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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
五章 白の神官の輪廻

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91. ルシン

 エステラは杖を握りなおす。


「額の精石の代わりは、女神の精石の中から選ぶかな」


 その一言を聞いて、モモがぷるぷる震えて、ぽんと美しい桃色の石を吐き出した。


「ん?」

「タラぁ、モモがぁ、これを使って欲しいってぇ」


 とててぽ、とモモの出した石を、出し入れ自由な両手に乗せて、ヒラがエステラに渡す。


「え?! これハイエルフの精石じゃない!? モモちゃん何処でこんなの拾ったの?」


 モモえらい! 良い子だねぇと、モモをナデナデしてるヒラと対象的に、ハラはエステラの側に来て、じっと桃色の精石とモモを見比べた。


「ハラ、モモの正体わかった。エステラ、大丈夫だからその精石使って!」


 エデンとニレルも桃色の精石を、じっと見てる。


「エステラ、俺達にもソノ石を見せてくれ」

 エデンがエステラに手のひらを差し出す。


「大丈夫ぅ? エデン変なことしない?」

「大丈夫だよ、僕がちゃんと見張ってるから」


 ニレルがそう言うので、エステラは渋々渡す。

 この石を見てから、エデンの口の端が上機嫌に上がっているのが、気持ち悪いのだ。


「ああ、こいつは間違いない」

 エデンは桃色の精石を確認すると、笑みを深めてルシンを見た。

 ぞわりと悪寒を感じて、ルシンはエデンから離れるように、身じろぎする。

 エデンは桃色の精石をニレルに渡すと、ルシンに近づき、じっくりその姿を眺め回す。


「なんだ」

「ンっはは! 気が変わった。キミも可愛い俺の息子……ということにシてあげよう!」


 エデンの態度の変わりように、エステラは目を丸くして、ニレルを見た。


「どういうこと?!」


 そっと、ニレルはエステラに桃色の精石を、渡す。

「さて。引きが良いのはエステラなのかな、それともルシンかな。エデンだと何となく嫌だから、二人には頑張って欲しい」


 エステラは唇を尖らせて、むくれる。

「私には教えるつもり、ないのね」

「彼の治癒が終わったら、全部話すよ」

 ニレルは長い指をそっとエステラの頬に滑らせて、優しく撫でる。


「ん。わかった」

 エステラは身を翻して、エデンを押し除けると、ルシンの手の上に桃色の精石を乗せる。


「軽く握ってて」

「わかった」



 女神の杖を持ったエステラの身体が淡く光に包まれ、濃い魔力がその身を包む。その髪が、衣服の裾が、風も無いのにふわりと揺れはじめる。やがて星のように幾つのも小さな光が瞬きはじめた。


 その姿を、ルシンもフェリックスも声を失くして見つめる。


「我創世の女神の名において、奇跡を求めん。彼のもの、あるべき命の姿に疾く戻し給え!」


 ルシンの全身が青白い光に包まれた、その瞬間――



「我創世の女神に願い奉る」



 エステラの背後で、艶のある男の声が響く。彼の持つ漆黒の杖は既にルシンに向けられていた。


「彼の者の魂の記憶を蘇らせ給え」


 ルシンを包む青白い治癒の光が、エデンの放った魔法が重なった事により、紫の輝きに変わる。


「エデン!!!」

 エステラは抗議の声を上げたが、エデンは立てた親指でルシンを指し、無言で目を離すなと言っている。


 光の中でルシンは、額を押さえて、苦しげにその身を捩る。

 耳が長く尖り、治癒の方は上手くいっている。


(やっぱり本人同士の同意のない、精石の引き継ぎだから上手くいかなかったの!?)


 エステラがディオンヌの精石を引き継げたのは、ディオンヌが望みエステラが受け入れたからだ。

 例外はあるが、ハイエルフの精石は軽々しく他人が物にできるようには、なっていない。


「ルシン!!!」


 エステラがその名を呼んだ時、ルシンは額から手を離し、目を開いた。

 瞬間、せっかく散髪した髪が、水が流れるように伸びていく。


 しかし、魔法の輝きが収まった後に露わになったその髪の色は、元の漆黒ではなく、ニレルやエルフェーラと同じ、輝く白銀に近い白金髪だった。


 治癒魔法の効果で健康状態も良好になったルシンが顔を上げると、艶のある褐色の美貌が露わになる。


「ルシン、大丈夫!? 痛い所とかない?」


 泣きそうな顔のエステラの頭を、ルシンはそっと優しく撫でた。


「大丈夫だ。エステラ様の治癒魔法は完璧だった。黒の神官が余計なことをしたせいで、少し記憶が混乱してるだけだ」


「黒の神官……? ルシン、貴方……」


 ルシンは頷いた。

「魂の記憶……生まれ変わる前の記憶を引きずり出された。俺は前の世でもハイエルフで、ウシュ帝国の滅亡の時に、肉体を捨てて精霊化した。始まりのハイエルフの一人、白の神官『ルシン』」




 エステラがふらつき、テーブルに手をつく前に、ニレルとルシンが支えた。


 どうやらルシンが大丈夫だと確信出来るまで、短い間だがかなり心に負荷が掛かっていたようだ。


 マグダリーナはルシンの正体よりもエステラの方が気に掛かり、いつのまにか側に控えていたマーシャとメルシャに、エステラの為のサトウマンドラゴラ茶と女神の光花の蜂蜜をお願いする。今更ショウネシー領にハイエルフが増えようが、魔獣が増えようが、大したことではない。


「すまない。僕の配慮が足りなかった」

 ニレルがエステラに詫びる。


「ニレルはルシンが、お師匠の双子の兄さんの生まれ変わりだってわかってたのね」


「あの桃色の精石は、白の神官だったルシンの物だった。触れると精石が今のルシンと同調をはじめたのがわかったから、問題なく身体に馴染むと判断した。その状況から導き出される答えは、彼と『ルシン』が同じ魂だと言う事。既に精石が同調をはじめていたから、治癒を優先して、落ち着いてから話そうと思っていたんだ」

「ん、わかった。余計な事したエデンは帰ったら正座。上に何冊本が乗るか記録に挑戦するから」


 エステラはマーシャから、サトウマンドラゴラ茶を受け取り、香りで落ち着いてから蜂蜜を入れる。


「オイオイ、俺はハイエルフの長老として、当然の事をしたまでだ。エルロンドで生きた記憶だけより、ハイエルフとしての生き方を受け入れ易いだろう? 何より魔法をもう一度覚えなくて済む。しかも女神の名も覚えているし、今後色々頼りになるだろう? どうだ? イイコトづくめじゃ無いか。ん?」


「確かに今の状態の方が、エステラ様とニレル様の力にはなれる」

「「様は要らない」」


 呟いたルシンに、エステラとニレルの声が重なる。


「しかし……」

「命令、命令」


 エステラはひらひらと手を振った。

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