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88. 桃色星竜

「あっ、ヒラ、なんでハラと張り合うみたいに、そっちの人にも食べさせてるの!」


 慌ててエステラはヒラを側に寄せた。


「だってぇ、タラとぉ、とっても近い血のにおいだからぁ、ヒラはお腹いっぱいにしてあげたかったのぉ」


 エステラが驚くより早く、ニレルが褐色肌の青年の漆黒の長い前髪をかきあげる。


 エステラと同じ紫の左目、エステラとは違う金の右目。額には、何かを抉り取ったような傷があった。


 さらに横の髪を上げると、現れた耳には、明らかにエルフの、ハイエルフの特長である長く尖った耳の部分だけを切り取った跡があった。


「なんてひどい……」


 デボラが震えた。

 エステラも泣きそうな顔をした。


「あなた……さっき私を見て母さんの名前を呼んだわね……どうして……」

「母さん……」


 褐色の少年はそう呟くと、しっかり目を見開いてエステラを見た。その瞳から、つ、と涙が流れる。


「すべて話して主人を変える。ただし、俺の主人は君だ。他のやつには従わない」

「なんで?!」


 ヨナスが少し困った顔で、エステラの袖を引っ張った。


「鑑定。落ち着いて鑑定して」


 エステラは深呼吸して、褐色の青年を見た。


 それから頭を抱えて、呟いた。


「……ン。貴方の名前はルシンよ! それから私の命令は絶対だから」

「承知しました」


 エステラはルシンの奴隷の呪縛を解くと、捕縛の呪文も解いて、整えるの魔法をかける。


「いい? ルシン、これから私たちは一緒に暮らす家族になるの。困ったことや心配ごとがあったら、私やニレルに必ず言うこと!」

「ではさっそく。ご主人様の名を教えて下さい。それから、ニレル様とは?」


「エステラです。それからニレルは彼」


 エステラは順番にそれぞれ紹介していこうとするのを、エデンがとめる。


「こういうのは、まとめてやった方が、面倒がなくていい」


 エデンは、もう一人の青年の奴隷の呪縛を解いてやると、杖を出してハンフリーを呼んだ。


「どうしたんだい?」

「コイツに名前をつけてやって欲しい。エルロンドのハーフ奴隷には名前がないんだ」


 ハンフリーは少し考えて。


「フェリックスと言うのはどうだい? 君のこれからの人生に、多くの幸運があるように」


「フェリックス……俺の名……」

「気に入ってくれたかい?」


 フェリックスの名を与えられた青年は、自然とハンフリーに跪き首を垂れた。


 そこにエデンが杖で触れて宣言する。


「我黒の神官は、今ハンフリー・ショウネシーの枝にフェリックスの忠誠が降り立つのを見たり。創世の女神よ、この主従に祝福を与えたまえ」


 ハンフリーとフェリックスが数秒光に包まれる。


「これは……」

「なんだかんだ云ってもグレイはリーナに忠誠を置いてるし、お前さん専属の部下を育てておいた方が良いだろ? んははは!」


「フェリックス、君は良いのか?」

「はい、背一杯勤めさせていただきます!」

「よっし、じゃあルシンと一緒に挨拶まわりに行ってこい!」


 エステラはフェリックスにもととのえる魔法をかけて、二人に皆んなを紹介して行った。



 焼肉パーティーも終盤に入り、マグダリーナ達のテーブルでは、蜂蜜リモネのソルベが配られていた。


「まあ、彼はエステラお姉様の異母兄ですの? ではルシンお兄様とお呼びいたしますわね」


 鑑定魔法を修得していないレベッカとライアンは、ヴェリタスに二人の関係を聞いて驚いた。



 ササミ(メス)やコッコ達も紹介して、ふとずっと伏せたまま大人しくしているワイバーンの存在を思い出す。


「随分と大人しいけど、『活け締めくん』した訳じゃないのよね?」


 エステラは振り返って、ヒラを見た。


「子分にしたのぉ 下の子の面倒はちゃんと見るよぅ 大人しく良い子に出来ましたねぇ」


 ヒラが大きなお皿に、火蛇やウモウ、四つ手熊の肉を盛ったものを目の前に置いてやると、ワイバーンは顔を上げて勢いよく食べ始めた。


「エルロンドは確かに竜の島に近いけど……ワイバーンの従魔は他にもいるの?」

「いえ、この二匹だけで、今回がこいつらの初任務でした」


「卵の状態なら、あと二つありました。でもそれは聖エルフェーラ教国に運ばれてます」


「ん? もしかして、二人が乗ってきた子達も卵から孵したの?」

「はい、たまたま卵の側で他の魔獣に襲われて弱っている母竜を見つけて、卵を持ち去りました」

「なるほど」


 エステラは食事中のワイバーンに近づくと、じっくり観察して懐から小さい女神の精石を取り出す。そして、ぺとっとその額に付けた。


「子分もお揃いぃ?」


 ワイバーンはピィィィと鳴くと、進化の輝きに包まれる。

 図体に似合わず、美しい小鳥の様な鳴き声だった。


「桃色星竜?? 聞いたことも記憶にもない竜だわ。新種か変異種かしら?」


 進化の輝きが収まると、ずっしりしていた体つきがシュッとし、鈍色の鱗は透明感と艶のある美しい桜色に輝き、額には青白い星の印のある優美な竜が現れた。


 宝石のような青い瞳は、白い睫毛と金の色に縁取られ、これは竜種界で一、二を争う美竜では? と思われた。


 案の定、ササミ(メス)がササミ(オス)になって嘴で毛並みを整え、鳳凰の様な立派な飾り尾を靡かせ近寄って来たが、桃色星竜はささっと小さなヒラの背後に隠れた。隠れられてないが。


 ササミ(オス)は明らかにショックを受けた顔をしたので、ヒラは桃色星竜に言って聞かせる。


「ササミだよぉ。ヒラの仲間だから、怖くないよぉ」


 ヒラが優しく桃色星竜の足を撫でる。


 桃色星竜は、優しい桜色に輝くと、ちょこんと桜色のスライムの姿になって、ヒラにくっついた。


「子分はぁ、まだちいちゃいから、甘えんぼだねぇ」


「擬態能力でワイバーンに擬態してたのね。でもスライムの姿で居てくれたら、嵩張らなくて助かるわ。あ、ヒラ、子分じゃなくてちゃんと名前つけてあげなきゃダメよ!」


 ヒラの顔が輝いた。


「名前ぇ、ヒラがつけていいのぉ!」

「そうよ。ヒラを頼りにしてる子だから、ヒラが素敵な名前つけてあげて」


「じゃあ、モモ! ヒラ桃だいすきぃだからね、良い名前だよぉ!」


 桃色星竜改めモモをヒラは頭に乗せる。

 モモは嬉しそうにふるふる震えた。擬態は完璧だった。


 モモを見て、フェリックスは呆然と呟いた。


「エルフの改造魔法を施された魔獣が、本来の姿を取り戻すなんてあり得ないはずなのに……」


 ルシンも頷いた。


「ああ、おかしいな……」


(あのスライム)

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