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279. 検証

 女神の塔に着くと、やる気に溢れた辺境伯騎士団の騎士が四名、ピシリと並んで待っていた。

 そしてマグダリーナ達が近づくと、一斉に頭を下げた。


 「わざわざ辺境伯領からここまで、ご苦労だった」

 アルバート王弟殿下が、騎士達を労う。


 「我々の力が及ばず、多大なご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 「いい、ここまで一般国民に被害も出さず、気を配って来てくれたことに感謝する。あと少し、バーナードがこのダンジョンの三階まで行くのに付き合ってもらえるか?」

 「はっ!」


 マグダリーナも騎士達に挨拶して、声をかける。


 「疲れているのにご協力ありがとうございます。お怪我をされた方は大丈夫ですか?」

 「ええ、イラナ様とデボラ様の治療を受けて、すっかり目の保養……いえ、元気になりました!」


 うん、大丈夫そうでなによりだわ。


 そう思ったのも束の間。彼の鎧には銃弾が貫通した跡があった。胸の位置からはズレている。心臓に当たらなかったから、治療が間に合ったのだ。


 「……生きててよかった……。この検証が終わったら、宿屋でゆっくり休んで下さい。それから、もしよければアーベルから防御魔法を習っていって下さい。防御魔法なら迷宮武器の攻撃も防げるそうですから」


 騎士達は感謝を込めて礼をした。




◇◇◇




 エリック王太子は、王宮の豪奢な廊下を早足で歩いていた。

 今日は気温が高く、夏用の薄地の服を着ているとはいえ、不快な汗がわいてくる。

 だがそんな熱気をも、ものともしない事案が発生しているのだ。ショウネシー領で。


 「父上!!」

 エリックは父王セドリックの執務室のドアを思い切りよく開けた。


 「ノックくらいせぬか、粗忽者」

 「それは私の言葉です。なんですかその農夫のような格好は!」


 セドリック王は薄地の長袖シャツとズボンを着てはいるものの、その上は五分丈の半袖半ズボン姿で、見たことのない背面の高い凸凹したソファに座ってる。


 「このような素晴らしい刺繍を身に纏う農夫がおるか。ディオンヌシルクと麻のシャツと股引きに、麻布の甚平だそうだ。動き易くて涼しいぞ。この王明具椅子も腰に負担がなく実に快適だ」


 甚平には、王の威厳を損なわぬよう唐獅子牡丹の鮮やかな刺繍が。ゲーミングチェアならぬ王明具椅子(オーミングチェア)には王宮風に豪華な装飾が施されていた。王の生誕祭に出席しなかった代わりに、ディオンヌ商会から贈られたものだ。


 「そんな事より、またマグダリーナ嬢です!」

 「うむ、呆れるほど引きの良いむすめだな。やっぱり嫁にせんか?」

 「絶対に、嫌です!! あの渦中で、胃痛を患う未来しか見えませんからね」

 「繊細なやつめ……。しかし今頃、ガルフのやつは胃に穴を開けておるやも知れぬな」


 セドリックはアッシが展開する魔法画面を眺め、悪くない関係の隣国の王を思った。

 生配信は丁度、バーナード王子達が三階層に辿りついて、女神の恩寵の検証が始まっている。


 「バーナードも一歩間違えれば、ゼハト王子のようなやらかしをしておったかも知れぬ……なにせ勝手に罪人を釈放する行動力はあるからな。だがハイエルフやマグダリーナ達のおかげで、己の身の丈は理解することはできておるはずだ」


 バーナードが大人しく、三階層の検証に参加するだけの様子を見て、エリックも頷いた。




◇◇◇




 《女神の恩寵》の検証は、戦闘行為をしなかった場合も含めて行うこととし、辺境伯騎士団の怪我をした騎士二名と冒険者ギルド本部長レイモットは、非戦闘員として、三階まで一緒に登るだけに徹してもらった。


 検証結果は、予想通りの差が出た。

 非戦闘員のレイモットが手ぶら。怪我をした騎士団員が自己鑑定スキル取得のみ。


 そしてバーナード王子と騎士達は、それぞれの戦果に応じた以上のドロップ品や宝箱を得て、ザハト王子と冒険者パーティは、それぞれの戦果に応じたドロップ品や宝箱だ。

 ついでにザハト王子達の得たものは、全部回収して、怪我をさせられた騎士達にお見舞い品として渡した。尚、現金の宝箱は無し。

 もちろんザハト王子は文句を言ったが、無視を決め込んだ。


 不思議だったのは、ザハト王子が魔法を使わなかったことだ。王子なのだから、教会の金貨一枚鑑定を受けているはず……マグダリーナは気になって、アルバート王弟殿下に聞いてみた。


 「ああ、教会が魔力鑑定を行うのは、この国とエルロンド王国だけでだったんだ。その他の国の民はあまり魔力が高くないからね」

 「そうだったんですね……」



 そうして二十階に向かう前に、ダーモットをニレルの結界で包み、誓約の書を確認しながら、再度誓約(うけい)にかけられたものについて、細かく取り決めをする。例えば、人は持ち物にあたらないとかだ。案の定、向こうは人も所有物であるとか言いだしてきた。


 「いいえ、我が国には奴隷制度はないので、我が領民は誰の所有物でもありません。例えショウネシー領の所有者が代わったとしても、彼らは自由であり、貴方に従わせる権利はありません」


 マグダリーナとゼハト王子が言い合う横を、お手洗いから帰ってきたエステラが、とことこと通り過ぎた。

 ゼハト王子の視線が、エステラを追いかける。


 「あの女も貰う!!!!」

 「だからっ、人は、物では、ありませんっ!!!!」


 「皆んなも今のうちに、お手洗い行っておいた方がいいわよ〜」

 エステラの気の抜けた声が響く。

 そして皆、素直にお手洗いに向かいだす。


 「おい、お前!」

 ゼハト王子の呼びかけに、エステラは自分を指差して、こてんと首を傾げた。ゼハト王子は心臓を押さえた。


 「俺が勝ったら、お前は俺のモノだ!」

 「え? なんで?」


 エステラは素で、こいつ何言ってんのって顔をしたが、これ以上ゴネて話が長引いてもねと溜め息をついた。


 「まあいいわよ。一分だけならね」

 「一分……だと……」

 「一分でも多いわ。あなた犯罪者なんだから。それから、ここまで騒ぎを大きくしたんだから、それなりの覚悟があるんでしょうね。貴方達が負けたら『不毛の刑』では済まさないわ」


 「エステラ……」

 温厚なエステラがちょっぴり怒っている。気持ちがわかるだけに、マグダリーナは申し訳ない気がした。

 だがエステラは、その瞳でマグダリーナに何も心配いらないと語りかけてくる。


 「本当に毛の一本も生えない、つるっつるの身体にしてやるから、震えて待ちなさい!!」


 その瞬間、誓約(うけい)の詳細を記した誓約の書が輝いた。

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