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71. スライムの飛翔

「……う……っ」


 凍えるような苦しい暗闇の中から、ダーモットは意識を取り戻した。


 自分でも絶対助からない自覚があった。

 どうして……? と思った時に、目の前にその解答があった。


「ヒラ……っ!!!」


 シャロンもイラナも、ダーモットの声で、ダーモットが何を代償に助かったのか気づき、声をなくした。


「ヒラ…! ヒラ…! しっかりしてくれ!!」

「ダ……モ……よか……」


 ダーモットは真っ黒になって、固く縮んでしまったヒラを抱き抱える。


「ダ……メ……うつ……穢……」

「うつらないよ。君の対応は完璧だ。流石出来るスライムだよ。だから、一緒に帰ってエステラに治してもらおう」


「ヒラ……タラ……会え……?」

「会えるよ! 一緒に帰ろう」


 がさりがさりと、ほんの少しずつヒラの身体が崩れていく。

 だがダーモットはそれに気づかないフリをした。


(タラに……会える……)


 微かな希望に目を開いたヒラの視界に入ったのは、封印を解かれて以前より強力に凶悪に穢毒を振り撒く死の狼と、苦戦するハラとササミ(オス)だ。


 帰れない……そうわかった。でもそれは。


 ヒラもハラもササミ(オス)もここにいて。

 エステラが寂しくなってしまう。ひとりぼっちにしてしまう。


(いやだよぅ……)


 皆んなでお家に帰ることが大事って、エステラが言ってた。皆んなで一緒にお家に帰るんだ。あったかいおうちに。


 ヒラがまだスライムベビーだった、小さな小さな時。

 森で逸れて、泣いてるヒラを迎えに来たエステラが言っていた。


『また迷子になったら困るからね。絶対一緒に帰って来れるおまじない、ヒラだけに教えるから、忘れちゃダメだよ』


 あの言葉、は、


「あ……」

 ヒラは最後の力を振り絞った。


 うまく言えなくても、心の中ではきちんと唱える。


「でぃ……め……さま」


 皆んなで一緒に帰りたい。


 ――目の前の、敵を、


 ――――倒して――――


 ヒラの身体がひび割れる。

 真っ黒なそれが、ぼろぼろ落ちて。


 ヒラは目を閉じた。




◇◇◇




 ヒラはいつのまにか、神殿に居た。

 エステラが造った美しい白亜の神殿だ。


 だがどこの神殿かわからない。女神像もない。


 そこはどこでもない空間だった。



『名を呼ばれては、女神も無視できぬ。故に、私がここに来た』


 そして目の前には、黄金の竜がいる。


『しかしまさか魔獣で、しかも最弱のスライムが女神の名を戴いていたとは』


「ヒラ弱くないよぉ」

『そうか』


「愛されて育ったのでぇ!」

『そうかそうか』


 黄金の竜は笑っていた。


『では其方の願いを叶えよう』

 黄金の竜は額の精石を、ヒラのそれに重ねた。


 黄金と虹の光が、ヒラの中に溢れた――――




◇◇◇




 ダーモットの腕の中で、ヒラだったものが崩れて落ちる。


 その手の中に、黄金と虹色に光る繭が残った。


 そして。


 中から黄金と虹色の光を纏った、元の美しく可愛らしい、薄青く輝くスライムが現れた。


「ヒラ!!」


 ヒラはダーモットの腕の中を飛び出して、翼を広げる。


 黄金と虹色に彩られた八枚羽根だ。


 ヒラとその翼から放たれた光は、一瞬で穢毒を浄化し、仲間達の傷を癒した。


 死の狼がみるみる弱体していく。


 ハラがササミ(オス)の頭の上に降りて、ササミ(オス)に強化魔法をかけた。


カッ――――


 ササミ(オス)が、ドラゴンブレスを吐き出すと、死の狼は骨も残らず消し飛んだ。



◇◇◇



「見ぃ〜つけた〜」


 エデンは王宮魔術師団長ドミニク・オーブリーを捕まえて、一発蹴りを入れた。


「ぐえっ」


 倒れ込んだドミニクの背中を、エデンはその長い足で踏みつける。


「悪いオモチャで悪い遊びをしちゃイケナイって、パパから教わらなかったのかい? まあそのパパの命令なんだろうけど、んははは」

「エデン、時間が惜しい。もっとスマートに尋問しろ」


 ニレルは抜身の切先をドミニクの首元に突きつけた。

「ベンソンを出せ」


「も……もういない」

「ではそのオモチャの中にいる人達を、今すぐ解放しろ」

「無理だ! 死の狼が、ん? んん?」


 ドミニクはズボンの股間から魔導具を取り出した。


「ない……綺麗さっぱり死の狼の気配が?!」



「ニレル様、エデン様!!」

 マゴーが転移魔法でやってきた。


「皆さん無事ショウネシー邸に帰還されました!!」


 ニレルとエデンは、ほっとして視線を交わす。


「わかった。僕たちは王宮の後始末をしてから帰るよ」

「了解しましたー」


 マゴーが消えると、ドミニクはニレルの足にしがみついた。


「い……今のは転移魔法か!? お前たちは転移の技術を持ってるのか! 教えてくれ!!!! なんでもするからっ!!!!」

「嫌だ」

 ニレルはドミニクを振り解く。


「待った待った! ベンソンの計画を全部話すから!!」


 エデンはドミニクの首根っこを掴んだ。


「まあとりあえず、こいつをセドくんところに連れていこう」

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