蘇りし古代の王 その3
デュエル開始と同時に、骸骨の足元から、地面を突き破って粘土板の塔が生えてくる。やっこさんはクラシカルなカードを使うようだ。
『先攻は私が頂く!』
「どーぞ、ご自由に」
今回私が使うデッキは『変化』。全知収集の石板を手札に加える為にも、出来れば後攻の方が望ましい。先攻とっても特に有利なデッキでもないしね。
まあ、勢いよく先攻を宣言したあたり、あちらはそういうデッキのようだけど。
眼下に赤い光を灯す骸骨将官を見つめる。表情が分からないというのは、どうにもちょっとやり辛い。
『私は手札から、魔法カード、“第一の石板《破滅の予言》”を発動する』
「む……」
『このデュエルで敗北した者の魂を生贄に捧げる事で、この石板は12ターン後、相手プレイヤーを強制敗北させる!』
げ。特殊勝利条件カードかよ、おまけに達成条件が凄く早い。
よく見れば、奴が掲げる粘土板は黒い染みのようなものが染み込んでいる。あれは……古い血の跡か? どう考えても、まともなカードではない。
所謂闇のカードという奴だろうか。使用者もリスクを背負う代わりに、インチキな効果を発揮するみたいな。どうでもいいがその代償がゲーム外だと実質ノーリスクでずるではないだろうか。
公平性を重んずるならそこは自分のライフを削るとかでしょうが、何だよ敗北した奴を生贄にするって。それはつまり、相手に勝ち続ける限りノーコストじゃん、ずるだ、ずる。うちの連中だってそんなカード出して来ないぞ、出してきても使わないけど。
『きひひ……バスカーク様の……得意戦術……』
『贄……贄……早く、齧らせろ……』
周囲を取り囲む化生どもがざわざわと盛り上がる。ええ、こいつら観客でもあるの?
調子狂うんだが……。
露骨に顔をしかめる私の表情を見て怯えていると思ったのだろう、眉も唇もない骸骨は、嘲笑うようにからからと笑った。
『今更後悔しても遅いぞ、契約がなされた以上、これは私にも解除できん』
「いいよ別に。勝てばいいだけの話だ」
『くく、威勢のよい事だ。私はさらに、カードを二枚伏せてターン終了。この瞬間、第一の石板のもう一つの効果が発動する! 発動したターンの終了時、デッキから“第二の石板《殺戮の予言》”を場に出す事が出来る!』
佇む第一の石板の横に、もう一枚の石板が地面から生えてくる。
石板が石板を呼ぶ効果か。多分なんか特殊勝利をサポートする効果なんだろうな。
「効果を聞いても?」
『くくく、いいだろう。第二の石板の効果は、次の私のターン終了時に第三の石板を発動する効果。そしてもう一つが、私がトリックカードを発動する度に、場に“スコーペクトークン”を特殊召喚する』
「……なるほど」
つまるところ、こいつはトリックカードに偏重したデッキを使うという宣言と同義である。
恐らく伏せたカードも二枚ともトリックカード。第一の石板で特殊勝利を狙いつつ、トリックカードで敵の行動を阻害し、自分の場にトークンを呼び出して壁にする、あたりか? そうなると恐らく、トリックカードを引く確率を上げるためにモンスターは入れていない可能性もある。
ちょっと相性が悪いな。まあ、やりようはある。こちらの『変化』デッキも、トリッキーな動きが売りだ。どっちが相手を出し抜くか、勝負だ。
『これでこちらのターンは終了だ。そして、第一の石板のカウントは11となる』
「私のターン! そしてドローシーンで、私はデッキの“全知収集の石板”の効果を発動!」
『ほう?』
ドローを破棄する代わりにデッキから手札に加えられる効果を使い、全知収集の石板を手札に加える。同じ設置する石板型アーティファクトを使うという事で興味が沸いたのか、相手の視線を感じながらデッキを回す。
「手札に加えた全知収集の石板を発動! さらに、私は“スライム・スポーン”を召喚!」
召喚したのは最弱のスポーン。逆に言えば、ここから変化するので確実により強いスポーンに生まれ変わるという事でもある。様子見にはちょうどいい。
『なんだ……弱そう……』
『美味しく……なさそう……』
うっさいわ。
さて。どちらにしろこのままではダイレクトアタック確定だ。奴が動くならこのタイミングだが……。
『トリックカード発動! “毒矢の石踏み”! 相手プレイヤーがモンスターを召喚した時、このトリックカードを発動できる。仕掛けられた毒矢のトラップにより、そのモンスターを弱体化させる! さらに、私のトラッシュにモンスターカードが無ければ、デッキから別の“毒矢の石踏み”を場に伏せる事が出来る!』
案の定だ。
トリックカードにより、どこからともなく飛来した毒矢がスライムに突き刺さる。ただでさえ低いステータスがさらに低下してしまう。
『そして第二の石板の効果発動、私の場にスコーペクトークンを特殊召喚!』
がさがさと砂をかき分けて、サソリ型のモンスターが相手の場に出現する。ステータスは高くはないが、毒矢の弱体化と合わせるとそれなりに硬い壁だ。地味だが手堅い戦術といえる。なんせ時間さえ稼げば相手は勝手に敗北する訳だからな。
『これでお前のモンスターは何の役にも……』
「スライム・スポーンの効果発動。このモンスターが召喚された時、デッキの“スポーン”モンスターと入れ替える」
『何!?』
早とちりだったな、骸骨。
『そうか、召喚反応系のトリックカードはタイミングが厳密に定められている! そいつの能力は召喚時の一連の処理が終わってから発動するから、仮に何かしらのトリックカードを発動されてもその効果を踏み倒せるという訳か!』
「そういう事。今更やっぱ無し、は駄目だからな、くく」
意趣返しに言い返す私の前で、スポーンがむにむにと変化を始める。
これで変化した先がトークンに勝てないモンスターだったら笑い物だが、はてさて。見守る私の前で、変化を終えたスポーンは奇怪な触手をはやした肉塊となって起き上がった。これは、まああたりと言えばあたりかな。
「ミュータント・スポーンか。微妙な手合いだが、まあトークンよりはステータスが上かな。バトル、スポーンでトークンを攻撃!」
鞭のように振るわれる触手が、トークンを破壊する。まずはこれでボードアドバンテージを一つ、と。
大事なのはここからだ。相手がトリック偏重デッキなら、こちらの立ち回りが重要になってくる。
「これでターン終了」
『私のターン、ドロー!』
「この瞬間、スポーンの効果発動。こいつは毎ターン、デッキのスポーンと入れ替わる。今回は……スプリット・スポーンか。微妙だなぁ」
双頭奇形児のような姿になったスポーンに、肩を落とす私。ステータス的には、相手のトークンと相打ちするぐらいか。まあ、特殊能力もあるのだが。
『……ふん。私はさらに二枚のカードを場に伏せてターン終了』
「おや、動かないのか? 私の場のモンスターはトークンを呼び出せば倒せそうだぞ?」
『明らかに戦闘破壊したら分裂とかしそうな見た目ではないか。その手には乗らんぞ』
ちっ、流石に露骨すぎたか。大昔の将官だけあって、デュエル経験も豊富らしい。
『そしてターン終了時、第二の石板の効果によってデッキから“第三の石板《虚栄の宣告》”を発動! このカードは、私のトリックカードが発動した時、相手の手札に“オフィディアン・ストーン”を加える! そして次の私のターン終了時、新たに第四の石板を発動できる。そして第一の石板のカウントはこれで残り9!』
「……ふぅん?」
相手の手札に変なカードを追加する、ね。妨害系の効果か? だとしても、それだけでは意味がない。恐らく何かしら、他のカードと組み合わせてコンボしてくると思われるが……。
「私のターン、ドロー! ……そしてここで、スポーンが再び変化する。今度は……よし、サラマンダー・スポーン! あたりだ!」
まあ、相手の場にトークンがいないので、ダイレクトアタックするならステータスは関係ないのだが。
「……バトル! サラマンダースポーンでダイレクトアタック!」
『おや……追撃は……無いのか?』
『将軍様……召喚反応系……ばれてる……。動かない方が……いい……』
解説ありがとう根暗な観客の皆さん。その通り、相手がこっちの展開をばりばりに咎めているなら何もしないのが一番だ。三回殴れさえすればいいのならば、毎ターン一匹で殴ってても十分カウントダウンに間に合う!
『むぅ……?!』
なすすべなく、サラマンダーの攻撃を受ける骸骨将官。
さて、流石にこのままやられっぱなしとは考えられないが……。
『……私がダイレクトアタックを受けてライフを失った事で、トリックカード“アヌビスの報復”を発動!』
「やはり来たか!」
まあ流石に対応はしてくるよな! 一枚は分かっていてもまだ三枚も伏せカードあるんだし!
『アヌビスの報復により、私の場に“ストーカー・スコーピオン・トークン”を特殊召喚! さらに、第二、第三の石板の効果発動! 私の場にさらにスコーペクトークンを特殊召喚し、お前の手札にオフィディアン・ストーンを加える!』
相手の場に現れるのは巨大なサソリの化け物。ステータスは……上級モンスター相当か! ライフを失う代償としては充分なものだろう。
さらにサソリのモンスターも召喚され、加えて私の手札が気が付いたら一枚増えている。いつの間にか手に握っていた粘土板には、蛇のようなモンスターのイラスト以外何も書かれていない。文字通りのお邪魔カードという訳だ。
『さらに! 相手がドロー以外の手段で手札にカードを加えた事で、トリックカード“恩恵の調停”を発動する。これにより、私の場に“天秤アーティファクト”を設置する! また、さらに第二・第三の石板の効果発動!』
うげ。
一気に畳みかけてきた。
相手の場にでっかい黄金の天秤とサソリモンスターが追加され、さらに私の手札にまた意味のないカードが追加される。
『天秤アーティファクトがある限り、全てのプレイヤーは手札が6枚未満である時はカードを二枚ドローできるが、逆に6枚以上ある時、デッキからカードを引く事ができない!』
「そういう事か……!」
お邪魔カードの狙いはこれか! 相手の手札を意味のないカードで埋め尽くしてドローロックし、相手の反撃の手段を削いだうえで自分はばんばかトリックカードを伏せて相手の動きを完全に封じる! 膠着状態に陥らせて、カウントダウンの時間切れを待つ戦法か!
性格悪いな!!
『くくく……将軍様のコンボが完全に決まった……』
『あの女は……もはや砂地獄の獲物……』
ニタニタ笑いながら観戦している外野。もう、勝負は決まった、早くあの女を食べさせろ、といった感じだ。
さてさて。そう簡単に思い通りに行くと思うかな?
こっちは、『変化』デッキだぞ?
「バトルシーン終了……だがターン終了の前に、私は手札から“シャッフル・デーモン”を召喚する!」
『壁のつもりか? 愚かな……私はトリックカード“毒矢の石踏み”を発動!』
私が召喚したのは、青と白のストライプ模様の道化師のようなモンスター。しかし場に出るや否や、毒矢に撃ち抜かれて倒れ込み、さらに相手の場にサソリモンスターが追加され、手札にゴミが追加される。
『愚か……愚か……』
『蒙昧……』
結果的に状況は悪化したようにしか見えない。明らかにプレイングミスとしか思えない行動を、外野の悪霊どもが嘲笑う。
しかし。
「シャッフル・デーモンの効果発動。全ての場のモンスターの所有権を、ランダムに入れ替える!」
『……なんだと!?』
「はてさて、誰がどこに行くのかは私にも分からない。敵も味方も巻き込んで、楽しく大博打ってね!!」
私の言葉と共に、むくりと起き上がったシャッフル・デーモンが踊りだし、私の横までやってくる。それに応じて、青一色だった私のドレスも、白のストライプに変化して、互いに手を重ねてステップを踏んでるんたったとその場で回る。一周したところで、ぱちん、とシャッフル・デーモンがウィンクと共に指を鳴らした。
すると突然大きな箱がモンスター達に降り注ぎすっぽり包み込むと、よりあつまって場の中央でガチャガチャとシャッフルを始める。
結果、私と相手の場にそれぞれ、三つずつ箱が配られる。その中身は……。
「おやおやこれは、どうも」
『お、おのれ……ちょこざいな手をっ!』
私の場には、ストーカー・スコーピオン・トークン……長いな、デカサソリでいいか。それとサソリトークンと、シャッフル・デーモン。相手の場にはサソリトークン二体と、サラマンダー・スポーンが佇んでいる。
ちょうど三体三。トリックコンボの連打で稼がれたボードアドバンテージは、これで均等になった訳だ。
「残念だったねぇ。でもランダム要素によるものだから諦めてね、くく」
『おのれ、売女が……!』
あらら、ちょっと思う通りにならなかったかららって、売女呼ばわりはひどくないかね。まあ、言われたところで何にも響かないけど。
「さらに私は、手札から魔法カード“マジックアクセラレーター”を発動! 次のターンのドローシーンで、ドローできるカードが一枚増える! そしてこのカードによって蓄積する魔石カウンターは倍になる!」
これで、現在蓄積されているカウンターは四つ。ケー・クァールを召喚するための9にはとても届かないけど、他にもカウンターの使い道はある。
ただ、今私の手札には意味のないお邪魔カードが3枚もあり、合わせて六枚。このままでは天秤アーティファクトのせいでドローできない。
「私はカードを1枚伏せてターン終了!」
『私のターン、ドロー! ……む?』
骸骨将官がカードをドローすると、相手の場にいるサラマンダー・スポーンがもごもごと動き始める。変化の前触れに、しかし相手は困惑の顔をした。
『まさか、毎ターン強制なのか!?』
「もっちろーん。あ、それと、変身効果発動した時にデッキに“スポーン”モンスターが居ない場合、強制的に“ダスト・スポーン”に変化するので」
『は……?』
説明するより見るが早い。
もごもご動き始めたスポーンは、その場でぼこぼこと無秩序な変形をはじめ、最終的に黒ずんだ肉塊へと変化してしまった。
これが大外れ、何の役にも立たないスポーンのゴミ。
『ステータス……0……』
『攻撃宣言もできない……どころか……戦闘にも参加できない……?』
『壁にもならない……文字通りのゴミ……』
観客からもあきれ返った声が出る。
そしてそんな文字通りのゴミを押し付けられた対戦相手はいたくご立腹のようだった、当然だけどね。
『ふざけた真似をしおって……! 私は天秤アーティファクトの効果で二枚ドローする! バトルだ! スコーペクトークン二体で、お前の場のスコーペクトークンとシャッフル・デーモンを攻撃する!』
キシャア! と同じモンスター同士が激突し、対消滅。シャッフル・デーモンの方は毒矢で弱体化してしまってはどうしようもなく、あっさりと毒針に貫かれて消滅する。これで、場における実働戦力は一対一。ステータスはこっちの抑えているデカサソリトークンの方が上だが、油断はできない。
『私は二枚カードを伏せてターンエンド! そしてこの瞬間、第三の石板の効果により、“第四の石板 《吝嗇の追放》”を発動!! このカードが場にある限り、トリックカードが発動する度にフィールドに存在するトークンの数だけ相手のデッキを上からトラッシュに送る! そして、これで第一の石板のカウントは7だ!』
「私のターン、ドロー! 天秤アーティファクトの効果で二枚と、さっきのマジックアクセラレーターの効果でさらに一枚、ドローする!」
流石に3枚もまとめてドローすれば、この状況を何とかするカードは引けるはず。
そう見込んでデッキトップに指をかけた私に、骸骨将官の嘲笑うような声が飛んだ。
『私はトリックカード“盗賊の鞭”を発動! 相手がドローシーンに二枚以上のカードを引いた時、引いたカードを全てトラッシュに送る!』
「げっ」
伸びてきた鞭が私の指を叩き、衝撃に指が痺れカードを取り落とす。せっかく引いたカードが……。
さらに相手の場にサソリトークン、私の手には邪魔カードが四枚目。くそ、手札に抱えたままの最上級と合わせて全部で五枚、あと一枚でもトリックカードを発動されたらもうドローができなくなる。
「く……バトル!! ストーカー・スコーピオン・トークンで、スコーペクトークンを攻撃!」
『ふふふ……貴様がそうせざるを得ない事を、私は当然予想していたとも! トリックカード発動! “表出する内通者”! もともとの持ち主が私であるモンスターカードが相手の場に存在する状態で、相手モンスターが攻撃宣言時に発動できる、その攻撃を無効化する! そして、以降そのモンスターは攻撃宣言ができない!』
「な!?」
なんでそんなピンポイントメタカード……いや、違うか!
そうだ、あのトークンを呼び出すカードは、その召喚先が明記されていない! その気になれば相手の場にも呼び出せる……トークンの展開で抑えきれない高速ビートダウンや超重量級デッキのモンスターに対する対抗策か、これは!?
「く……そっ。他に出来る事はない……ターン終了だ」
『ふははは、そして、私の場にスコーペクトークンを新たに呼び出し、そして貴様の手札にオフィディアン・ストーンを加え、さらに! デッキの上から三枚を墓地に送る! くくく、どうだ、今の気分は? 手足を鎖で縛られ、刻一刻と近づく生贄の時を待つ気分は、実に爽快なものだろう?』
勝ち誇る骸骨将官。……そうだな。常識的に考えれば、ほぼ詰みに近い状況だ。
手札六枚の内、私自身のカードは二枚。相手の場には召喚反応系のトリックカードが控えているのが分かっている以上、ただモンスターを召喚するだけの事が大きなリスクを伴う有様。場には高ステータスのトークンモンスターがいるが、元は相手のカード、何か対策しているのは想像に容易い。
『くく……女には……もう何もできない……』
『数ターン待つ……それだけで……将軍様の勝ちだ……』
外野達が、もう待ちきれないよと言わんばかりに騒ぎ始める。
だが正直、問題なのはカウントではなく、場の方だ。
ドローを封じられた事で戦線の維持ができない以上、デカサソリトークンが排除され次第ライフを一気に削られる恐れがある。そっちの方が負け筋としては強い。
私はちらり、と場に伏せたカードに目を向けた。なんとかこれを使えれば……。
『まだ、手がある、という顔をしているな?』
「!」
『その希望が過ちである事を教えてやろう……私のターン、ドロー! 私は天秤アーティファクトの効果で二枚カードをドローする』
カードを確認する骸骨。その表情が、皮も肉もないのに、はっきりと嘲笑に歪むのが私にもわかった。
『……くくく、どうやら、神は、最も無惨な末路をお望みのようである! 私は手札から魔法カード“第五の石板 《生贄の血文字》”を発動する! このカードは、私のライフポイントを1減らす代わりに、第一の石板のカウントを5、進める!!』
カウントをいくらなんでも減らしすぎだろ。驚愕して目を見開いた私は、相手が高々と掲げる粘土板が黒い染みに汚れ、怪しげなオーラを纏っている事に気が付いた。
なるほど。闇のカードは一枚じゃなかった、という訳か。
『これで私のターン終了時、第一の石板のカウントは0となる! 伏して大いなる悦びに身を委ねるがいい……ターン、終了!! 終わりだ、小娘!』
骸骨の虚ろな眼窩で、赤い光が激しく燃える。
その声に応えるように、周囲の怪異が闇と共に一斉に押し寄せてくる。
『新鮮な血を……!』
『よこせ、女の肉……』
『食わせろ……!』
なだれ込んでくる怪物達。そのぞっとするほど冷たい指が私の腕に絡みつき、足を取り、のしかかってくる。
人食いの怪物の雪崩に押しつぶされる私の小さな体。視界を、汚れた怪異どもの灰色の手足が埋め尽くしていく。
全てが闇に閉ざされる最中。
私は、小さく唇を吊り上げた。




