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92. 精霊獣

 ハイエルフの面々は、ルシンの治癒と記憶の奇跡を寿ぎ、改めて挨拶すると、それぞれの職場に、転移魔法で戻ってゆく。


 最後にヨナスが、分厚い本を見繕っておくとエステラに伝えて去った。


 アーベルは残っている。


 アーベルは残っていた。


「熊なの?」

 マグダリーナが、アーベルに聞く。


「いや、シャロン殿達はこれから訓練を開始するところだからな、熊はもう少し後だ」


 そのシャロンだが、昨夜のお肉について王宮から呼び出しがかかったので、ダーモットと一緒に出かけている。

 生誕祭の後で王宮も大変だろうに……


「リーン王国とエルロンド王国では生活文化がかなり違うと聞いている。余計なお世話かも知れないが、フェリックスには色々こちらの常識等を授けて置いた方がいいと思ってな」


 ヴェリタスが、パチンと指を鳴らした。

「わかった。俺がエステラにパチリとやってもらうみたいにか?! えっと、伝授だっけ?」

「ああ、誰がするかクジをして、俺が当たりを引いた。早速やって構わないか?」


 フェリックスは訳もわからず視線を彷徨わせるが、ハンフリーが頷いたので、覚悟を決めた。

「た、頼む」

「任された」


 アーベルの大きな手のひらがフェリックスの額に翳されると、バチっと魔法の光が走り、頭部を包んで吸収された。

「……っ、」

「安心しろ。その頭痛は二、三分程で治まる。もっと魔力の器が大きくなれば、次からは頭痛も無くなる」


 アンソニーがルシンに尋ねた。

「そんなにエルロンド王国とリーン王国は違うんですか?」


 ふむ、とルシンは考えこんだ。

「そうだな、俺はまだこの国はよく知らないが、エルロンドに風呂はなかったし、用を足すのも立ったまま……それにこんなに床は綺麗ではないな。だいたい男ばかりで、基本的に臭い。貴族の屋敷はそれより少しはマシな程度だ」


 マグダリーナとレベッカは顔を見合わせた。


 エステラがため息を吐く。

「人より長命な種族なのに、なんで下水道とか生活の向上面が発達してないのかしら」

「そういう発想をする、まともなエルフの殆どが国を出て行くからさ」

 エデンが肩をすくめた。


「そういえば、ハラはモモちゃんの正体が分かったって云ってたわね。モモちゃんが精石を持ってたのと関係あるの」

 エステラは思い出して、ハラを見る。


 ハラは頷いた。

「モモはルシンが造った精霊獣なの」

「ああ、だから知らない魔獣だったのね」


「精霊獣って?」

 マグダリーナがエステラに聞く。


「前にエデンが創世の話をした時、ハイエルフは女神とハイドラゴンと共に草木や獣を造ったって云ったじゃない? 彼らがその為に最初に作った原型……みたいなもの……かな。中にはお試しとして造って、種として定着しなかったものもある。モモはきっとそのパターンね。因みに原型より劣化したとはいえ、ウシュ帝国滅亡も乗り越えて、広く多く大陸中に広がった種の代表がスライム! そしてその原型たる精霊獣がハラよ!」


 ぷるぅんと、ハラはツヤとテリのある、魅惑のスライムボディを見せつけた。イケメンパウダーならぬイケスラパウダーな光の粒が弾けた。


 ルシンが目を瞑り、記憶を辿る。

「ああ、思い出した。ハラ。ディオンヌが初めて造った精霊獣で、特別可愛がってたやつか。モモは俺が最後に造った精霊獣だな……想定外の進化をしてるから、直ぐに分からなかった」


 ルシンがそっと手を伸ばすと、モモがその腕にぽよんと飛び乗る。

「白のが、密かにディオンヌの側にいるハラを羨ましがってたから、小さな竜を造ったんだ。そうだ……生まれたばかりだった。形を与えただけで、まだ能力と名を与えるまもなく、俺はお前を精石と一緒に白のに託して精霊化したんだ。なんでワイバーンの卵の中にいたんだ?」


ピィルルル ピュルルル


 モモはスライムの姿のまま、小鳥のように鳴く。綺麗な声だ。


「モモはねぇ、ずっと白のおじちゃんの造った揺籠の中で寝てたんだってぇ。でもおじちゃんにルンをリーン王国に連れてけって云われてぇ、すぅごく怖かったけど頑張ったんだよねぇ。偉いねぇ。抵抗せずにぃ、すぐ子分になったもん、賢いねぇ」


 ハラの横でヒラがモモの通訳をする。


「今の二鳴きのどこに、それだけの情報があった? あとルンってなんだ」


 ルシンのツッコミに、ヒラは当然のように、にゅっと手を出して、ルシンを指す。

「ルン!」


 ルシンはなんでそうなるという顔をして、片手で目を覆った。

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