超々古代からの刺客 その3
毎日投稿ミスしてほんとに申し訳ありません……。
『試合の申請内容を確認します。ルールは一本先取! 特別ルールは無し! よろしいですね?』
「おっと、ちょっと待ってねレフェリー。一つ追加ルールがあるの」
『え?』
試合の基本ルールを確認するレフェリーに、ジェーンがまったをかける。
やはり来たか。
目を細める私と困惑するレフェリーを前に、ジェーンは腰のポーチから何か奇妙な物体を取り出した。
それは、掌サイズの四角い立方体だった。材質は陶器か金属か、はっきりとはしない。表面には芸術品のようなディティールが施されており、サイコロやデッキケースというより、オルゴールのように私には見えた。
その蓋が、ひとりでにがぱりと開いた。
内部には……なんだ、暗くて遠い上に小さくてよく見えないが……。
鳥の、羽?
「デミ・アーク開放!」
『おわあああ?!』
突如としてジェーンを中心に、白いオーラが放たれる。それは私やレフェリーをも飲み込み、周囲一帯を白いヴェールで隔離した。
デミ・アーク……アーク? まさか聖櫃の事か?
なんでそんなものを持っているんだ?
いや、それより、これはまさか闇のゲーム……?
「これでこの周辺は神聖なる決闘空間と化した。ここを出られるのは、勝者のみ! 敗者は数万年の呪いによって生命エネルギーを奪われ、生きる屍となる! ついでにレフェリーもね」
『は、え……えぇえええ!?』
驚愕の声を上げるレフェリー。いやあ、巻き込んでごめんね。でも首をつっこんできたのはそっちからだから、自業自得として諦めてくれ、めんご。
『ちょ、ま、冗談ですよね?! トウマ選手も何かいってくださいよ!?』
「ああ悪い。アイツがここ最近起きてる連続昏睡事件の犯人らしいから、多分ガチなんだわ。諦めてくれ」
『ちょっとおおおお!?』
流石にレフェリーだけあって、演出とガチの違いは判別がつくのだろう。絶望の叫びをあげる様子からは、ふざけているとかではなくてちゃんと状況を理解している節が伺えた、話が早くて助かる。
「大丈夫、大丈夫。私が勝ったらアンタも助かるよ、多分。なんだったらこっち有利に審判してくれたら助かるんだが」
『む、む……! そ、それとこれとは話が別です! いいでしょう! 男、大稲田! 覚悟を決めて公平にレフェリーを務めさせていただきます!』
おお、流石のプロ根性。こういう状況でなければ褒め称えたいところだ。
『話が逸れましたが、試合の進行を進めさせていただきます。コイントス……表が出た事で、先攻はトウマ選手に決定いたしました!』
「了解」
手札の五枚のカードに目を通す。
先攻は正直、未知の相手ではあまり旨味が無い。今回使う『鮮血』デッキは四大デッキでは比較的スタンダードな挙動だが、それでも真っ当に先手を取って制圧する、なんて素直な動きをしてくれるデッキでもない。
まあ、それならそれでやりようはいくらでもある。
まずはお手並み拝見だ。
「私は“跳躍する狂信者”を召喚! さらにカードを二枚伏せてターン終了だ」
雑な手術によって下半身を機械化した狂信サイボーグが場に呼び出される。こいつは他と比較すれば特殊な能力はなく、あくまで鮮血デッキの内部では鮮血カウンターを回すだけの存在だが、だからこそ様子見にはちょうどいい。
「はっ、噛み応えのなさそうなモンスターね。私のターン、ドロー! ……私は手札から、“墓石ゴーレム”を召喚する!」
ジェーンの場に呼び出されたのは、日本風の墓石に石の手足が付け足されたモンスターだ。墓石に“逆巻トウマ”って書いてあるのは相手の意思表示だろうか。大分ハイセンスな煽りだが、コミカルを通り越してシュールに片足突っ込んでいるデザインのおかげであまり緊張感が無い。
「バトル! 墓石ゴーレムで跳躍する狂信者に攻撃!」
『おおっと、ジェーン選手さっそくしかけた! だが墓石ゴーレムのステータスはかなり低い! これでは返り討ちだー!』
突撃してくる手足の生えた墓石。それを狂信者は跳躍して回避し、逆に頭上から襲い掛かった。唸りを上げるチェーンソーが墓石をがりがりと砕き、ゴーレムを粉砕する。
墓石ゴーレムはどうみても無機物だが、代わりといわんばかりに狂信者の雑な手術痕から血が噴き出し、私のドレスに降りかかった。それはあくまで立体映像の演出だが、それに反応して白いドレスの一部が血のように赤く染まる。
鮮血カウンターがこれで一つ。
だが……。
『墓石ゴーレム、玉砕! 最初から倒されるためだけに攻撃したように見えましたが、これはやはり……?!』
「その通りさ、墓石ゴーレムの効果発動! このモンスターが戦闘で破壊された時、デッキからステータスが一定以下の“不死者”アイコンを持つ他のモンスターを一体、場に特殊召喚できる!」
墓石ゴーレムが砕け散った地面が、不意にモコモコと盛り上がる。
そう、墓石の下には死者が眠るものだ。眠りを妨げられた死者が、怒りの声と共に起き上がる。
姿を表したのは、腐肉のこびりついた巨大な爬虫類の骨。……いや、これは恐竜か? 異様に長く伸びた刀のような前足の爪に覚えがある。
こいつは確か、テリジノサウルス、だったか?
「私は“凶爪のテリジノス”を特殊召喚!」
『おおっと、やはりリクルーターモンスターだった! そしてデッキから呼び出された“凶爪のテリジノス”、なんとこいつは上級モンスターです! ステータスがやや低いようですが……』
「テリジノスの効果発動! こいつは、自分のトラッシュにモンスターカードが送られたターン、ステータスが倍になる!!」
なるほど、そういうモンスターか。
それよりも、今の一連の流れでジェーンのデッキのコンセプトが分かった。
彼女は所謂、“アンデッド使い”だ。
最初から死んでいる、命無き骸達。それ故に倒されても倒されても墓地から蘇り、最終的にその物量で相手を圧倒するのを得意とするカテゴリだ。だがそのバリエーションは豊富で、必ずしもそれしか出来る事が無いというのもあり得ない。
現時点ではまだどのタイプか判別はできない。とはいえ、アンデッドである以上トラッシュを経由しての展開が基本だ。そこに注目しなければ。
「ふふ、まだ私のバトルは終わってないわ! テリジノスで、跳躍する狂信者へ攻撃!」
黒ずんだスケルトンが、その特徴的な前足を大きく振り上げる。あの日本刀のような爪で貫かれれば狂信者はひとたまりもない。
まだこのタイミングでコイツを破壊される訳にはいかない。
「私はトリックカード発動、“屠殺場の首枷”! このカードは、いずれかのプレイヤーが攻撃宣言を行ったときに発動できる」
地面から飛び出した鎖付きの首枷が、狂信者の首を拘束する。一瞬遅れて、テリジノスの爪が狂信者を貫き、鮮血をしぶかせた。噴き出す血が私のドレスにかかり、より赤くドレスを染める。
ずるり、とテリジノスが爪を引き抜き、狂信者の体が前向きに崩れ落ちるが……。
「首枷の効果は、ターン終了時までモンスター一体に戦闘破壊耐性を与える。狂信者は破壊されない」
倒れ掛かった狂信者を、首枷が勝手に動いて引きずり起こす。半ば鎖に吊り下げられるような姿勢で身を起こした狂信者が、ダラダラと血を流しながらにやり、と不気味に笑う。
『おおっと、トウマ選手も負けじとトリックカードで対応だ! 戦闘破壊耐性を付与する事でモンスターを守っ……え、いや、これ守ったっていえるのかぁ?! とにかく、ボードアドバンテージは守護! また戦闘を行った事で、鮮血カウンターがまた一つ、蓄積されたようだぞ!』
「ちっ。戦闘破壊された時限定じゃないんだ、それ」
「誰でもいいから血を流せ、ってのが『鮮血』の流儀でね」
正直ちょっともったいないが、仕方がない。首枷はどちらかというと、相手のモンスターに使う事で生かさず殺さず連続攻撃の対象にする事で、一気に鮮血カウンターを貯める使い方が本来の用途なんだが。
「まあいいわ、デュエルは始まったばかり。楽しみましょう。私はカードを一枚伏せて、ターン終了」
「私のターン、ドロー!」
引いたカードは……あまりよくないな。
とにかく、鮮血カウンターを貯めないと話にならない。
「私は手札から、“ブラッドギフト”を召喚」
続けて場に呼び出したのは、巨大な吸血ノミだ。かさかさと六本の足で歩き回ると、場に広がる血痕を口吻でちゅうちゅうと吸い始める。それによって体がぷくり、と膨らむが、まだまだ足りないようだ。
不満そうにキーキー鳴くのを私は片手であしらう。いいから、ちょっと待っててな。
『おっと、今度はトウマ選手、ノミのようなモンスターを召喚。見た目からして鮮血カウンターに関係がありそうですが……』
「ふんっ、なんだ、ふざけてるわけ? そんな弱小モンスターでうちのテリジノスに勝てるつもり?」
勿論。勝てる訳ない。
これはあくまで今後の仕込みだ。
「バトル! 跳躍する狂信者で、テリジノスに攻撃!」
「返り討ちにしてあげなさい!」
再び激突する両者。狂信者が跳躍して頭上から骨恐竜に襲い掛かる。
だが先ほどとは違い、今度の激突はあっさりとテリジノスの勝利に終わった。空中から襲い掛かる狂信者を、あっさりとその爪が串刺しにし、びくんびくんと痙攣する骸をぽいっとゴミのように投げ捨てる。
「つづけて、ブラッドギフトでテリジノスに攻撃!」
「ええい、さっきから何よ!?」
ぴょん、ぴょんとノミが跳ねてテリジノスに向かう。ぐぐぐ、とバネを溜めての目にもとまらぬ弾丸タックルだが、それはあえなく鋭い爪に受け止められた。自らの勢いでバラバラの斬死体になって散乱するブラッドギフト。
その一連の戦いで、派手に血が飛び散り、私のドレスを赤黒く染めていく。
『おおっと、トウマ選手、二体のモンスターを自爆特攻! 意味もなくこんな事をするはずがなーい。つまり、彼女の手には何かしらの策があるようだ!』
「その通り。この瞬間、魔法カード発動! “血の祭壇”! この効果により、デッキからモンスターを特殊召喚する! 現れろ、“スカルクラッカー!”」
『鮮血』デッキの十八番、戦闘破壊からの後続召喚。絶え間なく犠牲者を戦場に投入し続け、より多くの血を流す事こそこのデッキの本懐。
投入された新しいモンスターは、上半身裸の巨漢。プロレスラーのように分厚い筋肉と脂肪で体を覆われた大男の手には、鎖つきの鉄球が握られている。鉄球の先端はただの鉄塊ではなく鉄篭のようになっており、中に無数の頭蓋骨がこれでもか、と詰め込まれていた。
鮮血のレッサーデーモンのような悪魔ではなく、あくまで狂信者枠。そのせいか、ステータスは若干低めだが……。
「スカルクラッカーの効果発動! 召喚されたターンに、鮮血カウンターが二つ以上発生している場合、ステータスが上昇する!」
『おおっとこれは、蓄積した鮮血カウンターを生かす効果だ! これにより、効果の発動していないテリジノスを上回ったぞ!』
「スカルクラッカーでテリジノスを攻撃!」
ぶんぶんと頭蓋骨入りのモーニングスターを振り回し、投擲する。これが直撃すれば、テリジノスは粉微塵間違いなしだが……。
「甘いわ、トリックカード発動! “岩壁の崩壊”! 相手の攻撃宣言時に発動し、手札のカードを一枚トラッシュに送る事で、デッキのカードを一枚選んでトラッシュに送る! 私はデッキから“凶刃のアロジウス”をトラッシュに送る!」
『おっとこれは、発動条件の緩いトリックカード! 本来は補助的な目的で使われる部類だが、この瞬間においては強力なコンバットトリックとして働く! テリジノスのステータスが再び倍に~!!』
「ちっ」
やはりそう甘くはないか。
黒いオーラがテリジノスを包み込み強化する。パワーアップしたテリジノスの爪の一閃で鉄篭モーニングスターが真っ二つに。
飛び散る頭蓋骨。それが地面に落ちるよりも早く、閃いた爪の一撃がスカルクラッカーの首を跳ねた。頭蓋骨と共に、苦悶の表情を浮かべた生首が公園に転がる。
『スカルクラッカー、玉砕! これは不味いぞトウマ選手! 召喚権を使い切った上で、モンスターが全滅してしまった。相手の手札次第では、次のターンに一気にライフを削られかねない! 大丈夫なのかぁ!? いや大丈夫っていってくださいお願いしますぅ!』
「……私はこれでターン終了だ。この瞬間、ブラッドギフトの効果発動。このモンスターがトラッシュに送られた自分のターン終了時、鮮血カウンターが5以上あれば1ドローできる」
「あらあら、随分悠長な効果ね。無防備な状態で相手にターンを明け渡して、手札を使う時が来ると思ってるのかしら。それとも、私を舐めてる? だったら、思い知らせてあげないとねえ……私のターン、ドロー!!」
引いたカードを確認したジェーンが、にやり、と微笑む。
来るか、アンデッドお得意の大量展開が。
「私は手札から、“飛頭蛮竜”を召喚! このモンスターは、場に召喚した時、トラッシュの“不死者”アイコンを持つモンスターを特殊召喚できる。“凶刃のアロジウス”を特殊召喚!」
恐竜の頭蓋骨に羽が生えたようなモンスターが召喚されたかと思うと、その尾だか背骨だかが地面へと差し込まれる。するとまるで地中から引っ張り上げるようにして、新しいスケルトンが出現する。
二足歩行のスマートな肉食竜骨格。だが、頭部は牙がナイフのように張り出し、ぎらぎらと輝いている。名前からしてアロサウルスか。彼らはその鋭い牙で獲物を傷つけ、出血多量による衰弱死を狙ったという。『鮮血』デッキとはよい友達になれるかもしれないな。
『おっと、ここでジェーン選手、アンデッドらしい大量展開だ! モンスターがLPを削りきれる数、並び立つ~……ってトウマ選手!? 何か策はあるんですよね?! 信じていいんですよね?!』
「…………」
『何かいってくだざい゛よ゛ぉ~~!?』
涙声のレフェリー。いやだって、まだ勝負の真っ最中で迂闊な事いえんし。
「ははは、万事休すって奴かしら! バトル! 飛頭蛮竜でダイレクトアタック!」
ぱたぱた骨の翼をはためかせて、空飛ぶ頭蓋骨が襲い来る。
鮮血カウンターの事を考えると食らっておくのも悪くはないが、アンデッドの展開力を考えるとライフは万全にしておきたいな。
ここで止めるか。
「私はトリックカード“不均衡の鉄条網”を発動! このカードは相手のモンスターが自分の場のモンスターより2体以上多い時、相手の攻撃宣言時に発動できる! 2ターン後の相手のバトルシーン終了時か、私の場にモンスターが召喚されるまで、相手モンスターからの攻撃を封じる!」
『おおっと、ここで攻撃を阻止するトリックカード! もう、人が悪いんだからトウマ選手も! よかったー!』
突如地面に土煙が立ち、私とジェーンの間を遮るように鉄条網が出現する。突撃してきた飛頭蛮竜はそれに引っかかって動きを止め、ばいーんと跳ね返されるようにジェーンの場に戻された。
それに続くつもりだった凶刃のアロジウスも動きを止める。
「ちぃっ、つまらない延命手段を……! まあいいわ、モンスターの数は圧倒しているもの。ちょっと死期が伸びただけよ。ターン終了……」
「ははは。何を言っているんだ? まだお前のターンは終わってないだろう」
「? 一体何を……はっ!?」
そこでようやくジェーンが気が付く。
攻撃を中断させられたモンスター達。その中にあって、佇むテリジノスの眼窩が、不気味に赤く輝いている事に。何度も『鮮血』のモンスター達を葬り去ったその骨格は、今や血によって赤く赤く染まっている。
『これは……トウマ選手のモンスター効果だ! 鮮血のモンスター達と交戦し、その血を浴びたモンスターは血に狂い、可能な限り毎ターン戦闘を行わなければならなくなる! そして相手モンスターに攻撃できないのなら……』
「ちょっと、テリジノス、何をするつもり!? やめなさい!!」
ジェーンが焦った声で制止するが、残念ながら強制処理だ。
血に狂ったテリジノスが、アロジウスに襲い掛かる。突然の仲間からの攻撃に、表情なき骸骨の竜が明らかに動揺を見せる。
だが、このターンはトラッシュにモンスターが送られていない事で、テリジノスは強化効果が発動していない。ステータスはアロジウスの方が上であり、あっさりと反撃によって押し倒され、地面に転がるテリジノス。狂った味方を踏みしだき、アロジウスはトドメを刺した。
飛び散る骨片を前に勝利の雄たけびを上げるアロジウス。対して、主人であるジェーンは苦々し気だ。
「くっそ、やってくれたわね」
『ジェーン選手、思わぬ展開に混乱していますが、しかし見事な対応。考えうる限り一番被害を小さくできました。血に狂ったテリジノスをそのままにしておけば、この後も展開次第で味方に襲い掛かり続けますからね、ステータスで勝るアロジウスで破壊してしまうのが一番手っ取り早いでしょう。とはいえ、これでトウマ選手も次の手が打てるという訳です』
「ふむ。そして私の場の“血の祭壇”の効果がこれで発動。自他問わずモンスターが戦闘によってトラッシュに送られた時、デッキからモンスターを特殊召喚する。……私が召喚するのは、“ブラッドペイン”!」
血の祭壇の効果によって、私の場に先ほどとは違う青色の巨大ノミが出現する。それは地面に広がる血溜まりを口吻で吸い上げると、ぶくぶくと大きく膨れ上がった。
ピーピーと満足そうに鳴き声を上げるブラッドペインのまるまる太った腹を、私は優しく撫でまわしてやる。闇のゲーム故に感触があるそのお腹は、ぷにぷにすべすべしていてなかなかの撫で心地だった。ふふ。
「さて。私がモンスターを特殊召喚した事で、鉄条網は崩壊する。どうする? アロジウスはまだ攻撃が可能だが」
お互いを隔てる鉄条網が、急激に赤く錆びて朽ちていく。ガラガラと崩れる鉄くずの向こうで、ジェーンは極めて不愉快そうに顔をしかめていた。
「あのねえ。それで私が攻撃したら、今度はアロジウスが血に酔ってとち狂うでしょうが! それにここでソイツを仕留めてもどうせターン終了時に自滅するんだから意味ないじゃない! パスよパス、ターン終了!」
「まあね」
血の祭壇によって呼び出されたモンスターはターンを跨ぐ事が出来ない。
リスクを避けるのは別に悪い判断ではない。
どっちにしろ、意味がないけど。
ジェーンのターン終了の宣言によって、まるまる膨らんでいたブラッドペインは、ぼこぼこと歪に膨らみ始めた。爆発の前兆のような有様を横に、私はその場から逃げる事無く佇み続ける。
「ブラッドペインの効果。場に鮮血カウンターが5個以上ある状態でこのモンスターがトラッシュに送られた時、相手モンスターのステータスを下げる」
「んなっ?!」
限界まで膨らんだブラッドペインが一声哀しそうに鳴いた直後、その体が風船のように弾けた。ため込んだ静脈血が辺り一面に雨のように降り注ぎ、地面を、遊具を、プレイヤーを染めていく。
『おわああああ!?』
「きゃあああああ!?」
レフェリーとジェーンの服も血で真っ青だ。そして当然、私も。
……顔がべたべたする。うっかりしていた、立体映像だから気にしなくていいと思っていたが、これ闇のゲームだから実体になってるじゃん。
つまり本当に血で汚れる。
これは失敗。




