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85. 夜逃げ……?

「まーあ、なんてこと、なんてこと! ダーモットったら、そんなに便利なものがあるなら一番先に報告して頂戴よ」


「はあ……ショウネシー領だけの制度でしたので、王都にお住まいの姉上には関係のない話かと……」

「何がどんな風に活用できるか、判断材料は多い方が良いに決まってるじゃない。だから商人は色んな情報収集にも力を入れているのよ。それにショウネシー領の結界内なら元うちの商団も手が出せないわね。夜会が終わったら、貴方達と一緒にショウネシーへ移るわ。夜逃げよ!!」


「夜逃げ……」

 ダーモットはポカンと口を開けた。


「では早速準備に取り掛かりましょう。ドーラ様、バークレー伯爵に一筆書いていただけるかしら? 荷造りは先程の茶マゴーにさせますわ」


 気がつくとドーラもサラサラと手紙を書いている。


「このペン、羽ペンより書きやすいし、インク壺に一々付ける必要がないのね。売れるわよ!」

「万年筆と言いますの。子供達の勉強も捗ってますわ。でも制作するには腕の良い職人が必要になってきますのよ」


 万年筆は文官達に売れるだけ売ってしまうと、領内ではさほど需要がないので、そのまま「雑貨屋」の文具コーナーに数本飾ってあるだけだった。


 魔導具では無いので、図面を見せればコッコ(メス)も作れる。しかし、人力で作るとなると工賃が高くなる微妙な製品だ。



「それじゃあ、私達とマゴーはバークレー伯爵邸に向かって、あちらの整理を手伝ってくるわ。お父さま達が退出する時に馬車の中で合流するようにすればいいのよね」


 元々大人達が夜会にいる間、おとなしく勉強するだけの予定だったので、マグダリーナ達子供組はバークレー伯爵邸で夜逃げの準備をすることにする。


「グレイ、馬車でバークレー邸まで送ってくれる?」

「すぐ準備いたします」

「エアはアッシから合流の合図を受け取ったら、教えてね」

『まかせてぴゅん』




◇◇◇




 大富豪のバークレー邸は貴族街から外れた小高い場所に、王宮のような貫禄で鎮座していた。


 とにかく金を使った飾りが多い大邸宅で、どこか神殿のような荘厳さもあった。


 そこに住むブレア・バークレー伯爵は八十代と聞いていただけあって、もう髪は全部白く、細くて中背のお爺さんだ。

 それでも背筋がシャンとして、しっかりしていそうという印象だった。


 ただ、マグダリーナは彼の顔色がどうにも気になって、こっそり鑑定をかけた。


 ブレアはマグダリーナ達を商談用のテーブルセットのある部屋に通し、紅茶とお菓子でもてなしてくれる。



「そうか……ドーラは離婚はしないと。あれはまだ若い……これから幾らでも好きなことが出来るだろうに……」


 メイドが最後に伯爵の紅茶を運ぶ。

 マグダリーナは勢いよく立ち上がり、わざとメイドに椅子をぶつけた。


「きゃあ」

 メイドは紅茶の入ったティーカップを床に落とす。


「まあ、私の不注意でごめんなさい! 熱くはない? お怪我は?」

「私こそ、とんだ粗相を……お嬢様にお怪我はありませんか?」

「私は大丈夫ですわ。おじ様にお会いして、気持ちがはしゃいでいたみたい。お恥ずかしいですわ。ブレアおじ様も、申し訳ございません」


「おじさま……」


 ブレアはポツリと呟くと、咳払いをした。


「いや良い、マグダリーナ嬢に怪我がなくて良かった。私の分の紅茶はよいから、片付けたら下がってよいぞ」


「その前に」

 マグダリーナはメイドに近づいてポケットを探った。


「やめて、何を……」


(見つけた)


「これは置いていって頂きます」


 小瓶を手にして、マグダリーナはヴェリタスに投げて渡す。


 メイドは身を翻してマグダリーナに蹴りを入れて来たが、自動展開される、腕輪の魔導具の防御魔法に弾き飛ばされた。


 素早くチャーがメイドを縛り上げる。


「これは……少量ずつ長期間飲ませて、自然に弱らせていく毒、だな」


 ヴェリタスが眉を顰めて鑑定結果を述べる。


「毒……私は毒を飲まされ居たのか……長年信頼してきたメイドに」


 項垂れるブレアを見て、全員の視線がメイドに集まった。

 メイドは視線を逸らし、黙ったままだ。


「本格的な治療は治療院でなさるとして、応急処置としてこちらの解毒薬と回復薬をどうぞ」


 レベッカがポシェットから二本のポーションを取り出した。


「ありがとうレベッカ嬢、ありがたくいただこう」


 早速ポーションを飲んだブレアの顔色が明るくなる。

「このポーションは二つとも、随分味が良いな。それにとても質の高いものだ」

「そう言っていただけると嬉しいですわ。まだ下級ですが私が作りましたの」


 マグダリーナとヴェリタスが、勢いよくレベッカを見る。


「「いつの間に?!」」


「クッキーを焼いてる合間に、トニーと一緒に習いましたのよ」


 チャーがメイドを別室に閉じ込め、代わりに割れたカップや濡れた床を掃除する。


「くっそ、俺たちが学園に行ってる間に、領内学習組がどんどん進んでっていないか?」

「そりゃお前らに追いつかないと行けないから、こっちも必死なんだよ」


 ライアンがヴェリタスの背中を小突いた。

 ヴェリタスは溢れんばかりの笑みを見せて、小突き返す。


 孫のような子供達が戯れ合うのを見て、自然とブレアの顔にも笑みが浮かんだ。


「ショウネシーか。楽しそうなところだな」

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