち上げる。そしてそのまま、力任せに地面に叩きつけると、哀れ戦車は粉々になって飛び散った。繋がれていた獣も、這う這うの体で闇の中へ逃げ去る。


 そしてがら空きになった長沢の前に、ずんずん、とブラックパピヨンが進み出ると、黒いマスクの上からでもはっきりと笑った。


「そしてDF ブラックパピヨンでダイレクトアタック!」


『岩田選手の猛攻! さきに相手のライフを削ったのは、岩田選手だーー!』


「ぐぼぎゃああ!?」


 筋骨隆々のプロレスラーのラリアットが、長沢のひょろりとした体を吹き飛ばす。そのまま後方に吹っ飛んだ長沢は、両足を上に投げ出して情けないポーズでひっくりかえった。闇のゲームでダメージが実体化していたのが仇になったな。


『長沢選手、だうーん! えーと、ここはプロレスにならって、テンカウントを数える事とします。それまでに起き上がれなかった場合、長沢選手はデッキからカードを引けなくなったものとして、敗北とします!』


「デッキからカードを引けぬ者に戦う資格はない、だったな? トウマ」


『えへへへ……』


 いやん、そんな昔の事を引っ張り出さないでくれたまえ。もしかして根に持ってる?


 勿論、根も葉もない思い付きではない。公式ルールでも、不必要な延長はジャッジキルしてよい、となっている。リアルダメージありの闇のゲームを仕掛けてきたのはあっちなのだから、これは正当な判断だ。なあ?


『ではカウント開始。じゅー、きゅー、はーち、なーな、ろーく、ご、よーん……』


「きひひひひ……ちょ、ちょっと早くないですかね……?」


『ちっ。起きてきたか』


 カウントを数えていると、のそのそと長沢が起き上がってくる。彼は首がちょっと傾いだままで、けひ、と薄気味悪く笑った。


「大丈夫、大丈夫ですよ、ひひ。まだまだ、やれます……」


「ふん、どうだか。DFEはブロッカーなのでこれ以上の追撃はない。俺はこれでカードを一枚伏せてターン終了だ」


「ひひひっ! 私のターン!!」


 長く伸びた舌でデッキから一番上のカードを手繰りよせる長沢。ばっちぃ、あとでデッキを消毒しておこう。


 それはともかく、なんかどんどん人外っぽい感じになってきてんな、あいつ。デッキの副作用か何かか? いや、まさかな。ほかならぬ私があのデッキ回してて平気だし。


『さて、これで長沢選手の手札は10枚。これで状況を変えられないはずがないでしょう、さて、どうでる?』


「ひ、ひひひひ! おっしゃるとおりでございますよぉ! 私は手札から“酩酊の誘い手”、“叫喚の誘い手”、“堕落の注ぎ手”を特殊召喚! そして、相手の手札が5枚以上ある事で、手札から“恍惚の演奏者 デュ・バル”を特殊召喚!」


 新たに長沢の場に現れたのは、おなじみの『悦楽』汎用モンスター達。流石に10枚もドローしたら、二枚目以降も手札に加わってもおかしくはない。


 それに加え、紫色の肌の麗人が場に姿を表した。頭は綺麗に剃り上げているものの、一目で美人とわかる顔立ちの男。だが奇妙な事に下半身は流麗な着物のようなもので彩っているものの、上半身は裸のままだ。


 その理由はすぐに分かる。デュ・バルが左手を広げると、彼の腹からいくつもの内臓、あるいは肉の筋のようなものが飛び出した。それは左腕に絡みつくと、血と肉の弦楽器を構成する。自らの筋で編まれた弦をデュ・バルが鳴らすと、ぼろろん、と悍ましくも華麗な音があたりに響いた。


「……マゾか?」


『マゾですね。恍惚の演奏者デュ・バルは、その演奏で場に居る悪魔達に邪悪なる力を与えます。具体的にいうとスレイヤー効果! このモンスターと交戦した場合、ステータスの差に関わらず破壊されます!』


「ちっ、厄介な!」


 そうなんだよなあ。普通だったらディスアドバンテージなんだけど、それを補助する手段があると途端にクソ面倒になる効果である。今回は、長沢の方が規格外の大量ドローを決めてるから、損なんてない訳で。逆にここでモンスターを全滅させられたら、手札の大半が押し付けられたカードである岩田さんは一気に厳しくなる。


 これは効果破壊なのでセコンド・コマンダーの効果でも防げない。


「ひぃははははは! さらに私は手札から魔法カード“疼痛の霊薬”をはつどぉ! このカードの効果にぃ、よりぃ、ひひひ、私のモンスター達はこのターン、戦闘破壊されなぁい!!」


『これは長沢選手、見事なコンセプトコンボを決めてきたぞ! 手札からモンスターの大量展開、それらへの特効効果付与、そして戦闘破壊を防ぐ事で相手の上級モンスターを排除しつつ、相手の手札への追加を狙っている!』


「ひぃひひひひ、お褒めに与り恐悦至極! けけ、どうですかあ、岩田さぁん!? これでもまだ、私が弱いままだと?」


 長沢の場を、霊薬のピンクの霧が満たす。配下のモンスター達とその霧を胸いっぱいに吸い込みながら、嗜虐的な笑い声と共に長沢が問いかける。


 それに対する、岩田さんの答えは……。


「ああ。全く以て下らんままだ」


「あ゛?」


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― 新着の感想 ―
自分たちのデッキを使えるからママに選ばれた可能性あるのでは?
『悦楽』の悪魔達に少しづつ身体奪われていってない? もしかして、負けたら身体奪われる事の対価でカードを使っているのかな?
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