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60. 女神の肖像権

「しょうがないなぁー。めんどくさいけど、まずは教会関係者を一気に教国へ帰しちゃうかな……辺境伯領みたいな人達を精査してたら、逆にこっちの国の仕事増えちゃうから、この際そっちは考えない方向で」


 従魔達のおねだりに負けて、エステラはそう宣言した。


「速度重視だから仕方ないな」

 アーベルが同意する。


「王都の職人さん達には申し訳ないけど、各地の教会も一気に崩して神殿にしてしまいましょ。それこそ奇跡だって信心が集まるきっかけになるかもだし」

「人手不足の件はどうするの? マゴーを使う?」

 マグダリーナはエステラを見た。


「流石に神殿にマゴーはどうかと思うの」


 ふとエステラがマグダリーナをじっと見つめた。正確にはその肩の上で寝てる小鳥を。

「そうね……女神像を媒体に人工精霊を作る……?」


 エステラはポケットから女神の精石の入った袋を出した。

「だから、この量なの?」


「エステラ、何か思いついたの?」


 エステラは力強く頷くと、マゴーに今の計画をまとめて書面にし、セドリック王に届けるよう命じる。


「リーナとルタに、すごく面倒なことお願いしていい?」

「いいわ」

「何でも言ってくれ」

 マグダリーナとヴェリタスは頷いた。


「セドさんにマゴーを派遣して王国中の教会の位置の地図と教会の資料を用意して貰うわ。それを媒体に教会を鑑定して所属人数とかが資料と合ってるか精査して欲しいの」

「鑑定だったら、私も手伝うわ。王宮で部屋を借りて作業できるように頼みましょう」


 シャロンが茶マゴーに便箋とペンを用意させる。


「僕には何が出来ますか?!」

 アンソニーが聞く。


「デボラとヨナスは両親達からウシュ時代のエルフ族の怖い話しを聞かされて育ちました。だからとてもエルフが苦手なのです。ですからトニーは、あの二人に何が起こっているか気づかれないよう、いつも通り図書館に通って、いつも通りに振る舞って下さい。これはとても重要で、とても難しい事ですが、出来ますか?」

 イラナがアンソニーの肩に手を置いて聞く。


「わかりました。絶対二人の安心を守ります!」



「では準備が整い次第実行ということで」

 エステラは立ち上がって背伸びをする。


 各自解散となったが、エステラが「甘いもの食べたくなったから、厨房借りるね」と出ていくと、腰を浮かしかけたイラナが、がっつり座り直した。


「僕、どんな風に料理するのか興味あるので、見てきます」

「あっ、俺も」

 アンソニーとヴェリタスも厨房に向かった。


 貴族は料理しないものだが、ダーモットもシャロンも止めることも咎めることもしない。

 マーシャとメルシャがサトウマンドラゴラ茶を淹れて、皆んなに配った。



 しばらくすると、ケーレブが人数分の皿とホールケーキが二つとティーポットの乗ったワゴンを押して来た。

 その後ろを、エステラ達がティーポットとホールケーキ一つ乗った小さめのワゴンを押してくる。


 マーシャとメルシャが手際よくティーポットの紅茶をカップに注いで配っていく中、ケーレブが慎重にケーキを切り分けていた。


「お姉さま、僕が紅茶を淹れたんです!」

「そうなの? 楽しみだわ」


 笑顔のアンソニーと反対に、ヴェリタスは難しい顔をしてソファに座る。


「どうしたの?」

「ちょっと難し過ぎて」


「お菓子作りが?」

「いや、錬金術が」


「まさか、魔法でお菓子作ってるの?!」

「そのまさかだよ」


 ワゴンを押して隣のテーブルに移動したエステラは、テーブルの上に図書館で見た祭壇を出す。

 そしてその前に、ティーポットとホールケーキをどんと置いた。


「女神様、貴重な精石をありがとうございました。こちら女神様と金のハイドラゴン、精霊となったハイエルフの皆様でお召し上がり下さい。エルフェーラ様、あなたのお姿で人工精霊を作ってもよろしいでしょうか」


『構いませんよ』


 祭壇が輝き、エルフェーラの声が響く。

 そしてティーポットの中身とホールケーキが消える。


 マグダリーナ達は二回目だから慣れたが、大人組は目が落ちそうなほど見開いて驚いていた。


 そしてお皿の上には、お皿より大きな黄金の鱗が置いてあった。



「まさか金のハイドラゴンの鱗……」


 イラナが驚いている横で、アーベルがテーブルに近づいて、鱗に手を伸ばす。

 バチリと光が弾け、アーベルは手を引いた。


「すごい精素の量だ。それに鱗だけじゃない何かも感じる」


 エステラもそっと鱗に触れる。が。


「お……重い……皆んなが見学し終わってから、魔法収納で仕舞うわ」



 エステラが作ったケーキは、苺のショートケーキだ。

 中にも上にもたくさんの苺が使ってあって、贅沢な味わいだった。


「この赤い野菜……酸っぱ苦くて食べれたもんじゃないと思ってたが……」

「全力で品種改良しました」


 ケーレブの疑問に、エステラはドヤ顔で答える。


 そう、苺は土に近い。この世界では野菜であり平民の食べ物だった。


「香りも魅力的ね」

 シャロンがうっとりと呟く。


「ウモウのクリームともよく合うな」

 アーベルも気に入ったようだ。


「美味しすぎて、涙出そう……」

 マグダリーナの呟きに、イラナは深く頷いた。


「トニーの紅茶もすごく美味しい!」

「はい! まず鑑定で茶葉を美味しく飲むための情報を取得して、美味しい水、美味しくなる温度、抽出時間、全部魔法で作業しました!!」


「ハイエルフだって、そんなところにまで魔法を使うものはいない……」

 アーベルが遠い目をした。


「アーベル、デボラ達の分もあるから、帰りに渡してくれる?」

「わかった」

 エステラの頼みをアーベルは快諾する。


「おかしいわ……貴族用のお菓子より、ここの平民向けのお菓子の方が遥かに美味しいのよ」

「学園のサロンで出てくるケーキは、こんなふわふわしてないしな」


 シャロンとヴェリタスが納得出来ないと言いつつも苺のケーキを堪能する。


「エステラ」


そこに転移でニレルが現れた。

テーブルの上の鱗に気付く。


「これだ…最後の材料」

 ニレルがそっと触れると、鱗は眩く輝く。


「エステラ、これを貰っていくよ」

「え? 何に使うの?」


 答える前に、ニレルは去っていた。

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