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84. ドーラ伯母様

「私、平民になるのよ。だから貴方のパートナーをするのはこれで最後になるわ、ダーモット」


「は?」


 実の姉であるドーラのその言葉に、ダーモットは紅茶を吹き出しかけた。



「どういうことですか? まさか伯爵と離婚?」

「まあ、そういう話も出なかったわけじゃないのよ。資産の殆どを私に譲るから別れようと言われたわ。とりあえず資産はいただいたけど」


 王都の元ショウネシー邸……現アスティン邸での、ドーラとの会食は和やかに進んで、サロンで雑談を交わしていたら、突然

ドーラがこう言い出した。


(いただいたんだ、資産。まあそうよね)


 マグダリーナは紅茶を飲みながら、耳をそばだてる。


 ドーラの夫で拝名貴族であるブレア・バークレー伯爵は、商団を立ち上げ一代で巨万の富を築いた、いわゆる大富豪である。

 両親がドワーフの血を引いた、腕の良い職人だったために、若い頃から物を見る目に優れていた。


 信用と品質を重んじ、手堅く商売をしてきた人だったが、ドーラとの間に子は居らず、商団の後継者として育ててきた人物がいたが、伯爵が引退して商団を譲ってから、徐々に粗悪品を高く売るようになってきたという。


 そしてその後継者から、伯爵の爵位を金銭で譲るよう打診があり、怒った伯爵が爵位を返上したのが、ここに来る前だという。


 バークレー伯爵はもう八十代。余生を慎ましく暮らす分の資産を残して、後は全てドーラに譲ったらしい。



 だが、ドーラは伯爵と離婚せずに、一緒に平民になることを選んだのだ。



「老い先短いなんて言いながら、長生きしそうだもの。お金はやっぱり必要だし、面倒見てあげないとねぇ」


 しょうがないわねという感じでドーラはため息をつく。


「あらじゃあドーラ伯母様は、今沢山の資産をお持ちなのね? 平民になったら管理はどうなさいますの? 私が商団の後継者の方でしたら、きっと人を使って盗んででも手に入れたいと思いますわ」


 相変わらず、言いにくいことを、レベッカはズバッと言った。


 ダーモットも心配そうな顔をする。


「今はまだ邸内で管理してるけれど、確かにその危険性はあるわね……」

「じゃあ、しばらく俺の茶マゴーに警備してもらおう。チャー」


 ヴェリタスが声をかけると、すっと相棒の茶マゴーが現れる。


「あら、変わった魔獣ね」

 ドーラが目を輝かせて茶マゴーを見た。


「ルタ様、ご用はなんでしょう」

「資産家のドーラ・バークレー夫人だ。しばらく彼女の家の警備をお願い出来るか?」

「かしこまりました!」


 茶マゴーが消えると、ドーラは好奇心いっぱいの目をしてヴェリタスを見る。


「転移ができる魔獣なの? 捕まえるの大変じゃなかった?」


 ヴェリタスが肩をすくめた。

「一応俺の従魔って体裁をとってるけど、本当はショウネシーの魔法使いが作った魔導人形を借りてるんだ」


「あら、じゃあ密かに王宮でも働いているって噂のあれね」


 マグダリーナは気になった。

「王宮の情報ってそんなに漏れやすいものなの? どんな噂になってるんですか」


「王宮の情報はは色んな貴族や大きな商団が、情報を拾おうとあれやこれやと手段を尽くしてるから、仕方ないのよ」

 ドーラは肩を竦めた。


「確か『王はショウネシーの魔法使いに、姿の美しい魔導人形を作らせて、文官達を虜にして馬車馬のように働かせている』よ。さっきの茶マゴーだったかしら? を見て、ここまでアテにならない情報だったなんてと、ガッカリしたところよ」


 王宮に出入りしているニレルやエデンを運良く見たものと、文官達の「マゴーちゃん愛してるぅぅ」コールと仕事の進み具合の速度で導きだされた結果かなと推測して、マグダリーナはくすくす笑った。


「ショウネシー領も謎なのよ。大体ショウネシー領を通る必要があるのはバンクロフト領の商人達くらいでしょう? 彼らに聞くと、顔見知りの門番のお帰りなさいが心にしみる、道が整備された綺麗な町、醤油はどんな料理も美味しくする、醤油は豆から出来てる、甘酒も美味しい、日替わり弁当は予約してでも買うとかの情報くらいしかないのよ。魔導人形なんて作る魔法使いが居るのに!」


 その魔法使いが率先して食に力を入れているのだから、まあ当然だろう……全員がエステラの顔を思い浮かべて、そう思った。


「どこの商団でも、ショウネシーのことは気になって、領地に入り込もうとしているのよね。でもどうやっても入れないのよ……ショウネシーに入ったと思ったら、元来た道を引き返してたり……だから優秀な魔法使いが居るのは真実だろうって」


 確か他領との境には結界の他にも、隣の領の人達がうっかり結界に触らないよう、美しい生垣が作ってあったはず……

 隣領の人達にも役に立つように、女神の森から分けてもらった薬香草、ローズマリーを中心に増やして作ってある。


 景観を損ねない程度になら、自由に枝葉を取っても良いことになっているのだが、あの生垣に人の通れる隙間は無いはず……


 馬か?! 馬で飛び越えるのか!


 商人達の見境の無さに、マグダリーナはちょっと呆れた。


「まあ……門以外の所から入ろうとすると結界に阻まれますので。堂々と門からお入り下さい」

「もちろん私はそのつもりだけど、そうじゃ無い者も多いことは知っておいた方が良いわよ」


 ふとシャロンが何か思いついたように、ドーラを見た。

「ドーラ様は今までバークレー伯爵の商団で働いていたのでしたわね、今後はどうなさいますの?」

「それも今朝退職してきたから、実は無職なのよ」

「でしたら、輸出業務などにはご興味ございません? せっかく今まで商いの手腕を奮って来られたのですもの、このまま引退するのは勿体なくありませんこと」


 シャロンが美しく微笑むのを見て、子供達はシャロンの言いたいことを察して、背筋を正した。


「ショウネシー領では領地の農産物をギルギス国に輸出することになりましたの。でも経験者も人手もおらず、男爵が過労で倒れてしまわないか心配していましたのよ。バークレー伯爵もお歳のせいで身体が弱ってきているとも小耳に挟みましたわ。ショウネシーには良い治療院もありましてよ。お二人でショウネシーでお暮らしになるのはどうかしら?」


 ハンフリーが煌めく瞳で、ドーラを見た。


「そ……そんなに困っているの? まあショウネシー領は実家のようなものだし……」


「それにショウネシー領の領民口座は安全に現金資産を預けられましてよ」


 今度はドーラの目の色が変わった。


「その話、詳しく!」

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