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51. 女神教神殿

 そしてエデンは素早く教会員の腕を捻り上げた。


 ニレルがパチンと指を鳴らすと、わらわらと転移魔法でマゴーが現れる。


「グレイとマゴーA班は関係者全員を捕縛。マゴーB班はリーナ達と怪我人の治療と避難を。マゴーC班は地下のアーベルに合流」


 ニレルが淡々と指示を出す。


 マグダリーナ達は事前に教会に怪我人がいた場合、治癒魔法をかけて教会から避難することは聞いていたけど、この大捕物はなんだろう。

 


 外からはコッコ(オス)の雄叫びも聞こえ始めたので、逃亡者が追い立てられてるのかもしれない。


「くっはははは! こいつは教国に送り帰す手間が省けるな!」


 エデンは捕まえていた教会員を縛り上げると無造作にマゴーに渡した。



「エリアハイヒール!」


 マグダリーナは回復魔法で、治療場に寝かされていた人達全員を一気に治癒した。


「ととのえよ!」


 アンソニーも真似して広範囲にととのえる魔法をかける。


「傷が……」

「服についた血も破れまで、無くなった……」


 呆然としている元怪我人達に、ヴェリタスが声をかける。


「ここは直ぐに取り壊されます! こっちから急いで外に出て下さい」


 何が起こってるのかわからない人々は、直ぐには行動に移せず、マゴーに強制的に辺境伯邸へ転移されてしまった。


「俺たちも外へ出よう。バーナード王子は俺の側から離れないで。リーナとトニーも二人で手を繋いで俺たちの近くにいて」

「ねえ、エデンが言ってた有罪って何?」


 マグダリーナの疑問にヴェリタスは少し躊躇ってから返答した。


「エルフはハーフの子が生まれたら、捨てて流民にするか、自国の奴隷にするか、人買いに売るんだ……」


 つまり、それは。



「なんなんだ、なんでエルフがこんな真似を! 『お得意様』のくせに!!」


 教会の外に出ると、縛り上げられた教会関係者達が、口々にエデンとニレルを罵っていた。


 そういえば、マーシャとメルシャを外国に売ろうと狙っていた男は、上級回復薬を持っていた。あの男も教会関係者だったのかも知れない……


「タラぁ、証拠の品、辺境伯のとこ持っていったよぉ」


 エステラにべったりだったヒラを見かけないと思ったら、仕事をしていたらしい。


 転移魔法で現れて、いつもの位置に……エステラの肩の上に、ぽよっと着いた。


「地下の人達も、一緒に届けてきたの」


 ハラも現れた。


 エステラはマグダリーナ達に気づくと、ドレスの裾を上げて駆け寄ってくる。


「皆んな無事? 怪我とか無い?」

「大丈夫よ」

「ごめんね、びっくりしたでしょう? 教会に入る前に念のため索敵と鑑定かけたら、辺境伯から借りた建築図面にない地下ができてるのに気づいて、こうなっちゃったのよ」


「地下には何があったのだ?」

 バーナードが不安気に聞く。


「地下牢よ。囚われてた人達も辺境伯邸に送って保護をお願いしてきたから、あっちはきっとてんてこ舞いね」


 辺境伯もまさか自領の教会が、人身売買組織になってるとは思いもよらなかっただろう……


 いや、可能性は考えたかも知れないけど、容易に調査できなかったのかも知れない……



「王様が教会を国から追い出したいのは、単純に利益だけの問題じゃなかったのね……」


 マグダリーナの呟きを、バーナードは真剣な顔をして聞いていた。


 教会の中が空になったのを確認して、ニレルが教会を解体していく。


 教会の上に大きな魔法陣が浮かび上がり、教会に向けて降りてくる。


 魔法陣に触れたところから線香花火のような、細かい光を散らしながら消えて無くなっていく――


 煩かった教会員達は、一様に口を噤んだ。


 すっかり何も無くなった教会跡地に、今度はエステラが地面に魔法陣を浮かび上がらせる。


 魔法陣から光の柱が立ち上り、辺り一面眩しく照らしたと思った瞬間、白く美しい神殿が出来上がっていた。



「綺麗……!」

 マグダリーナは感嘆の声を上げた。


「なんだこれは……このような美しい建物が一瞬で……」

「奇跡だ……」


 捉えられている教会員達も、呆然と神殿を見つめている。



 正面は大きな柱が聳え立つ、女神像が設置された本殿で、中に入ると大きな水盤があり、その中心に光輪を背にした女神像がある。


 天井は高く、天井も壁面も一面に幾何学模様や草木をモチーフにした彫刻が施されている。


 天井のレースのような細かな明かり取りの窓からの陽光が、水面に反射する輝きが、壁面に設置された灯りに浮き彫りにされる彫刻の陰影が、より一層女神像の神秘性を際立たせていた。


「ここにいて女神像を眺めていると、とても静かであたたかな気持ちになります」


 アンソニーの言葉にマグダリーナも頷いた。


「ええそうね、これからこの女神像が辺境伯領を見守ってくれるのね」

「でも僕、うちの領の噴水の女神様も、負けないくらい大好きです。とても身近な感じがするので」


 二人は目を合わせて、ふふふと笑みを交わす。


「なんだかうちの領の女神様に早く会いたくなって来たわ」




「これは……このような美しいものが、我が領に……」


 駆けつけてきたエイブリング辺境伯は、神殿と女神像を見て目を見開いた。


 エステラが辺境伯に女神像と設備について説明する。


「女神像や建物には防汚魔法があらかじめかけてありますので、高い所に登って掃除する必要はありません。普段は床掃除くらいで大丈夫です。灯りも光の妖精が球体の中に勝手に入って光ってるので、そのままで大丈夫です」


「妖精が……?!」

「女神の気配に惹かれて集まってくるので、それを利用してます」


「女神の気配……その……創世の女神というのは、陛下が教会を排除するための方便ではなかったのか……」


 エステラは辺境伯に頷いた。


「私達にとっては、確かに創世の女神は存在します。あとこの本殿の奥は治療と神官達の仕事場と住居になります。横の建物は本殿を参拝する方の休憩所に。どちらも都合に応じて改装や増築をしていっても構いませんが、女神像とこの本殿はこのままに」

「わかった。神官が決まるまでは、騎士達に掃除と見回りをさせる事にしよう」



 結局予定外の捕物のせいで、城下町の観光はせずに帰る事になった。


 エデンがバーナードを王宮に帰して、ショウネシー領に戻る。



 冒険者ギルドでは、晴れてグレイ、ヴェリタス、アンソニーがDランクになった。


 そして辺境伯領に突如現れた、美しい神殿は、国内外共に注目されるものとなる。

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