44. ショウネシーの朝練
いかに令嬢がお淑やかであるものだとしても、体力はあるに越したことはないだろう。
目に見えて強くなっている、アンソニーやヴェリタスを見て、マグダリーナは段々そう考えるようになっていた。
その頃ショウネシー邸周辺では、早朝、館の周囲を走り、魔法の訓練をする通称「朝練」がいつの間にか発生していた。
マグダリーナもこれに参加する事にする。
朝練のメンバーは、エステラとニレル、アーベル、グレイ、アンソニー、ヴェリタスの他に、なんとハンフリーもいた。机仕事ばかりじゃ身体に良くないとニレルに連れ出されているらしい。
やり過ぎると日中の仕事や学業に支障が出るので、朝練は軽いものだそうだ。
まずはラジオ体操の後、ショウネシー邸の周囲を一周普通に走り、その後身体強化魔法に風魔法をかけながら二周目を走る。
普通は複数の魔法を同時に使わないものらしい。
真っさらな状態で、やれると言われれば素直に信じてやってしまうアンソニー以外は、かなり苦戦した。
今は普段あまり魔法を使わないハンフリーまで、なんとかできるようになっていた。
その後は、それぞれ魔法や剣術などの訓練をする。
この時点で朝練って軽いものじゃなかったっけ? と、マグダリーナは少し遠い目をした。
魔法の訓練の時に、エステラに昨日思った、大人数に回復魔法を掛るやり方を相談してみた。
「それは対象を点じゃなくて面や空間で考えればいいのよ。こんな感じ。エリアヒール」
エステラはわかりやすく朝練メンバー全員に回復魔法をかけて見せてくれる。
「他の魔法も一緒よ。マゴーの防汚魔法とか集まってる人に一気にかけてたじゃない」
バーベキューの時を思い出す。イメージが掴めて来た。
「ととのえるを家全体にかける、みたいな感じにすればいいのね」
「そうそう」
「練習したいんだけど、軽いヒールくらいなら、特に何もなくても毎日掛けて大丈夫?」
「大丈夫よ。おススメは夜寝る前ね。ぐっすり寝れるから」
よし、日課にしよう。
学園三日目もテストだ。
前日が国語、算数、国学、社会、魔法……
国学というのは、お金の単位や種類、他国のことや、生活の常識や宗教について習ったりする。
社会は貴族の序列や役割などの貴族社会についてだった。
どれもテストは初等部では簡単な範囲だけだ。
今日は理科だけがテストで後は普通の授業だった。
毎日午後の二時間は魔法学の授業と決まっているが、マグダリーナは魔法学の合格証ではなく修了証を貰ってしまったので、今後この時間をどの授業に充てるか考えないと行けない。
朝のホームルームで、昨日のテスト結果が返ってきた。魔法学の以外の残り四教科、全部合格証がついていた。嬉しい。
「ショウネシーさん、午後の授業の時間に教員室に来てください」
「わかりました」
アーロン先生の呼び出しなら、これからの午後の授業か昨日の件だろうと予想をつける。
理科のテストも問題ない出来だと思えた。
しかし、その後の体育の授業がとても微妙だった。
男子は外で走ったり球技をするのに、女子はドレスでダンスルームを歩いたり、マイムマイムみたいなダンスをする。
あくまでお淑やかにだ。
運動と体力の不足が気になったので、朝練は続けようとマグダリーナは決心した。
前世では、若いうちにもっと体力つけておけば良かったと、よく後悔したのを思い出して。
次の授業が芸術で、日によって音楽だったり図画だったりするようだ。
午前の最後の時間はダンスだった。
こちらは舞踏会で踊る男女ペアの踊りで、貴族の必須科目だが、最低限踊れれば良いので、飛び級には関係しない。
午前の授業が終わると、食堂でヴェリタスと合流した。
「信じられないんだけど、魔法学で修了証貰ったんだよ」
開口一番、彼はそう言った。
「おめでとう! 朝練の成果よね」
「ありがとう。そういえばリーナも昨日修了って言われたんだって? おめでとう! 順調に飛び級できそうか?」
「ありがとう。今日の理科の結果次第だけど、多分大丈夫だと思う」
今日はマグダリーナも、うまみ屋の特製日替り弁当だ。
彩りよく品数多く、量は程よく、ナイフがなくても食べやすいサイズ、そして絶対使い方が間違っている細やかな設定の結界魔法で、他のお菜と味が混ざらないよう配慮されていた。
「昼休みが終わったら、教員室に行かなきゃ行けないんだよなぁ」
ぽつりとヴェリタスが言う。
「あら、私もよ」
二人は顔を見合わせた。
「やっぱ昨日の件かな」
「魔法学の授業の代わりの事かも知れないじゃない」
「そっちはそっちで悩むよな。リーナは将来ショウネシー領の仕事するって決めてるんだろう? そこんとこ俺はまだふらふらしてるから」
「てっきり冒険者で生きていくんだと思ってた……」
「それはもしもの時の手に職だな。まずは母上を安心させたいから、何かしら考えないとな」
ふとマグダリーナは昨日の第二王子を思い出して、笑みを噛み殺した。
「シャロン伯母様が王妃様のお話相手をされているんだから、王族の相談役ってどう?」
「なんだそれ、どっからそういう発想出てくるんだよ」
ヴェリタスは、愉快そうに笑った。
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