表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/285

77. サトウマンドラゴラの輸出

 ギルギス国にいるアーベルから、ハンフリーに文が届いた。


「ハイエルフのほとんどが女神の森に引き篭もってたんでしょ? 突然外国に行って、アーベルは大丈夫なのかしら」


 ちょっと心配になってマグダリーナが聞くと、エステラも気になったのか、じっとニレルを見た。


「心配は要らないよ。アーベルは棲家こそは女神の森にはしてたけど、僕が冒険者の仕事をする時に付き合って貰ったり……エデンも色々用事を云いつけて、あちこち呼び出したりしてたから、世間慣れしている方だよ。本当に森から出たことがなかったのはデボラとヨナスの二人だ」


「ああ、だからハイエルフの皆んなは、あの二人にあまり領の外の用事をさせたりしないのね」

 マグダリーナは合点がいった。まずはショウネシー領で慣れてからなのだろう。



「えっ、それちょっとドキドキしない? ヨナスはまだしもデボラは絶対、ショウネシー領から外に出したらダメだよ。優しいし心も見た目も綺麗だから、悪いやつにころっと騙されるよ。頼まれたら断れないのに責任感は強い性格だからいいカモだよ」

 エステラが心配そうに言った。


 いまその脳裏には、図書館での先生役を頼んだ時の、涙目で決意を滲ませて「やるわ」と言ったデボラの姿が浮かんでいた。

 他人と話す経験もほぼ無かった人生だっただろうに。 


「俺、俺って通信魔法入れたら、エデンだと思って、頼まれるまま大金渡しちゃうよ!!」


 力説するエステラの言葉を聞いて、マグダリーナにも容易にオレオレ詐欺に引っかかるデボラの姿が想像できた。


「そこはヨナスが頑張るから、きっと大丈夫だろう」


 さらりとニレルが言う。ハイエルフの中で一番若いヨナスに、本人の知らない間に重い責任がのしかかっていた。



「それで? アーベルはなんて言って来てるんだ?」

 ヴェリタスがハンフリーに、ようやく本題を確認する。


「ギルギス国の商人ギルドがサトウマンドラゴラ製品を買取りたいそうだ。このまま商談をすすめて良いかの確認の文だよ」

「ああ、あの国にはマンドラゴラはいないからか。商談はアーベルに全部任せておいて大丈夫だよ」


 ニレルの返答に、ハンフリーは助かると頷いて、アーベルに一任する旨の書類を作成し始める。


「ギルギス国にマンドラゴラは居ないの?」

 マグダリーナは不思議に思って、ニレルを見た。いつ見ても、顔が良い。


「いないよ。あの国一帯はマンドラゴラとは土の相性が合わないんだ。その代わりトレントという木の魔獣がいて冒険者用の武器や防具の素材になったりする」


 マンドラゴラは主に上位の薬の材料になるが、高位の魔獣でなかなか見つからず、貴重だった。


 マンドラゴラの変異種のサトウマンドラゴラの方が薬効も魔力も味も優れて更に貴重なはずなのだが、ショウネシー領でわさわさ増えてるので希少性とは……? な状態である。


「そういえばマゴーはマンドラゴラ使ってるんだよな……よくこんなに沢山……」

 少し呆れた顔で、ヴェリタスは自分の相棒の茶マゴーを見た。


「お師匠が探しに行くのが面倒になって、薬草と一緒にこっそり畑で増やしてたのよ。その過程でサトウマンドラゴラもできちゃったそうなのね。マンドラゴラと違って勝手に鳴くから、村人に気づかれないよう毎回慌てて収穫したって云ってたわ」


「それじゃあ、マンドラゴラの収穫はどうしてたんだ? すごい叫び声あげるんだろ?」

「マンドラゴラの叫びは死ぬ間際の絶叫……その声と一緒に魔力や色んな成分が抜けてくし、周囲の生き物の命も道連れにするの。だから収穫で声を上げさせるのはド素人よ。必ず活け締めしてから収穫しないと高品質なマンドラゴラとは言えないわ」


「活け、締め……?」

 聞き慣れない言葉にヴェリタスが首を傾げるが、マグダリーナの脳内では前世のテレビで見たマグロの活け締めの様子が描かれていた。


「ド素人がマンドラゴラを抜いて、自分の命と一緒に周囲一帯不毛の地にしてしまうなんてことが、昔から度々あるそうよ。知識がないと危険な魔獣だから、こんど実際にやってみましょ」


「待て、それ熊師匠より危ないんじゃ?」


 エステラはヴェリタスにニッコリ笑って答えた。


「そんな事ないわ。襲ってこない分安全よ」

もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ