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93. 魔法と蜂蜜

「じゃあそろそろ、ルシンお兄ちゃんとフェリックスさんの領民カード作りにいこっか。きっと今頃ドーラさん達の内覧も終わってるんじゃないかな」


 ドーラとブレアのバークレー夫妻はマゴーとグレイの案内で、住む家を選びに行っていた。


 各家やコッコ車等にあるアッシで、領民カードを使って各種申請や口座開設は出来るが、カードの発行自体は役所でないと出来ないことになっている。


 途中でバークレー夫妻達を拾うことを考えて、エステラのところの自家用魔導車で役所まで移動する。


 バークレー夫妻の荷物を魔法収納で預かっているマグダリーナ達も同乗し、収納魔法の使えないライアンとレベッカも手伝う気で運動服に着替えて一緒にいた。


 魔導車には、ルシンもフェリックスも驚いていた。窓から見えるショウネシーの街並みや景色の美しさ……そういったことに驚くフェリックスの隣で、ルシンがブツブツ呟いている。


「あの信号機とかいうの、日照量や雨量やら他にも色々測定機能がついてるな……ああ、天候の予測か……それに建物それぞれから魔力の気配がする……そもそも土地から女神の森と同じ精素を感じるし」

「いいところでしょ?」

 エステラがルシンに笑いかける。


「それが分かるのが、エデンのおかげだと思うと悔しいが」

「んははは、パパと呼んで良いんだぞ」


 助手席から振り返り、エデンが得意気にエステラとルシンを見る。


 ルシンは綺麗に流した。


「そういえば、ディオンヌと一緒にいたハラと、白のと一緒にいたモモはともかく、精霊獣はもう居ないはずだけど、そのスライムは何?」


 ルシンはヒラを指したが、エステラは心ここにあらずな様子で目を泳がせている。


 ルシンはエステラをじっと見た。


「いるのか、他にも精霊獣が」

「お師匠が造った子達が……」


「……まあいい。で、そのスライムは精霊獣でもない普通のスライムなんだよな?」


 マグダリーナ達は、このやり取りに既視感を覚えて、そっとヒラを見る。


「普通じゃないわ! とっても綺麗で可愛かったから従魔にしたんだもん」

「ヒラはぁベビーぃのころから、可愛かったんだよぉ」


 ぽよんとエステラの首元に来て、甘えん坊スタイルでヒラはぷるんぷりんと揺れる。モモも真似して、反対側の肩でぷりんぷるんと揺れ出した。


 ハラはルシンの肩に乗って、にゅっと身体を伸ばすと、ルシンの額に自分のそれを重ねて、ピカピカ光った。よくマゴー達がやってる情報共有ににているから、そんな感じの魔法なんだろう。


「ああ、なるほど。よく分かった。ありがとうハラ」

 ルシンは背もたれにもたれて、目を瞑った。


「大丈夫? 情報量多くて疲れたんじゃない?」

 アンソニーとレベッカが淹れてくれた紅茶を、マグダリーナはルシンに渡す。


「すまない……君たちはこうやって紅茶一つ淹れるのにも魔法を?」


 マグダリーナはフェリックスにも紅茶を渡し、頷いた。


「魔法は毎日使ってこそ上達するっていうのが、エステラの教えだもの。私は料理は苦手だから、他の方法で練習してるけど。あ、蜂蜜入れた方が疲れが取れるわ」


 マグダリーナは魔法収納から蜂蜜の瓶を出した。これはサトウマンドラゴラの畑の側に置いた巣箱で取れた蜂蜜で、採取量的に普段使いに丁度良い。



 妖精蜂は不思議な魔獣で、敵意がなく、共存を望むものには友好的だった。


 巣箱と瓶を置いて、蜂蜜を分けて欲しいとお願いしておくと、瓶の中にたっぷり蜂蜜を入れてくれる。蜜蝋を作りたいと言えば、巣の一部も入れて分けてくれる。蓋が閉まってるのにだ。


 お礼に巣箱をととのえるの魔法で、なんか良い環境にしてあげると、喜ばれ、質の良い蜂蜜を惜しげなく分けてくれた。

 特に蜜蜂の天敵でもある熊を倒したことのある、マグダリーナ達は好かれていた。



 フェリックスが蜂蜜の瓶をしげしげと眺め、尋ねる。


「この蜂蜜と言うのは、この国なら何処でも取れるのか?」

「何処でもってことはないですよ。商業として成り立ってるのは、大きく魔る蜂の養蜂に成功してるジンデル領と辺境伯領に近いオーズリー領の水蜂の蜂蜜で、ランバート領と辺境伯領も蜜蜂は居ますが、蜂と巣を狙う熊も多いので、養蜂は難しいんです」


 ライアンが完璧な返答をする。


「この国でも貴重なものを、俺達みたいな、ど」

 奴隷と言いそうになり、フェリックスは言葉を切る。もう自分のことを奴隷と言ってはいけないとハンフリーに言われていたからだ。


「んんっ、平民に軽々しくしく与えて良いのか?」


 マグダリーナは微笑んだ。


「良いのよ! 私達にこういうものを与えてくれるのは、平民のエステラと領民の皆んななんだもの」



「エルロンドは森林の国だと書物にありましたが、蜂蜜は取れないんですか?」

 アンソニーが興味深々にたずねる。


「エルロンドの森には人や獣を襲う毒蜂は居るが、蜜を作る蜜蜂は生息してない。あの国の上の連中は、何故かこの国の蜂蜜を欲しがるんだ。甘味なら樹液から取ることもできるのに……」


 フェリックスがそういうと、エステラが面倒くさそうな顔をした。


「それじゃあ、この国に教会と教国人が居なくなった今、入手手段が絶たれちゃってるわけね……変なこと考えてないと良いんだけど」

「たかが蜂蜜だろ?」

 ヴェリタスは不思議そうに聞き返す。


「植物から取れる糖と違って、蜂蜜の糖は身体に負担なく、直ぐに身体や脳を動かす燃料になってくれるのよ。特に魔法使いは燃料消費も激しいから、蜂蜜は毎日取った方がいいの。健康面以外にも、魔力の器を徐々に大きくしてくれるとか色々あるし。あと今の大陸で蜜蜂がいるのは、女神の森と近接してるこの国だけね」


 そういえば初めて会ったエステラが、マグダリーナに飲ませてくれたものも蜂蜜水だった。蜂蜜は魔法使いの必需品だったのか。


「この国の貴族が糖度の高い砂糖菓子を食べるのも、魔法を使うから糖分を補う為というのもあるのよ。それに蜂蜜は大抵の魔獣や精霊も好物なのよ」

「ああ、だからレベッカが小精霊を集めるのに蜂蜜を使ったのね! 花水もなんとなくわかるわ。でもスライムコラーゲンって?」


 マグダリーナは、エステラの横のヒラを見た。


「そこは創世の女神の神力と関係ある物ならなんでも良かったのよ。丁度ヒラとハラは女神の精石を持ってるでしょ? この子達が造ったコラーゲン液なら他の材料とも混ざりやすいと思って」

「すごいのね、ヒラとハラって」


 マグダリーナはエステラにくっついているヒラを指でぷにゅうと押す。


 いい弾力だった。

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