62. 奇跡の魔法
マゴーから資料が集まりつつあると連絡があったので、今日はマグダリーナもヴェリタスも学園を休んでシャロンと一緒に王宮に詰める。
コッコ車で移動すれば、女神教とショウネシー領が関係してると知っている貴族を刺激してしまうだろう。
イラナの転移魔法で移動する。
イラナはそのまま護衛を兼ねてマグダリーナ達と行動することになっていた。
掃除係のエデンも後から王宮に合流する手筈だ。
王宮では文官達が、マゴーと一緒に慌ただしく走り回っていた。
「皆さんよくおいで下さいました。どうぞこちらへ。王もお待ちです」
文官に案内され、作業机がずらりと並べられた部屋に通される。
マゴーと書類を確認していたセドリック王がこちらに気づいて声をかけようとして、「クレメンティーン……」と呟いて頭を振った。
「皆、今回も世話になる。この場では迅速かつ正確な対応が第一だ。我に対する礼儀は忘れよ。必要な事があれば何でも言うがいい、では宜しく頼む!」
「あちらに地図が用意してあります。確認済みの資料もそちらに」
王様に挨拶するまもなく、宰相様に作業机へと連れて行かれる。
セドリックはイラナを見た。
「其方は初めてだな」
「イラナと申します」
「む! エリックを助けてくれたハイエルフ殿だな。あの時は息子を助けてくれて感謝する」
「エステラ様とリーナが居たからです。私一人ではお助けする事は出来なかった。息子さんは運が良かったのです」
「左様か……其方たちも万能ではないのだな……」
「ええ、だから今もこうして、皆んなで頑張っているのです」
何事も想定通り行くわけもなく、まずヴェリタスが声を上げた。
「げ! この教会、地下室がある」
「中の人は三人でしょうか?」
マゴーの確認に、ヴェリタスは「間違いない」と答える。
「宰相様、捉えられている人はどうしますか?」
「まずはそのまま人数の把握をお願いします。保護できる施設の確認をします」
マグダリーナも宰相に声をかける。
「こっちの教会も地下があるけど、金庫が置いてあるだけです」
「それは回収の方向でお願いします」
「くっそ、こいつらこんなに人数居るのに、税金払ってない上に、うちの血税で生活して、まともに浄化作業してなかったのか」
「裏付けの資料はこちらにまとめました!」
「マゴーちゃん、愛してるぅ!」
(あれ? なんか文官さんたち違う作業もしてない?)
どうやらこの機会に、教会の不正や怠慢行為も洗い出してるようだ。
「マゴーちゃん、この領地資料では教会は一軒だけど、鑑定だとここにもう一つ出てくるのよね」
シャロンの指摘にマゴーがキリッと応える。
「確認してきます!」
本当はきちんと休んで欲しいのですけど、緊急事態ですのでと、イラナが文官たちに回復薬を配っていく。
お昼前にうまみ屋のマゴーがやってきて、どっさりお弁当と弁当箱回収用のアッシを置いて行った。
そしてマゴーの増員もやってくる。
午後の中頃に、杖を持った三人の魔法使いが王宮にやってきた。
エステラとニレルとエデンだ。
「そろそろ始めて良さそうかい?」
ニレルの確認に、宰相が地下に囚われた人の保護の場所や隠し金庫の対応について説明していく。
「なんなら書類関係も一気に隣の部屋にでも移動させるかい?」
「可能ですか?」
「エデン?」
「くっは、わーかった。お望みのままに」
因みにマゴー達のおかげで、教会の位置と人数の把握は奇跡的な速さで終わった。
今作業してるのは、不正関係の洗い出しだった。
そしてさりげなく虚偽の資料を提出してきた、貴族の洗い出しもしている。
地図の奥にエステラは祭壇を置いた。
「ここでするの?」
マグダリーナはてっきり外とかですると思い込んでたので、びっくりした。
「うん、現地はマゴーに確認してもらうから」
数台アッシを置き、映像表示画面を出させる。
マゴーが数十体消えると、文官達に絶望の表情が現れた。
「では」
エデンが地図に漆黒の杖を翳す。
ぷつぷつっと数台のアッシの画面に、分割して各領地の教会が現れた。
エデンの杖と身体が輝きを帯びる。
『あー、善良なるリーン王国民たちよ』
エデンの声は国中に伝わった――――
『国王から国教改宗の御触れが出ているのは、ご存知の通りだ。これから女神教の主神たる創世の女神の奇跡をお見せしよう。まずは今までの祈りの場であった教会に消えてもらうことにする。だが悲しむ必要はない。すぐに新たな祈りの場が与えられよう。いま教会にいるものは、危ないから直ぐに離れる様に。いいね、今すぐ離れるんだ』
エデンの言葉に、何処かの領地の冒険者が慌てて教会から出ていく映像が映る。
『離れたかな? では、始めよう』
「我創世の女神に願い奉る。このリーン王国に存在する、聖エルフェーラ教国に連なるものを詳らかに示し彼の国へ還し給え。そして囚われたものには保護を、財はこの国へ、教会は地に還えり、須く清め給え」
地図が光に包まれると同時に、各地の教会が光に包まれ始めた。
王も、文官達もその光景に見入った。
エデンがいた場所に、次はニレルが立ち、純白の杖を翳す。まだ教会は光の中だ。
「我創世の女神の名において、奇跡を求めん。地における女神の住まいよいで給え。地に住まうものに、風に安らぐものに、精霊に、女神の慈愛を届け給え」
ふぉん、と教会を包んでいた輝きが広がる。
そして女神の精石の杖を翳したエステラが、続けて唱えた。
「我創世の女神の名において、奇跡を求めん。神殿の女神の力のカケラたちよ。目覚めよ! 目覚めて我らを導き給え!」
地図も元教会も、一際眩く輝いた。
そして輝きが収まると、辺境伯領の神殿と同じ、白く美しい神殿が各地に出来上がっていた。
「ふー」
疲れて座り込むエステラのお尻を、すっとササミ(メス)が、わざわざ置いてあった椅子をずらして、椅子がわりに支えた。
イラナがエデンとニレルに椅子を持って来ると、エデンが行儀悪く身体を投げ出すように座る。
ニレルも気怠げにしている。
「いやぁ、国一つ分の広範囲魔法なんて何千年ぶりだ? 二人は初だろ? どうだった? ハジメテは?」
「次はここまで消耗しないようにできる」
「そうだね〜エデンはもうちょい魔力操作頑張った方がいいよ〜最長老の威厳出して」
「なっっんて、可愛くない子達だ。俺は女神の名を使えないんだぞ! 労わって敬え、んんんー」
ぐりぐりとエデンがニレルとエステラの頭を揉む。
その側ではマゴーが、エデンの魔法で現れた教会関係者の名簿を宰相に渡していた。
『わたくしは精霊エルフェーラ。神界にいらっしゃる創世の女神の忠実なるしもべにして、地上における代理人』
アッシの画面に何処かの神殿の映像が映される。
「エルフェーラ?!」
エステラ以外の全員が画面に釘付けになった。
「女神の精石を媒体に、人工精霊システムを利用してエルフェーラ様の分霊が顕現できるようにしたの。浄化と回復は彼女の得意分野だし、きっとよしなにして下さるわ。でも神官の育成は早めにね」
「くはっ、んはははははは。精霊に直接会える神殿か! しかも精霊に働かせようなんて、なんて子だ! 流石俺の娘!」
「ソウデシタッケー」
エステラがエデンにそっけなく返す。
神殿の異常なしを確認して、各地のマゴーが帰ってきた。
アッシも役目が終わったので、収納に仕舞われる。
「エステラよ、其方達の此度の素晴らしい働きに、何を褒美に与えれば良いか」
エステラはニレル達を見た。
「何か欲しいものある?」
エデンもニレルもイラナも首を振った。
「うん、お金も素材も今のところ足りてるし、島も貰ったでしょ、それに今回一番欲しかったものはもう得られたと思うから、そういうのはいいかな」
「しかし」
「ダーモットさんがね、セドさんのこと考えてすごく心配そうだったし、ハラとササミがバーナードの悲しむとことは見たくないっておねだりして来たので。それがとても可愛かったし、もしリーナがエルフに狙われたりしたら嫌だから……だから動いたのであって……」
「うむ、そうかダーモットが」
「だからそう云うのは、ショウネシー家とアスティン家に。元々情報持って来たのも、リーナとルタだから」
「左様か、ではそう致そう」
セドリック王は優しくエステラの頭を撫でた。
「其方たちに、誠に、感謝する」
日も暮れて、皆んなでさて帰ろうかという時に、文官さんたちがそれぞれマゴーをぎゅっと抱きしめて離さなかった。
宰相様までもだ。
今回の後処理もまだありそうだし、仕方ないので十体だけ二ヶ月限定で貸し出す事にした。因みにこれはきっちりビジネスとしてレンタル料をいただく。
エデンは即座に明細と貸し出し契約書を作り出し、国庫から即金で料金が支払われた。
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