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翠くんの気持ち【中編】

αとΩの同性の両親をもつΩに見えるαの楓は、幼い頃に助けてくれたヒーローの、αの両親を持つαに見えるβの翠初恋を拗らせていた。


※オメガバース作品ですが作者の個人的解釈が含まれています。

※今回、ヤンデレ表現ありますので注意して下さい。


※糖度高め版は、アルファポリスさんにて更新しております(年齢注意)


遠浅で深くはないけれど少し沖に出ていたからか、翠くんに見つめられていると、この世界には僕と翠くんしか居ないような錯覚に陥る。


その状況に僕も、翠くんもなんとも思って居なかった。


その異変にいち早く気付いていたのは、テントの中で休憩をとっていた先生だった。

僕たちが感じている静かな空間とは正反対に、砂浜では少しざわついている事は、僕はもちろん翠くんも気付いてはいなかった。


 僕が砂浜での異変を感じた時、空くんと先生が砂浜に居る人を誘導していた。

 そして、なぜか見たことがない形相のじいちゃんが、早く海から上がれとジェスチャーを送っているのが見える。


 僕たちが海からあがると水圧から解放されたからか一気に疲れが襲ってきた。

 翠くんを見ると日差しが強かったからか、顔が赤くなっていて、いつもの翠くんらしくない表情を浮かべている。


 そして何故か、じいちゃんと先生は僕から翠くんを引き離すと2人は翠くんを連れてホテルのほうへと足早に向かっていった。


 えっ……どうして僕から翠くんを引き離すの……


 今まで感じたことがない、制御できない黒い感情に飲み込まれそうになった時、僕の両頬をバチンと強く両手で挟んだ空くんが、真剣な目をして僕を見上げている。


「大丈夫だから!誰も楓から翠せんぱいを取ろうとなんて考えてない、大丈夫……っ……大丈夫だから、そのグレアを抑えてくれないか……」


 空くんの言葉に一瞬なにを言われたのか、分からなかった。


 今まで僕はαらしいと言われる事の経験がない。

 僕が、グレアを出しただって?


 今まではΩみたいだと言われていた……Ωにすら反応した事が1度もない僕がグレアを出したなんて信じられない。


 膝から崩れ落ちるという経験を、今はじめて僕は経験している。

 砂浜に崩れ落ちた僕に空くんは、大丈夫、大丈夫と言いながら僕のそばで寄り添ってくれている。


「なぁ……翠せんぱいってβなんだよな?」


 ぼそりと呟いた空くんに僕が頷くと空くんは腑に落ちない表情をしながらも、そうだよなと言った。


 翠くんの両親は共にα、翠くんの兄の緑もα、バース診断で翠くんがβだった時の話しを付き合ってすぐ聞いたから間違いない。


 もしかして、僕の知りえない何かが起きている?


 もしかして……僕が密かに望んでいた事が現実だったということ?いやいや……僕は翠くんからβと表記された医師のサインの入った診断書を見せてもらった。

 その時に僕の診断書も見せているから僕の思い違いではないはずだ。


 なら、この状況はなんなんだ……


 僕が落ち着くと、空くんにホテルに戻ろうと促された。


 テントや荷物などは、じいちゃんがホテルの人に話して届けててくれる事になっているとの事で、僕と空くんはシャワーで砂を流してから自分たちの部屋へと戻ることにした。



◇◇◇◇


 僕と翠くんの部屋に、翠くんの姿はなかった……


 僕の翠くん……どこに行っちゃったの……


 その瞬間、あの抑える事が出来ない感情に自分が乗っ取られそうな感覚に陥る。


 空くんが遠くで何かを言っている声が聞こえる。


 うっすら見える空くんは、僕を怖がっているのか顔がこわばっていて目には涙を浮かべているようだった。


 空くんに、そんな顔をさせてしまったと言う気持ちもあるけど……


 それ以上に僕の中には黒いものが渦巻いてゆく。


 僕の翠くんが僕の前から消えてしまった……


 会いたい、会いたい、会いたい、会いたい、会いたい


 翠くんどこにいるの……


 僕の翠くん……


 返して、返して、返して、返して、返して……


 ――誰が僕の翠くんを奪ったの……


 楓!楓!と叫ぶ空くんを後ろから先生が僕に近づかないようにおさえている。


 あぁ……もう空くんと今までみたいには、居られないのかな……それは凄く悲しいな………


 僕が……僕でなくなりそうだ……


 翠くん、翠くん、翠くん、翠くん、翠くん……


 僕の翠くん……どこに行っ……た?


 その時、入り口に居る空くん達の後ろに見覚えのある姿が目に入った。


 アイツが……翠くんを連れていった……?


 許さない、許さない、許さない、許さない……


 あのαが僕から翠くんを奪ったにちがいない、前から翠くんをみる目がおかしいと思っていたんだ。


 そう思ったときには、その人物に向かって走っている自分に気が付く。


「翠くんを返せ!クソ親父!」


 つぎの瞬間、僕の体は無惨にもくうを舞った……

そして背中に鈍い痛みを感じると、その人物によって僕のからだは、あっけなく拘束された。


「おぉ~い、何やってるんだバカ息子」


 にやにやと笑みを浮かべている父さんは、僕の身体の拘束をゆるめる気はないらしく、笑っているようで目からは感じたことがない鋭さを発している。


「いっちょ前にグレア飛ばして何やってるんだって聞いているんだ!」


父さんの強い口調に徐々に、自分が何をしていたのか頭がクリアになっていく。

みんなに迷惑をかけた……それなのに翠くんの事しか考えられない……


翠くん、翠くん、翠くん、翠くん、翠くん……


会いたい、会いたい、会いたい、会いたい……


僕の翠くんを返して……


「……翠くん……僕の翠くんを返して……」


 僕の力が抜けた声に父さんは、何故か苦しそうな顔をしながら、翠くんは今は休憩中だと言う。


「早く……早く……翠くんに会いたいよ……だって翠くんは僕の……」


「楓!」


 僕の言葉を打ち消すような父さんの強い言葉。

 なんで、父さんは泣きそうな顔をしているの?


 僕の腕を拘束している父さんの手がなぜか震えている。



「……翠くんに会いたいよ……」


「会わせてやる、だから……これ以上なにも言うな……」


 父さんの姿で気付かなかったけど、遥も居る。


 遠目でも分かるほどに涙でクジョグショな空くんを後ろから抱き締めている先生も腰が抜けているのか、いつもの冷静さは見てとれない。


「楓、もう大丈夫だよね?」


 そう言いながら遥が僕から父さんを、どかすと父さんに押さえ付けられていた手首を手に取ると、赤くなってると呟きながら、僕の体を優しく起こしてくれる。


 僕はなんて事をしてしまったんだ……


 大切な人や、見知らぬ人たちに迷惑をかけてしまった。


 自分では制御できない感情に振り回されてしまった。


 自分が自分ではなくなってしまいそうで……


 怖くなって遥に抱き付き誰にも顔を見られないように、声をあげて子どもみたいに泣いていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価とても嬉しいです♪


※前後編で書ききれなかったので前中後編となっています。

今回は翠くんあまり出てきませんでしたが次回は、ちゃんと登場しますので次回も読んで頂けると嬉しいです。

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