39. 国王陛下からの宿題
「まあ、まだ学園にも入学していない子に、陛下も無茶をおっしゃること」
シャロンのもっともな意見に、マグダリーナは内心何度も首を縦に振った。
創世の女神関連については、エステラが担当してくれるので、マグダリーナは教会関連を担当する。
そうなると世情に詳しいシャロンに相談するのが一番だろうと、マグダリーナはアスティン邸を訪れた。
そもそもマグダリーナは教会については、魔法が使えるように金貨一枚で魔力鑑定をしているということしか知らない。
「他に教会って何をしているんですか?」
「そうね、聖属性の魔法使いを集めて、回復魔法と浄化魔法の施し、信者や各王国への祝福ね。これもお布施が必要よ。あとは祈りの場の提供かしら」
「もしかしてお布施は殆ど、金貨単位だったりしますか?」
「そうよ。最低十万エルね。まず国は予算を取って、定期的に教会にお布施を払って、王宮の他に王都の畜産家など病気が流行り易い所の浄化を依頼しているわ。王都以外は各領地の領主の役目ね」
なるほど、魔る蜂の件は、領主がお布施をケチって依頼してなかったか、教会がサボったかだろうか。
「孤児院の運営とかはしていないんですか?」
前世のライトノベルとかでは、教会が孤児院も運営してるのは定番だった気がする。
「それは領主の仕事ね。何故なら、孤児は領民だから。教会に関するものは全て聖エルフェーラ教本部のある、聖エルフェーラ教国のものとされるからよ」
(!!)
なんと他国の介入だった。どおりで国王陛下が排除したがるはずだ。
「ですから、大陸中の国からの、多額のお布施の何割かが、聖エルフェーラ教国に流れて行っているの。世界で一番お金を持っている国ね」
「まあ」
「そして世界の言語とお金の単位と価値が統一されているのは、聖エルフェーラ教が、世界中で活動しやすいようにと働きかけた結果でもあるのよ」
「なるほど……」
現在世界中の国が女神エルフェーラを信仰している。
うちの国だけ違う神様信仰しますよーなんて言ったら、教国だけじゃなく、他の国からも圧がかかったりしない?
やだ、これ本気で十歳の少女に出す問題じゃないでしょ。
「陛下は創世の女神を信仰の対象に置き換えたいみたいでしたけど、まず大前提として、創世の女神と共に女神エルフェーラを信仰する方向にしたらどうでしょうか? エデンに聞いたところによると、創世の女神には肉体がなく、大いなる輝きとしか表現しようのない存在とのことなのです。でも信仰の対象には想像しやすい身近な姿があった方がいいと思うのです。女神エルフェーラが、私達の祈りを創世の女神に届けてくれるという感じで、聖エルフェーラ教を真っ向から否定せず、女神の役割という方向性の違いにした方が、他国に対して角も立たないと思うのですが……」
「そうね、いい考えだと思うわ」
シャロンが頷く。そしてメモパッドにサラサラと絵を描いていく。
「こんな感じで女神エルフェーラの背後に眩い光輪を加える感じなど良くなくて?」
「私のイメージもその通りです! あと女神の光花の花冠もつけたいです!」
新年の祭りで見たハイエルフ達が、花冠をつけていたのを思い出す。
「あら、素敵ね」
少々脱線してきたので、今までのメモを見返した。
「一旦、仮に『女神教』と呼称することとして、女神教の信仰拠点を『神殿』、神殿で信仰活動や運営を取り仕切る者を『神官』とします。まず問題は教会のおこなってきた魔力鑑定ですけど、シャロン伯母様みたいな鑑定魔法持ちの方でできませんか?」
「属性鑑定は可能ですけど、魔法を使えるようにするのは教会の秘術らしくてよ?」
「あ、それ関係無いそうです。現にアンソニーも一度も教会に行ってないですけど、魔法使ってますし。アーベルも『平民貴族関係無く、魔力は生き物に備わった力だ。使え』って領民のおじさん達に言ってましたし」
「そうなのね……でも何も知らないのにいきなり使えというのも、どうかしら……」
「シャロン伯母様は、初めて魔法をお使いになった時は、どうでしたの?」
「影魔法の適正があると分かったので、影魔法の使い手を呼んで習ったわね。その時に鑑定魔法も教わったのだけど、言われてみれば鑑定魔法に影魔法は関係無いわね……まさか、どう習ったかで変わるということ?」
「その通りです。エステラは魔法は師匠に影響されると言ってました。ですから、この件は神殿と切り離して、学園のカリキュラムに組み込めば良いのかなと。そして浄化と回復は、神官がそれぞれ後輩に教えて対応していけばいいかなぁと。いざとなったら、ディオンヌ商会の魔法伝授の巻物を使うとかどうでしょうか?」
「まあリーナ、よく思いつきましたこと! ヴェリタスと結婚して、私の娘にならないこと?」
「ふあっ?!」
思いがけない事を言われて、思わず変な声が出た。
「ヴェリタスは外では大人しくしていますが、中身はやんちゃなままですもの。リーナの様に気心の知れた相手がいいのではと思うのよ。でも、リーナもこれからどんな出会いがあるかわかりませんからね。もし学園卒業まで良い相手が居なかったら、考えておいて」
シャロンはくすくす笑いながら、そう言う。
「ああ、そう言えば」
シャロンは何か思いついて、メイドに目配せした。
メイドは三つの小さな箱を持ってくる。
「第一王子殿下より、命を助けてくれた淑女達にと御礼の品を預かって参りました。リーナとエステラと、あの……クレメンティーンに瓜二つの……」
「イラナですね」
溺愛していた異母妹にそっくりのイラナに、シャロンは随分と混乱しているようだったので、遠い御先祖様だと説明しておく。
「そう、だからそっくりだったのね……でも、あの方男性でしょう? そのお品、鑑定したら女性用の髪飾りみたいなのよ、大丈夫かしら?」
「イラナは髪が長いし、大丈夫だと思いますよ」
「ではリーナに渡しておきますので、三人で話し合って選んで頂戴」
「はい、第一王子に御礼をお伝えください」
「ええ、わかりました」
そうしてマグダリーナは教会の代わりの体制の提案書を書き上げた。
エステラのまとめた女神の記述と共に、それぞれ十部ずつアッシに魔法でコピーしてもらい、これもシャロンに預けて王宮に持って行って貰う。
やり切った開放感に、気分良くエステラとイラナに第一王子の御礼の品を渡す。
中身はシャロンの鑑定通り、三つとも髪飾りだった。
二つはお揃いの色違い、一つは大人っぽいデザインだ。こっちは間違いなくイラナ用だろうと渡し、残りのお揃いの髪飾りを見て、エステラとそれぞれどっちの色が似合うか髪にあてあったりした。
小さな真珠と宝石を使った高価な髪留めだが、デザインが繊細で派手さはなく、普段使い出来そうだった。
マグダリーナは瞳の色に似た琥珀色の宝石がついたものを、エステラは透明な宝石がついたものを選び、互いの髪に付け合った。
そうして慌しかった冬が終わるころ、マグダリーナは陛下から王立学院入学試験免除の証明証を賜り、国の信仰が『女神教』に変更される御触れが出された。
まさかそのまま採用されるとは、思っていなかった。
まず王都、そして三つの公爵領の為の女神像の制作を請負った職人が、ショウネシー領の女神像を見学しにやってきた。
彼らは道路とマゴー車に「なんじゃこりゃあ!!」と叫び、噴水の前では平伏した。
「これは本当に石か? あの布の質感…髪の流れ……リアルであり、リアルを超えた美がある……この像を作ったのは変態なのか?」
「なんでこんなキラキラしとんのじゃ!」
「そんなことより、まつ毛あるぞこの女神像!!」
「この周りの花や草木も彫刻か!?」
「後ろ側にはドラゴンが彫ってあるぞ! これも美しかー」
きゃっきゃしてる職人のおじさん達に、エステラが保存瓶に入った女神の花を渡し、使い方を説明する。
新年初日に使用せず、素材としてマゴーが集めていたものの一瓶だ。代金は既に王宮から貰っている。
「すり潰したものを、必ず浄化した水で溶かして、出来上がった女神像の額に塗って下さい。でないと、本物の神像にならないので」
「おう、わかった。ところでお嬢ちゃん、随分可愛らしい顔しとるが、スケッチしていいかの?」
「女神像の顔をスケッチして下さい」
領民もまた少し増えて来た。
雪が無くなり移動がしやすくなったので、今いる領民の知り合いや親戚、王都でショウネシー領の噂を聞いたもの達だ。
それに伴い門番も増員でき、グレイは門番からハンフリーの手伝いに戻った。
一旦は本体(眼鏡)と別れたハンフリーだったが、スラ競に参加した領民達から本体(眼鏡)の人権を主張され、コッコ(メス)達が度の入ってない本体(眼鏡)をハンフリーの為に作った。
今度の本体(眼鏡)は、コッコ(メス)がお腹に貯めてた黄金を使用したので、金縁だった。
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