表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/285

54. 女神の精石

「と言うわけで、悪い大人達から死守した私を褒めてほしい」


 学園から帰ると、エステラから図書館に集合するよう伝言があり、マグダリーナとヴェリタスは、ヴェリタスのチャーですぐ転移した。


 その日アンソニーは一日中図書館で読書をしていたらしく、マグダリーナ達を見つけると笑顔でおかえりなさいを言ってくれる。


 図書館の一階の一部屋に、アーベルも呼んで、エステラは皆んなに紅茶とショコラテリーヌを配る。


 紅茶は香り高く、以前王宮で飲んだものより上等そうだった。


「あ、そうそう」


 エステラは魔法収納から大きな宝石の乗った小さな祭壇を出し、そこに紅茶とチョコレート菓子を供える。

 ハイエルフ達がぎょっとして祭壇を見た。


「女神様どうぞお納め下さい。お師匠や母さんにも届きますように」


 エステラが祈りを捧げると、ふわりと祭壇が輝き、紅茶とお菓子は消えてティーカップとお皿だけが残った。


 皆んな呆然とその様子を見つめる。


 祭壇がまた輝くと、ことんとティーカップの中に、祭壇と同じ拳大の煌めく宝石があった。


「女神の精石……!!」


 ヨナスが震えた。


「まさか……僕たちの代で本物を見ることができるなんて……」

「落ち着いて、私もびっくりしてるけど落ち着いて、まずは冷めないうちに紅茶を味わって」


 エステラもアワアワしてるので、とんでもないことが起こったことはわかった。だが、紅茶を一口飲んで、マグダリーナの脳内は全部吹き飛んだ。


「美味しい……っ!! 口の中がすごく花のような香りで! でもどこかほっとする焼き菓子のような甘い香りもあるというか……」


 デボラも頬を薔薇色にして、笑顔になる。

「美味しい! こっちのお菓子もすっごく美味しい!! 紅茶飲んで、お菓子食べて、また紅茶飲んだら、すっごく幸せになれるのよ! ヨナスも早く食べてみて!」


(わかる! デボラさんの言いたいこと、めっちゃわかる!!)


 マグダリーナは何度も頷いた。


「島にあったのは、カカオの実だったの?」

「そうなのよ! もうチョコを作るしかないと思って、全力でチョコレート製造の魔法を作ったわ」

「全力出してくれてありがとう……チョコ美味しい……」


 アーベルとヴェリタスとヨナスは、始終無言で紅茶とショコラテリーヌをせっせと口に運んでいる。どうやら彼らもお気に召したようだ。


 アンソニーも蕩けそうな顔をして食べている。


「お菓子もとっても美味しいんですけど、こんな美味しい紅茶も初めて飲みます! もしかしてこれもエステラが作ったんですか?」


「そうよーヒラとハラに手伝ってもらって、お茶の木を栽培しました」


 エステラの肩の上で、二匹はガッツポーズを作る。キランとイケスライムパウダーが弾けた。


 ヨナスが紅茶を飲み干して、ため息をついた。


「エステラ様程の魔法使いが、どうして美味しい食べ物とか便利な生活とかに、その能力全振りしてるんですか? この紅茶淹れるだけでも、かなり魔法を使ってますよね?」

「だって美味しい紅茶飲みたいじゃない!! それに日常的に使わないと魔法は上達しないわよ?」

「それはわかるけど、わかるけど……」


「ヨナスは色々考えすぎだ。エステラが他国を侵略するより、日常を大切にすることに女神の奇跡を使ってるんだ、俺たちも見習って今の生活を大事にしていけばいい」


 アーベルの言葉にヨナスは頭を掻いた。


「そんなこと分かってるけど、アーベルは短期間にこの状態に馴染み過ぎだよ」



「それで、この女神の精石ってなんなんだ」


 ヴェリタスがヨナスに聞く。


「創世の女神の魔力が……いや、この場合神力って云った方が良いのかな? とにかく、女神の神力が結晶化したものだ。始まりのハイエルフ達に三つ与えられ、女神が神界に還られた後は、女神の依代として三つの神殿でそれぞれ祀られていたんだ。

でもウシュ帝国崩壊時に、一つは金のハイドラゴンが女神の元に還るために飲み込んで、もう存在しない」


「残り二つはどうなったんですか?」

 アンソニーが興味深々に尋ねる。


「うん、エステラ様が出した祭壇に付いてるのが、多分白の神殿に祀られていたものだ。えーと、神官は確かエルフェーラ様と一緒に精霊化したから、ディオンヌ様が持っていたんだな……ディオンヌ様がエデン様から女神の名を盗むことができたのも、多分その石の力を使ったからかも知れない」


 マグダリーナは以前エステラがエデンを黒の神官と言ってたのを思い出した。


「もしかして、最後の一つはエデンが持ってるの?」


 マグダリーナの言葉に、ハイエルフ達は首を振った。


「エデン様が持ってた石は、今公園の噴水にある女神像の中だよ」

「!!」

「だから僕たちも実物を見るのは、今日初めて。エステラ様、僕らも祭壇に祈らせてもらってもいいですか?」

「それはもちろん! どうぞ」


 ハイエルフ達に混ざって、マグダリーナ達も女神様にお祈りをした。


「あ」


 合わせた手のひらの中に、何かがあるのを感じて手を開くと、小指の爪程の小さな女神の精石があった。


 どうやら全員漏れなく貰えたようで、さらに追加で皿の上に数十粒、同じく小粒の石がバラバラと現れ出した。


「えっと、普段はこんなこと無いのよ……今日は女神様のご機嫌が……良いのかな?」

「紅茶とお菓子のせいだわ……きっととてもお気に召したのよ!」


 困惑するエステラに、デボラが力説した。


 ヒラとハラが祭壇の前のお皿に近づく。


「これヒラのぉ!」

「ハラはこれなの!」


 ヒラとハラはそれぞれ石を選ぶと、額にくっつけた。


「タラ似合うぅ?」

「ええ、二人ともとっても素敵よ」

「この中に、ササミの分もあるの」


 ハラがお皿を指す。どうやらお皿の石達も、何かしら行き先のご縁がありそうだ。エステラは布の巾着袋に丁寧に仕舞い始めた。


 ハイエルフ達も動揺している。


「どどどうしよう、個別に女神の精石をいただけるなんて……無くさないようにしなくちゃ」


 目を白黒させてるデボラの横で、アーベルが黙って前髪を掻き上げ、己の額の精石に女神の精石をくっつけた。


 すぅと女神の精石は中に取り込まれていった。


「なる……ほど」

 ヨナスがアーベルの真似をして、額の精石に女神の精石を取り込ませる。


 デボラも落ち着いて、それに倣った。


「あ、くっ付いた」

 ヴェリタスがおでこに石を触れさせながら言った。


「どうなってる?」


 ヴェリタスがアーベルに額を見せて聞く。アーベルは慎重にヴェリタスの額に触れた。


「俺たちの精石の様に、額に埋まった所は肉体と同化してるな。一度イラナかエデン様に見てもらった方が良い」


 さっそくアンソニーも額につけようとするのを、慌ててマグダリーナは止めた。

もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ