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281. 無毛の刑

 「さて、勝負はついた。勝敗は歴然としている。君たちは一体も討伐できなかったからね」

 「くそっ、こんなの認めない! 大体お前達Dランクだなんて嘘ついて……、?!」


 往生際悪く抗おうとしたゼハト王子だったが、側にいた秘書マゴーが持つ誓約の書から光が溢れて、ゼハト王子と冒険者達の身体を包みだす。


 「嘘などついていないよ。僕らは皆Dランク冒険者だ。ただショウネシーの冒険者ランクの基準が、そちらより厳しいだけだよ」


 ニレルが言い終わると、そこにゼハト王子と冒険者達の姿はなかった。いや、変化していた。エステラが言ったように。

 無毛の。

 つるっつるの。


 スライムの姿に。




 「「「「えええええ!!!!?」」」」


 マグダリーナ達未成年組の驚きに、本人達も己がスライムであることに気づいたらしい。


 (なんだ!? なんだこれ、おい)

 (身体が変だぞ……どうやって動けばいいんだ)

 (わぁぁぁ、近づくな! 死んだらどうする?! スライムなんだぞ!)

 (おのれ……っ! さっさと元に戻せ!!)


 スライムになった途端に、マグダリーナ達には彼らの言葉が聞き取れなくなった。そのかわり、挙動不審にプルプルしていることで困惑は伝わる。


 彼らは弾力のない、少し崩れた残念なスライム達だった。

 人語を話すようになるには、なにか条件が必要なのか、言葉が封じられたのかわからないが、状況的に言いたいことは、なんとなく通じた。


 マグダリーナは首を横に振った。

 「それ、多分元に戻せないわ」

 「まあ、ショウネシーにもいますものね。カエルになったままの方……」


 「お姉さまたち、まずは師匠が復活する前にここを出ましょう!」


 賢いアンソニーが、周囲を警戒して提言する。ダンジョンの魔物は、殲滅しても一定時間経つとまた現れる。


 アンソニーは魔法収納から籠を出して、手早く崩れたスライム達を入れる。それは紛れもなくスラ競の覇者の手つきだ。

 そして、冒険者ギルド本部長レイモットに渡す。


 「え?!」

 「お持ち帰り下さい」

 「え?!」

 「さあ、早く入り口へ戻って下さい!」


 ショウネシー家もそれぞれウィングボードに乗って、素早く入り口を抜ける。

 マゴー達は、呆然としているレイモットを持ち上げて、とっとこ脱出した。




◇◇◇




 「おかえリーナ〜」


 三階ホールまで戻ると、エステラが真っ先にマグダリーナに抱きついてきた。

 エステラはいつも薬香草の爽やかな香りがするが、今はふんわり薔薇の香りがする。きっと今日のおしゃれに合わせてなのだろう。髪にも白い薔薇が飾られているので。


 「エステラ良い匂い……」

 束の間の癒しに、マグダリーナもぎゅと抱き返した。


 「皆んな怪我もなさそうで、よかった」


 微笑みながらエステラは、レベッカとアンソニーをハグしていく。腕を広げるエステラに、ライアンは、もう成人に近いからと自ら遠慮した。代わりにプラがライアンをぎゅっとする。ダーモットには、ヒラとハラだ。

 自動的に成人メンバーへのハグが無くなったので、エステラはニレルにササミ(メス)を抱っこさせた。


 「どうして……」

 ササミ(メス)を抱っこしながら、ニレルが呟いた。

 パーティメンバーに一人で混ざったせいである。


 ふいに、ゼラがマグダリーナのドレスの裾を軽く引っ張った。


 『人の子の嬢ちゃん、脇がなんか光っとるよ』

 「え?! うそ、なにそれ?!」


 マグダリーナは慌てて左腕を伸ばして確認すると、確かに脇のあたりにぽわぽわした光りが現れ、そこからするりと書類が現れた。

 ニレルの結界魔法がないのに、ダーモットの妖精のいたずらでズタズタにされない、気合いの入った書類だ。


 「なんで……こんな所から……」

 「バーナードの手紙が、ササミの脇から出てきたから、そこがやり取りの場所だと思われたのかも……」


 エステラが神妙な顔で言った。


 誰が? きっと女神様だ。どうしよう……どうやって訂正をお願いすれば良いのかサッパリわからない。


 書類には、創世の女神様が誓約(うけい)の結果に満足し、現在ギルギス王国とされる地を祝福して、マグダリーナ・ショウネシー、もしくは神獣とその主人に与えると記されている。そして他者が勝手にその地を支配すると、その者に厄災が降りかかるであろうとも。


 マグダリーナは、迷わず書類をエステラに渡した。

 反射的にエステラが書類を受け取ると、書類から白金と虹の輝きが現れ、エステラとヒラの額に吸い込まれていった。


 「う……っ、」

 「エステラ!?」


 頭を押さえてふらつくエステラを、マグダリーナは支えた。


 「大丈夫?……」

 「ん、ありがとう。ちょっと情報量が多くて、くらっとしちゃった。女神様が……多分、祝福を与えて下さる前の、ギルギス王国の地脈を確認するようにって。そういうメッセージだと思う。ちょっと行ってくるわ」


 エステラは、書類をマグダリーナに返すと、従魔達と一緒に転移魔法で消えてしまった。


 「エステラ!」

 エステラの後を追いかけて消えてしまいそうなニレルの両腕を、レベッカとライアンがそれぞれ抱き込んだ。


 「ニレルさんには最後まで付き合ってもらわないと!」


 ライアンの言葉に、レベッカが何度も首を縦に振った。


 「そうですわ。ギルギス王国の人達に無事ショウネシーから出て貰うまでは安心できませんわ。でないとリーナお姉様を見捨てたって、エステラお姉様に言いつけますの!」

 「…………」


 ニレルは、大人しくなった。


 「随分と形の崩れたスライム達だが、何故こうなったのだ?」


 バーナードが、マグダリーナを見た。

 マグダリーナはタマを見た。

 タマはシンを見た。

 シンはアンソニーを見た。

 アンソニーはニレルを見た。


 「栄養状態が悪いんじゃないかな? 彼らは創世の女神を否定する誓約(うけい)をしたのだから、女神の恵みを手にすることは二度とない。それは世界に内在する魔力も、作物もだ」

 「え?! 餓死してしまうんじゃないの?!」


 マグダリーナは驚いた。


 「スライムは何でも食べる。廃棄されたもの……ゴミや汚れ物、汚水などで、かろうじて命を繋いでいけるだろう。実際そういう所で、環境を浄化しているスライムもいるからね」


 「……つまり、他のスライムは汚れ物も食べれるが、普通の食物も食べれる。だがこれらは汚れ物しか食べることができぬゆえ、常に栄養失調状態で、形が崩れている状態だと……創世の女神への感謝を忘れてはいかぬと、改めて思うな」


 バーナード王子は、手を組んで女神へ感謝の祈りを捧げた。

 ニレルの腕を放して、ライアンとレベッカも一緒に祈りを捧げた。

 キラキラした小精霊の小さな輝きがあたりに漂い、良い感じになったのでマグダリーナは配信の終わりをマゴーに合図する。


 マゴーは今回の検証結果と、創世の女神VS女神エルフェーラという二大宗教対決になった誓約(うけい)の勝負結果とその敗者が差し出さねばならないものを再度公表して生配信を終わらすと、早速見逃し配信の準備にとりかかった。


 ふとマグダリーナは、五体の秘書マゴーの数が二体足りないことに気づく。


 「第四、第五秘書はどうしたの?」

 「オーズリー公爵に貸出されました」


 第二秘書マゴーが、貸出証とレンタル料の金貨をマグダリーナに渡し、こともなげに言った。

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