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50. 聖エルフェーラ教会の謎

 マグダリーナ達が熊師匠と戯れている間、エイブリング辺境伯は『その日』決して領民が教会に近付かぬよう、騎士達に命じて準備していた。



 遠足三日目は教会の見学だ。


 その日は珍しくエステラがドレスを着た。


「お金持ちの家の子に見える?」


 淡い光沢のある金真珠のような絹のドレスを纏って、優雅にくるりと回る。髪も下ろしてサイドを編み込んで後ろで髪飾りで留めていた。


「バッチリよ!」


 マグダリーナもエステラとお揃いで銀真珠みたいな色違いのドレスを着ている。貴族として生まれた今世で、一番質の良い布地で作られたドレスだ。


 そういえばこの世界でドレスとしての絹地は初めて見たかも。家が貧乏だったことを抜きにしても、元侯爵家にいたヴェリタスや、王族のバーナードの衣類は綿とか麻の様に思えた。


 おしゃれをしたのは二人だけじゃなく、他のメンバーもだ。


 その方が面倒なく中を見回りやすいというのがエデンの意見であり、多分それは間違ってない。


 因みに衣装は全員分エデンが用意した。


 皆んなが熊師匠と修行してる間に、魔法で作っていたらしい。


「エデンは服飾店をしてもいいんじゃ無い?」

「くはは、基本儀式の時くらいしか、ハイエルフは着飾らないんだ。流行には然程関心ないんでねー。イマドキが分からんから、ディオンヌ商会としては、そこは人に任せたい」


 なるほど。確かにドレスにフリルは付いてるが全体の形が少し古風で大人っぽい感じがするのはデザインが古かったのか……


「私はこのドレスすごく好きよ。エステラとお揃いに作ってくれてありがとう」

「ドウイタシマシテ」


 エデンが照れ笑いを返してくれた。



 マグダリーナとアンソニーにとっては、生まれて初めての教会だった。


 エステラにとってもそうだったらしく、ワクワクして中に入った。


「いらっしゃい。魔力鑑定かな、お嬢さん方」


 教会員が優しげに、手を繋いで歩くマグダリーナとエステラに声をかけてきた。


 魔力鑑定の仕組みにはとても興味があるが、その好奇心に金貨一枚は流石に見合わない。


 だがエステラは、そう思わなかったらしく、金貨をニ枚出した。


「私とこの子の分よ」


 教会に着いたら、エステラ以外の子供達は話をせず大人しくしておくこと。


 これが今回の注意事項なので、マグダリーナは大人しく従った。あとで自分の分の金貨は渡そう。


「この子からお願い」

「分かりました」


 教会員が祭壇から水晶玉のようなものを取り出して、片手に持ちながら反対の手をマグダリーナに翳した。


 彼が詠唱を始めると腕輪の防御魔法が起動した。


「これは……何も見えない? まさかそんな……」

「あら? 鑑定できないの? じゃあいいわ。また機会があった時にする」


 エステラは金貨を引き取ろうとすると、教会員に止められた。


「申し訳ございません……こちらはお布施になりますので、返金致しかねます」


 そこに、エデンとニレルが教会に入ってきた。


 明らかにその場の、空気が変わる。


「私の娘が、何かしましたかな?」

「エルフの貴族……っ?!」


 小さく教会員が息を呑んだ。


「この教会を見学させてもらっても、構わないかい?」


 エデンが見せたその笑みは、断ることを許さない傲慢さを含んでいた。



 その隙に、エステラの払った金貨達に小さな足が生えて、さささっと移動したのをマグダリーナは見てしまった。


 教会の建設は、その国の領主が行うことになっているので、土地と建物自体は辺境伯領のものとなる。


 土地柄治療関係に重点を置いた作りになっていて、今も冒険者や騎士が何人か、治療のために寝かされているようだった。



「どうして彼らを直ぐに治してあげないの?」


 エステラは子供らしい無邪気さで、案内の教会員に聞く。


「治癒の魔法を使えるものは非常に貴重でして、この教会でもたった一人だけなのです。その方に無理をさせないよう対応しておりますので」

「回復薬は使わないの?」

「冬の魔物討伐でほぼ回復薬は使い切ってしまいますので、この時期はいつも在庫が足りなくなりましてね……」


「ふーん、その間の滞在費はどうなるの?」

「辺境伯からのお布施で何割かご負担いただいております。それ以外は実費でお支払いいただく決まりです」


 どうにも落ち着かない。マグダリーナは無意識に腕をさすった。


 周囲の教会員達の視線が、やけに突き刺さるのだ。


 特にエステラを見る視線に、異様な熱が含まれている気がする。


「なかなか利発なお嬢さんですね」


 教会員がエデンをちらりと見る。彼の尖った耳が気になるようだ。


「お嬢さんはハーフのようですが……」

「そうだとも。だがそれなりの教養は与えてきた。後は良い『嫁ぎ先』を探すだけだよ」

「お嬢さんでしたら、引く手数多でしょう。もしよろしければ、こちらでご紹介させていただきますが?」

「そちらで? 教会でしょう、ここは」

「ええ、ですから大陸の各国にご縁があるのです」


(教会で婚活できるとは知らなかったわ。シャロン伯母様はそんなことおっしゃらなかったし)


 呑気にそう思ったマグダリーナだったが、グレイとヴェリタスの眉間に皺ができてるのに気付いて、ただの婚活ではないと、なんとなく察した。


「なるほど」

 エデンは親しみをこめた微笑みで、教会員の肩に振れる。


「有罪だ」

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