翠くんとお祭り【前編】
αとΩの同性の両親をもつΩに見えるαの楓は、幼い頃に助けてくれたヒーローの、αの両親を持つαに見えるβの翠に初恋を拗らせていた。
※オメガバース作品ですが作者の個人的解釈が含まれています。
空くんは、貴重品だけ持ってきてと言っていたけど……虫除けとか傷テープも必要かもしれない。
翠くんとお祭りに行くのは久々で、昨夜はあまり眠れなかったからか目の下にうっすらと影が落ちていた。
「楓、これ空くんのお母さんに渡して」
遥かに渡されたのは、お洒落な缶に入ったクッキー。
絶対に空くんは喜ぶだろうなと思うと遥は凄いと思った。
「楓、デートなんだろ?楽しみすぎてハメを外すなよ」
ニヤニヤしながら俺を見てる父さんに、うるさいと返すと家を出た。
空くんのお母さんのお店は、空くんの家と僕の家の中間で歩いてもそんなに時間はかからない。
赤いドアを開けるとカランカランとベルが鳴るのが面白い。
「楓くん、待ってたよ」
空くんとは正反対な、ふわふわとした風貌な空くんのお母さん、小柄で可愛いかんじなのに空くん曰く怒ると鬼になるらしい……本当かな?
「髪が終わったら浴衣を着付けるね、先にすると髪が崩れちゃうから……それと、いつも空と仲良くしてくれてありがとね」
そう言いながら笑う顔が空くんに似てて、やっぱり親子だなと思った。
空くんのお母さんに、クッキー缶を渡していると、奥の席で空くんが僕のことを呼んでいた。
「楓、遅かったじゃんか……って目の下の隈ヤバくない?」
そう言いながら僕の顔に触れるけど驚くほどドキドキしない、翠くんに触られただけでドキドキが止まらないのに、翠くんと比べる事ではないと分かってるけど……
そんな事を考えていると、空くんに椅子に座るように促されられた。
僕にケープをかけると空くんの眼差しが、いつもの空くんっぽくなくて驚いた。
「――楓はハーフアップが良いって言ってたけどさ、和装だしアップの方が良いと思うんだよな……楓が嫌ならハーフにするけど……」
空くんに言われて僕は空くんに任せると言うと、了解と言いながら僕の髪のセットを始めた。
空くんの手によって、だんだんと華やかな髪型へと変わっていくのを見るのは楽しかった。
――僕っぽくない……自分で言うのも何だけど綺麗だなと思った。
「なぁ楓、メイクとかって抵抗ある?」
抵抗あるとは言いづらいけど、爛々と輝く空くんの眼力を見れば、断ることは無理そうだった……やったことないから分からないと言うのが精一杯だった。
なら……やってみようぜと満面の笑顔を見たら頷くしかなかった。
「目の下の隈が、すげぇ気になっちゃってさ……きっと夜寝れなかったんだろ?楓は素顔でも綺麗だけどさ……今日は特別な日だろ、完璧に仕上げようぜ」
そう話すと、その後は空くんは一言も話さなかった……
――出来た……
空くんの声に目を開けると、満足気な空くんの顔が目にはいってきた。
空くんが移動して鏡に映る僕が目にはいると、本当に自分なのかと驚くほどに別人のようだった。
「――空くん、ありがとう……」
空くんは、今日は頑張ってこいよと背中を叩いた……いつもより優しく感じたのは間違いないと思う。
「――空、まだ時間かかりそう?」
空くんのお母さんが来て僕を見ると、何度も綺麗と連呼され凄く恥ずかしかった。
「――あっ、そんな事をしてる場合じゃなかった、そろそろ着付けないと待ち合わせに間に合わなそうだから、こっち来て」
奥の部屋に通されると、あの時に選んだ浴衣が用意されていた。
「この浴衣、綺麗な色味だよね……お兄ちゃんが買ったのだけど……薄顔だから負けちゃって1度も袖を通してないから楓くんに着てもらえて嬉しい」
そう言いながら手際よく着付けてくれた。
凄く似合ってると言ってもらえて、僕はありがとうございますとしか言えなかった。
空くんが小物やバックまでも用意してくれて、そのまま神社まで行けそうだった。
空くんのお母さんがさすがに靴だとね……と言いながら用意してくれたのは雪駄だった。
下駄よりは歩きやすいはずと言われて、色々と考えてくれた空くんに感謝でしかなかった。
「――空くん!」
片付けをしている空くんに声をかけると、振り向いたままの体勢のまま固まった……
「空くん、靴は明日とりに来ていい?」
僕が声をかけると、空くんはあっと言うと動き出した。
「楓マジで色気ヤバすぎるだろ、俺も驚きすきた……靴は楓の家に届けておくから気にせずに翠先輩と楽しんでこいよ……って時間はマジでヤバい」
そう言いながら入り口の外まで空くんは見送ってくれた。
「楓、頑張ってこいよ!」
空くんの顔を見たら、泣きそうになった……
「――楓……泣くなよ、メイクが崩れる……そうそう巾着のこと中に、傷テープとか諸々入ってるから何かあったら使ってな」
そう言いながら手をふる空くんに手をふりかえし神社へと向かった。
*****
――あっ……あそこに居るのは翠くんだ……遠目で見ても格好よくて顔が緩む。
約束の時間より早く来てくれたのかな?またせちゃったかな?と思いと足が無意識に早くなるのを感じた。
――翠くん!
僕の声に振り向いた翠くんの目が大きく開いた……
「翠くん、待たせてゴメンね」
翠くんは僕の頭に手を伸ばしたけど、僕に触れることはなかった。
「――せっかく綺麗なのに触ったら崩れそうだな……俺の為に浴衣着てくれたって自惚れてもいいの?」
アッ…アッ……翠くんの上目使いの破壊力に言葉を発するのが出来なくて、僕はただ頷いた。
「そっか……ありがとう……」
そう言うと翠くんは僕の手を引いて、歩き出した。
僕が靴を履いてないことが分かっているからか、ゆっくりとしたペースで歩いてくれる……
前を歩く翠くんの耳が赤くなってるのに気付くと……変な声が出た……。
翠くんと繋いだ手は、あの頃と同じ大きくて、あったかくて……
「翠くん……ヤバいよ……翠くんの事が好きすぎて……好きが大渋滞してるよぉー」
翠くんは、ふふっと笑うと、それは大変だな事故は起こすなよと言いながら繋いだ手に力がこめられた。
翠くん、なんか話してくれないかな……間がもたないよ……
しばらく無言が続いたけど、不思議な事に嫌だとは感じなかった……
懐かしい場所を、のんびり回っていると翠くんが何かに気が付いたみたいだった。
「楓、あの金魚屋のおっちゃん昔から居るよな……俺らのこと覚えてるかな?」
目の前に見える金魚すくいの屋台、おっちゃんは僕のことを他の子と変わらず接してくれた……
「行ってみよう!」
翠くんと……目があった……子供の頃と同じキラキラした目をしながら僕の手を引いた。
――ッ……そんな顔を見せられたら嫌って言えないよ……嫌というつもりも無かったけど……
なんだか、昔にもどったみたいで顔がほころんだ。
「おっちゃん、俺らのこと覚えてる?」
翠くんが話しかけると、おっちゃんは目を細めながら忘れるわけないだろと笑っていた。
僕が翠くんの背中から顔を出すと、ずいぶんと大きくなったなと言ってくれた。
おっちゃんとすこし話をして別れると、翠くんが僕の隣を歩いてくれた。
凄く些細なことだったけど嬉しくて、繋いだ手をブンブンふると翠くんが子供の頃みたいだと笑っていた。
「楓、何か食べよう」
翠くんに言われて考える間もなく言葉が出た。
『りんご飴』
2人の声がハモって、僕と翠くんは顔を見合わせて笑った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回、甘い話しになる予定でしたが長くなってしまったので、前後編で次回が今回よりイチャイチャ回となります。
よろしければ次回も読んで頂けると嬉しいです。




