40. 王立学園入学
リーン王国の王立学園は、初等部ニ年、中等部三年、高等部三年の計八年だ。
十歳を迎えた貴族の子息と、魔力の認められた平民が通うことが出来る。
まあつまり、殆ど貴族の子息だ。
もちろん十歳を過ぎてから入学する者もいる。外から迎え入れられる庶子などだ。
卒業後には、女子は結婚適齢期に突入するので、王立大学まで進ませる親はいない。
マグダリーナもなるべく早く、領地の役に立ちたいので、大学まで進む気は無かった。
今年初等部二年になったヴェリタスに聞くところによると、初等部一年は王族、公爵家、侯爵家、辺境伯家がAクラスと決まっていて、あとは入学試験の成績順にクラス分けされる。
入試免除のマグダリーナはAクラスで間違いないだろうとの事だった。
貴族の入学試験は読み書きさえ出来れば落ちることはなく、クラス分けの為にするらしいので。
二年からは完全な成績順でクラスが決まるらしく、飛び級できるのは成績優秀なAクラスの生徒のみだ。
中等部からは専攻学科でクラス分けされ、飛び級制度はない。
とりあえず、シャロンが言っていたオーブリー侯爵の庶子達と第二王子とは同じクラスが決定してしまったようなので、飛び級の計画を練らなければならない。
通学はコッコ車だ。
これは今年の一月からヴェリタスが使っているので、学園側も慣れてるはずと思いたい。
違いと言えば、今まではアスティン家のコッコ車だったのがショウネシー家のコッコ車でマグダリーナとヴェリタスが一緒に通うことだ。
今日は入学式で一応ダーモットやシャロンまでもが来賓として参加してくれるので、別々のコッコ車に乗る。
王都からショウネシー領までは通常なら馬車で数週間かかる。
だがコッコ車は王都の目的地まで十分程度で着く。
空路で最短距離を行くだけじゃなく、途中で転移魔法でショートカットしていたからだ。
コッコ(メス)はコッコ(オス)に比べてかなり器用な魔法の使い方をするようだ。ハンフリーの本体(眼鏡)も作ったし……
入学式は滞りなくなく進んでいった。
学園長の挨拶、学生会長の挨拶……学生会長は第一王子のエリックだった。
王妃様似の桃色の髪に見覚えがある。
マグダリーナが見た時は、病で弱った姿だったが、今は元気そうで本当に良かったと思う。
不意に、エリックの視線がマグダリーナを捉えて微笑みに変わる。
女生徒達が色めき立った。
新入生代表は第二王子のバーナードだ。こちらはセドリック王に似た鈍色の髪をしていた。
Aクラスの教室に入り、窓側の前から順番に席につく。
家柄と成績順のクラスなので、男女の比率が同じという事はなく、男子の方が目立った。
一人赤髪の大きな子が混ざっているが、きっと彼がヴェリタスの異母兄なのだろう。
「担任のアーロンです。担任教科は数学。これから一年頑張りましょう。まずは自己紹介を……そちらの席から順番にどうぞ」
窓側一番前の席を指してアーロンは頷いた。第二王子が座っている。
「第二王子のバーナードだ。中等部は騎士科へ進む。火魔法が得意だ」
第二王子は顔立ちは整っているが、気の強そうな感じだ。
それにしても得意魔法を言わなきゃいけない感じなのか、どうしようかなとマグダリーナは逡巡する。嘘は苦手だった。
「ライアン・オーブリー、オーブリー侯爵家の嫡男だ。火魔法が使える」
やっぱり赤髪の彼がオーブリー侯爵の庶子だった。
ヴェリタスはもうオーブリー侯爵家を出たのだから間違いは無いんだけど、貴族として来てるのだからその態度も間違いはないんだろうけど、個人的な感情で堂々と嫡男と言う姿にもやっとした。
(そもそもダメなのは子供達でなく、オーブリー侯爵って、頭では理解してるのになぁ)
次は赤毛の女の子だ。
「私はレベッカ・オーブリーよ。オーブリー侯爵家の長女です。聖魔法が使えるのよ」
胸を張って言うその姿に、教室がどよめいた。聖魔法は貴重だったからだ。
その後伯爵家の男女数名の紹介のあと、とうとうマグダリーナの順が回ってきた。
「マグダリーナ・ショウネシーです。ショウネシー子爵家の長女ですが、私自身は魔法を使うことはできません。学園には領地経営を学びに来ました」
しん、と教室が静まりかえった。
魔法が使え無いのは貴族として致命的だからだ。
しかしマグダリーナの母は伯爵家に引き取られたものの教会に連れて行って貰えず、それこそ全く魔法が使えない状態で学園生活を送ったのだから、マグダリーナがこの程度で落ち込むわけには行かない。
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