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97. 鈍い男

 マグダリーナは一旦部屋に戻って入浴し、夏キャンプの汗を流す。


 貴族令嬢の衣類はなるべく肌を見せないデザインとはいえ、流石に夏場は袖に風通しがあったり、未成年の間は肩を出したりする衣裳も許された。幸い前世の日本ほど蒸し暑くもない気候は、窓を開けて風を通すと、それほど熱苦しさもない。


 そういえばキャンプの間着ていた、夏の運動服は動きやすく、汗をかいてもサラリと快適だった。何の素材か聞いても良いだろうか。


「リーナお姉さま、ご準備できましたか? 一緒に領主館まで行きませんか?」


 部屋のドアがノックされて、アンソニーの声が聞こえる。


「ええ、今行くわ」


 マグダリーナがドアを開けると、ライアンとレベッカも揃っていた。



 領主館のサロンではブレアとドーラが冷たい飲み物を楽しみながらシャロンやダーモットと談笑している。


 エステラとその家族たちは、既にサロンの方にいて、妖精熊のかっぱらい品の中にあった魔導具が安全か確認しているらしい。


 ふわりと転移魔法の輝きと共に、デボラとヨナスが現れた。


 その姿に、皆んな息を呑んだ。


 デボラはいつもの茶色の地味な服と違い、淡いたまご色の上品で艶のある、薄手のニット生地のAラインのロングワンピースを着ている。


 ……しかも裾が片側だけ上がったアンシンメトリーなデザインで、裾から腰にかけて、赤とオレンジの花の刺繍が施されていた。

 袖は透けるほど薄い別布で、肩の出るデザインになっている。

 因みにハイエルフ達は貴族ではないので、成人女性の肩出しは淑女判定で減点されない。


「うわっ、デボラ、すっごく可愛い!!!」

 マグダリーナは大絶賛した。


 何より上がった裾からチラリと見える足元は、赤い花柄の、足の形にピッタリそった薄い五本指の靴下に、華奢なサンダルだった。


(まさか軍足で、ここまで色っぽく感じるとは……!)


 この国の肌見せタブーの。ぎりぎりまで攻め込んだ姿といっていい。


「へ……変じゃないかな? あ、服はね、エステラ様が作ってくれたからとっても可愛いと思ってるの。でも私、こんな可愛い服初めて着るから……」


 もじもじしてるデボラを、わっと女性陣が取り囲んだ。


「とっても似合っていてよ。精霊が舞い降りたのかと思ったわ!」

「この布地、どれも初めて見るわ。それにこの織り方……まさか編んであるの?」

「まあ、もしかしてヨナスもお揃い?」


 ヨナスも同じ布地で青竹色のチュニックに同じ色のズボンを履いてる。体型に合わせて、ストンとしたIラインのチュニックだが、ズボンの裾は薄布のフリルが段になって付いていた。


 彼の刺繍は青い花と緑の葉のローズマリーだ。


 ヨナスは肩を竦めた。

「下着まで全部一新されたよ。これ絶対普通じゃない布だよ。着てると妙に精素や魔素の廻りがいいんだ。多分君たちの運動服も同じもの使ってると思う」


 ブレアもヨナスの服を眺めて、触らせてもらう。

「知っている植物の糸のどれとも違うな……ショウネシーと縁が出来てから、面白いことばかりだ」


 目を輝かせているブレア老を見て、ドーラも嬉しそうに微笑んだ。



 ピロンと領民カードから音が鳴る。冒険者ギルドから魔獣素材の売却金が振込まれた音だ。


「熊たっか……!」

 明細を見て、ライアンが呟く。


 一頭丸ごとで金貨十枚、百万エルだ。四つ手熊の討伐者が居なくなると困るので、この金額だ。


 今回実は四十体倒した。ゲインズ領でだ。活動期だとしても数が多く、やっぱり妖精熊を狙って移動して来たのだろう。


 他にも狼や猪も倒したのだ。


 冒険者ギルドに売ったお金は、参加メンバーで均等割。割り切れない分は領に寄付。この決まり事でのキャンプだったが、現在それぞれの口座には所得税を引かれても最低でも二百万エルはあるはずだ。


 因みにショウネシー領の税は三割。一般的な国内の税率が四割らしい。しかもショウネシー領は、生活必需品の物価が安いので、領民から不満は一切出ていない。


 ショウネシー領の物価の安さの秘密は「マゴーの人件費0エル」だからが大きい。


 この世界、工場で大量生産というのは存在しない。基本職人の手作りの物ばかりなので、どうしても物価は高くなる。


 魔法でなんでも大量にこなしてくれるマゴー達のお給料が必要ないというのは、とてもありがたかったし、彼らの魔法のおかげで設備投資という大きな問題も解決している。


 他にもエステラの魔法技術で支えられてるインフラ系の恩恵も大きい。



 アーベルがハンフリーを連れて戻って来たが、デボラを見て視線が止まった。


「……っ、デボラ、その格好は」


 次にアーベルが言葉を紡ぐ前に、エステラが転移で現れ、思い切りアーベルの鳩尾に頭突きした。


「エステラ、そんな魔力の乗ってない頭突きでは、痛くも痒くも無いぞ」


 エステラはヨナスに似たズボン有りの服を着ている。チュニックは裾の広がるAラインだ。


「いいの! ショウネシーにいるデボラは、もう何を着ても、おしゃれしてもいいの! だって皆んなで守ってあげれるでしょう?」

「あ……ああ、ああ、そうだな」


「だったら、デボラにいう言葉は?」


 アーベルは改めてデボラを見た。


「綺麗だな、デボラ」

「あ……ありがとう……」


 ぱぁっとデボラの頬が赤く染まり、照れながらもなんとかお礼をいう姿に、マグダリーナ達はピンと来た。


「エステラ、もう広間に入っていいの?」

「ええ、そう思って呼びに来たところに、野暮なこと云いそうな朴念仁がいたからつい……」


 マグダリーナはエステラの肩をポンと叩いた。

 ヨナスもすっとエステラの側に来て、低い声でエステラに囁く。


「エステラ様、ハイエルフに効く媚薬作ってよ。アーベルのあれは花は綺麗だなくらいの気持ちだから」


「「マジで?!」」


 マグダリーナとエステラのハモリに、ヨナスは頷く。


「僕が何百年、全く進展しない様子を見てきてると思ってるの?」

「媚薬……いざと云う時の為に考えて見るわ」

「期待してるから」

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