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57. 王女の縁談

「まあ、マグダリーナは飛び級した才媛なのに、苦手な科目もあったのね。私安心しましたわ」


 一限と二限の間の休憩時間に、アグネス第二王女がマグダリーナの机を覗き込んで呟いた。


 マグダリーナは必死に次の社会科について予習していたところだった。


「我が家自体が貴族として歴史も浅く、父も社交をしない質なので、社会科はいまいち聞いていても実感が湧かないからか、覚え辛いのです……」


「ショウネシー子爵家は確か、エイブリング辺境伯領の出で、辺境伯領で魔獣や薬香草の研究をした功績を認められて子爵になったのでしたわね。コッコカトリスとその卵の発見が特に大きかったとか」

「そうだったんですか?! 父からは初代の話を聞くことはなかったので、初めて知りました」


 アグネスは嬉しそうに笑った。


「実は話のきっかけになればと、調べましたの。よかったら今日のお昼はサロンでご一緒しません? もちろんヴェリタスも一緒に」

「あの、嬉しいお誘いですが、私もヴェリタスもお弁当持参でして」

「構わなくってよ! たまにはお話ししてちょうだい」


 そんな訳で、その日のお昼はマグダリーナにとって初の学園サロンとなった。



 サロン内はそれぞれ席が衝立で仕切られており、各テーブルの話し声が漏れないよう、防音の魔法もかかっていた。


「こっちよ」


 アグネス王女の案内で、王族用の奥の席へ向かう。待っていたのは、第一王女のドロシーとバーナードだった。


「エリック兄様は?」

 ドロシーは首を振った。


「今日は学生会の仕事をしながら、あちらで食べるそうよ」

「ドロシー様、アグネス様、お招きありがとうございます」


 マグダリーナとヴェリタスは礼をする。


「ここは学園なので楽になさって。どうぞ座って」


 メインのメニューが選べるらしく、王女達とバーナードは牛のステーキを選んだ。肉食女子は嫌いじゃない。


 マグダリーナとヴェリタスは持参したお弁当を広げる。


「まあ、なんて可愛らしいの!」


 二人の王女は感嘆の声を上げた。


 今日のお弁当はメインがオークカツ、シャキシャキの千切りキャベツの他に、エビと野菜のテリーヌ、キャロットラペ、胡麻豆腐に茄子の揚げ浸し、トマトとチーズのサンドイッチ。そしてデザートはバナナが添えられたチョコレートケーキだった。


 そして野菜具沢山の味噌汁。


「色んな色の食べ物があるのね」

「鮮やかな色のものは、殆ど野菜です」

「まあ、平民はこんな素敵な食事をしているの?」

「わが領内の店舗に、食にこだわっているところがありまして、そのおかげです」


 ヴェリタスがチョコレートケーキとバナナを綺麗に半分にして、バーナードに渡す。


 マグダリーナも半分取り分けて、テーブルにある小皿に置いて「良ければお二人で分けて下さいと渡す」


 バーナードは皿を持ち上げてじっと見た。


「こんな茶色いもの初めて見る。だが甘い香りがするな」

「お菓子なので最後にどうぞ」

「まあお菓子なの?」

「平民向けなので貴族用のお菓子よりだいぶん砂糖は減らしてありますが、ショウネシー領でしか作っていないものですので、試していただけると嬉しいです」


 授業はどうだ、流行りのファッションはと差し障りない話題を挟みながら食事は進み、王族達にデザートが運ばれて来た。


「お姉さま、先にマグダリーナのお菓子をいただきましょう」

「ええ」


 ひと足先にチョコレートケーキにフォークを入れたバーナードが唸った。


「これは……柔らかく口の中で解ける……ケーキ生地で何かを挟んであるのか……」


 そのまま目を瞑り静かに味を堪能する。


「なんて美味しいの!」

「以外……素敵なお味だわ!」


 王女様方も気に入っていただけだようだ。



 食後の紅茶を飲みながら、和やかな談笑が進む。


「ところで、ショウネシー領にいらっしゃるハイエルフとは、どの様な方々ですの?」


 ドロシー王女が水を向けてきて、マグダリーナはこれが本題だとピンときた。


「容姿はとても美しく、魔力も強い……それはなんとなく分かりますの。ただ先日王宮に現れてバーナードを連れ去った方は……少し恐ろしく感じましたわ」


 エデンだ。よりにもよって、一番変わった人が出てきてしまった。どうしよう。


 どういう意図でハイエルフのことが知りたいのかわからず、マグダリーナはヴェリタスを見る。


「彼はハイエルフの最長老で、創世の女神との記憶を持つ始まりのハイエルフの一人です。四千年以上自由に生きてこられたので、私達の身分制度の枠外にある存在だと理解していただければ」


 ヴェリタスが上手いこと言ってくれて、マグダリーナは内心ホッとする。


「そんなに長生きなさっているの?! でもエルフ族も長命ですものね……」


 アグネス王女が少し躊躇いながら聞いた。


「ハイエルフとエルフはどう違うのかしら?」


 これはマグダリーナも答えられる質問だ。


「ハイエルフとエルフは外見こそ似通ってますが、種族として全く違うのです。ハイエルフは肉体を持った精霊として女神に作られ、基本的に自由と平穏を好みます。外見で見分ける方法は、ハイエルフでしたら額に精石と呼ばれる石がついてます……ですが、前髪で隠れている場合もあるので、確実なのは現存する六人のハイエルフの顔を覚えてしまうことです」


「まあ、バーナードは何人の方とお知り合いになったの?」

「えっと、三人です。エデンにニレルとアーベル」


「その御三方の中に、ドロシー姉様と合いそうな方はいらして?」

「はい?!」

「へ?」


 アグネスの爆弾発言に、バーナードは、声が裏返る。

 マグダリーナもうっかり、変な声が出た。


 ドロシーはため息をついて頬に手を当てた。


「実はエルロンド王国から私に縁談がありまして……父上はお断りすると申しますけど、貴族派からは交戦的なエルロンド王国に逆らうのは得策でないとの反対意見もありますの……」


 ヴェリタスが眉間に皺を寄せた。


「他国と親交しないエルロンドがこのタイミングで王女に縁談って……つまり教国の背後にエルロンド王国がいるから、攻められたく無かったら王女を人質に寄越せってことだよな。女神教絡みか……」

「そんな……」


 女神教関係者としては、マグダリーナも不安になる。


「意図はそうでも、現実にはエルロンドがうちを攻めるのは難しいだろ……地理的にいくつも国を挟んでるからな。多分王様はそれを見越して縁談を断るつもりなんだと思う」


 ヴェリタスはこっそり鞄ポケットの中のチャーに、今の話をシャロン達にも伝えるよう命じた。


「そうだと思うのですが、お姉様がハイエルフの方と婚約してしまえば、貴族派も強く出れないと思いましたの」


 ヴェリタスは首を振った。

「そうなったら、次はアグネス王女に話が回ってくるだけです」

「それはダメよ、アギー。貴女をエルロンドへ行かせる訳には行かないわ」

「お姉様……」


(ルタとは一つしか違わないのに、よくこの話についていってるわ……やっぱり家柄……ううん、シャロン伯母様の教育かしら……)


 ヴェリタスより家柄の良いバーナードを見て、マグダリーナは思った。


 バーナードも難しい顔をしているが、これはマグダリーナと同じく話についていけなくて、一生懸命内容を咀嚼してる顔だと直感した。

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