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59. ハラとササミのおねだり

 ショウネシー邸のサロンに皆んなを集めて、マグダリーナとヴェリタスは今日のお昼にあったことを話した。


「そもそも女神教の布教が上手く行ってないのは、人員が足りないからなのよ。今までいた教会員の代わりを揃えて育てるのに時間がかかって、そこが教会やエルロンド国につけ込まれる隙になっていてよ」


 難しげにシャロンが言った。


 今日はニレルとエデンは居ない。エステラの杖作りの為に数日不在にしているそうだ。

 代わりにイラナとアーベルが居る。


 因みに領地と直接関係ないので、ハンフリーとグレイは通常業務をしてもらっているため、居ない。


 珍しくエステラはササミ(メス)を抱えて、ハンフリーのようにもちりながら座っていた。


 アンソニーが手を上げた。


「あの、僕もお姉さまも、エルロンド王国については、書物も少なく、他国と交流しないエルフ族の国としか知らないのですが、過去に何処かの国と戦争したとかあったんですか?」

「多分、私が生きてる間はありませんでしたね……」


 イラナが答える。彼はニレルの次に長生きだそうだ。


「じゃあなぜ今更……?」


 マグダリーナの呟きに、エステラが答える。


「エルロンド王国のエルフは女神教がすごく嫌いなのよ」

「できたばかりなのに、なんでそこまで?!」


「ウシュ帝国滅亡後、人々はそれぞれの国や集団で、それぞれのやり方でエルフェーラを女神として信仰して来ました。

それを統一したやり方で信仰を広めたのが聖エルフェーラ教ですが、その教皇は代々エルフなのですよ」


 イラナの言葉に、大人達は驚きをみせた。


「エルロンド王国が他国と交流なくても成り立っているのは、教国の資金が流れているからですね……でないとあのような国、とても維持できないでしょう」


 イラナが悲しげに睫毛を震わせる。


「教会の教えでは、エルフ族の乙女エルフェーラが、聖なる力に目覚め、女神となったとされています。エルフ族にとっては、ハイエルフはあってはならぬ存在なのです」

「あの、そしたら……」


 アンソニーが一旦言い淀む。


「エルフは魔力が強く魔法に長けてるのですよね、長距離の攻撃が可能な魔法で攻めてきたりはしないんでしょうか?」

「ないな」

 アーベルがキッパリ言った。


「ないですね」

 イラナも頷く。


「せいぜい隣の国を火の海にするくらいの、飛距離しか出せないわ」

 エステラも頷いた。


「えっと、じゃあ逆に皆さんがここからエルロンド王国に攻撃する事は可能ですか?」


「ここからは流石にやりたくないな、転移して直接攻める」

 アーベルが即答し、イラナが同意した。

「そうですね。転移しますね。ニレル様とエステラ様なら、ここからエルロンド王国を火の海にできるでしょうが」


 全員の視線がエステラに集まった。


「それだけ膨大な魔力と魔力制御力と神秘の力が必要になるということなのよ。それと転移魔法は原初魔法じゃないと使えないから、ウシュ時代の遺物にそういうのが有れば使ってくるかもね。でももし持ってたら、とっくに使ってどこの国にでも攻め入ってるわよ。だから戦争の心配はしなくていいかな」


「ええ、ですが、教会関係者には一刻もはやく、お帰りいただくのがいいでしょう。戦争はしなくても、この国の貴族女性を攫うくらいはするでしょうから」


 ヴェリタスの表情が険しくなった。

「どういう事だ?」


 エステラとイラナが視線を交わす。どちらが話すか迷ったようだが、イラナはエステラが話すのを良しとしなかった。


「彼らの国は貴族か奴隷しか居らず、耳の尖った純血しかエルフ族であると認められません。エルフかそれ以下か、を徹底しています。たまにそれが嫌で国を出るエルフも居ますが、一度出奔すると、二度と国に帰ることは許されません。そしてエルフ族は女性の出生率が低いのです。しかもエルフの女性は寿命も短い。ですので、エルフの女性は大切に扱われます。嫁ぎ先が決まるまで、嫁ぎ先に行っても、一歩も外に出さないよう、大事に大事に仕舞われます。ですが、それだけで種を繋いで行くのは難しい。そうなると、他国から混血が可能な人族の女性を攫ってきます。その中でも特に純血を産む可能性が高い女性を『エルフの花嫁』と呼ぶそうです。花嫁は子を孕むまで囚われ、孕んだ子がハーフで有れば、子は殺されるか流民か奴隷の三択。子を産んだ後の花嫁は、最終的には奴隷にされます」


 ヴェリタスは息を呑んだ。

「……っ、だったら王女は、」

「ええ、どうであれ縁談を受けたら最終的には奴隷とされるでしょう」


 ゾッとする話しだ。あの優美なドロシー王女が本当にエルロンド王国に輿入れすることになったら、マグダリーナは一生重いものを心に抱えてしまう気がした。



「セドさんも流石に頭を抱えてそうよね」


 エステラの呟きに、ダーモットがぴくりと肩を揺らす。


 ハラが珍しくエステラにおねだりした。


「ハラ、バーナード悲しませたくないの」

『うむ、我の弟子でもあるしな』


 ササミ(メス)もクチバシをエステラに擦り付ける。


 バーナードは意外と人望ならぬ魔獣望があったようだ。ハンフリータイプか?

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