35. 王族とのお茶会
リーン王国の年末年始は、歳の暮れには一年を静かに振り返り、歳が明けると盛大に祝う風習だった。
ショウネシー領でもささやかな祭りを行おうと計画してした。
今年は魔獣の肉が沢山あるので、役所の隣にある、広い公園広場で美しい噴水を眺めながら、肉の串焼きを楽しむ、いわゆるバーベキューだ。
エステラの提案でビンゴ大会もやる。
ビンゴの景品のはお菓子や食材、調味料や回復薬、品質保持魔法付き保存瓶等の生活用品等だ。
新年二日目にはディオンヌ商会アーケードでスライム掬い競走をする。
略して「スラ競」
スラ競は、ディオンヌ商会主催、図書館一階が参加受付とスタートラインだ。
用意してある箱に入ったスライムをお玉で掬い、アーケード街を通り抜け冒険者ギルドの運動場を一周してからまたアーケード街に戻り、ディオンヌ商会本部前まで運ぶレースになる。
しかし途中に計算、一般常識のテストがあり、文字の読み書きと算数が出来ないとクリア出来ないレースだ。
もちろん途中でスライムを落としたり逃げられたりしたら失格だ。
このレースの賞品は、領民カード入れ付き財布、収納鞄、エステラが開発した魔法伝授の巻物と豪華だった。
この巻物を使えば、教会で魔力鑑定していない平民も、巻物の魔法が使えるようになるという画期的な魔導具で、今回の目玉景品だった。
巻物の魔法は、清浄、浄水、清掃、おいしい水、そよ風、温度調整、ととのえる、かまど火、耕す、と生活にちょっと便利なものになっている。
貴族達は新年は王都へ行って王様に挨拶しないといけない。
子供は学園に入学してから行く場合が殆どなので、マグダリーナとアンソニーは領地の祭りを満喫することにした。
王宮へ行くヴェリタスも、巻物目当てに、二日目は領に帰ってスラ競に参加する気満々だった。
スラ競の開催と景品については事前に告知済みなので、図書館の教室は大盛況だ。
領民の識字率がぐんぐん上がった。
そんな年末近くのある日、王宮からお呼び出しがあった。
ダーモットとシャロン、ハンフリー、そしてマグダリーナが呼ばれ、ハンフリーとマグダリーナの叙爵、シャロンの陞爵が簡素に行われて、ダーモットには島の権利証が渡された。
やっと帰れるかと思った時には、別室でお茶会が始まってしまった。
(シャロン伯母様が初心者用に選んでくれるはずだったお茶会より先に、王家のお茶会なんて……)
緊張しすぎて、お茶の味がわからない……ちらっと見ると、ハンフリーも胃を抑えていた。
「コッコカトリスが出たというだけでも珍しいというのに、お前が領地に引っ込んでから、ショウネシー領は随分楽しいことになってるようだな、ダーモット」
国王陛下の言葉に、そっけなくダーモットは返答する。
「ええ、まあそうですね」
「相も変わらず、懐かない猫のようではないか。学園ではあんなに面倒見てやったと言うのに」
「……」
わざとらしく大袈裟な陛下の物言いに、ダーモットは澄まして紅茶に口をつける。
因みにこの世界の猫とは前世の猫科大型獣に似た魔獣の総称のことで、インターネット動画やソーシャル・ネットワーク・サービスで投稿される、癒し系ネコチャンの存在は確認されていない。
「領地改革の為に、大規模魔法を使うことは報告しておりましたが?」
「発動時間が短かった故、てっきり失敗したものと思っておった。あれか? 昔お前が調べていたハイエルフとやらか?」
「……覚えていたんですか?」
「それは当然だろう。友が真剣に調べていたのだから」
(お父さま、国王陛下と仲良かったの?)
そう言えば学園ではと王様も言っていたし、年代が近く、シャロンと王妃の関係もその頃から始まっていたのなら交流があってもおかしくはない……
ダーモットの社交嫌いを思うと、ただただ驚くばかりだ。
「それで? ハイエルフとやらは、どのような存在で何が目的で我が国に来た?」
「普通に今までもこの国で何人かは暮らしていたそうですよ。彼らは善き隣人で、娘や私たちの、ただの友人です」
「左様か。お前が言うなら、そうなんだろうな」
国王陛下もティーカップを傾ける。
「……彼らって、何人おるのだ?」
「ハイエルフが六人、マグダリーナと同じ歳の少女が一人。この世界で、今のところそれで全てです」
「うむ、かなり少ないな。少女というのは?」
「うちの娘の友達です」
あ、これあかんやつやって顔をして、陛下がマグダリーナを見た。
「マグダリーナよ、そなたの友人はハイエルフなのか?」
「いいえ、でもハイエルフから魔法を習ったそうです」
「ふむ、そうか。貴重な友だ、大事にするが良い。我は今後も無粋に口を挟むようなことはしないゆえ、安心するが良い」
「はい! ありがとうございます!」
一番気になっていたことが解決し、ハンフリーと顔を見合わせ、安堵した。
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