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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十四章 契約と誓約

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277. 刑罰

 パァン パァン と、鳴り止まない音が聞こえる――――


 慌ててタマ・シャリオ号をすっ飛ばしてきたマグダリーナの目の前には、名状し難き惨状が広がっていた。


 リィンの町の門前に、ズラリとお縄にされて正座させられた男達が並ぶ。

 その前に一人一体ずつ、マンドラゴンが並び、パァン パァン と、メトロノームのように正確なリズムで往復ビンタをくらわせていた。


 その背後では、既に馬車の車体が細かく解体されて再利用品として魔導ダストボックスにぽいぽいされている。門番のマンドラゴン達が愛用の尖晶石の剣でやったのだ。

 心配していた拳銃も三枚おろしになっている。他にも筒状の武器が同様に捌かれていた。

 ペガサスも捕縛されて、水と食糧を与えられて一息ついている。


 『ぷぷ!!』

 〈やや! 町長様! お見苦しいところをお見せしてます。これから尻叩きもいたしますので、町長様は御覧にならない方がよろしいかと〉


 門番のマンドラゴンが声をかけて来た。

 だが、マグダリーナは鳴り続けるビンタ音を聞きながら、なんと答えれば良いのかわからない……。

 さらに警備のマンドラゴラゴン達も飛んできて、ドワーフやスライム達が近づかないように対応しはじめた。


 「えっと……危ない武器もあったようだけど、皆んな、怪我はない?」

 『ぷ!』

 〈ご心配なく! ただ金属が飛んでくるだけの武器、我々の敵ではありません! あ、最後の刑罰は町民の皆さんにわからないよう、こっそりと行いますのでご安心下さい〉


 「最後の刑罰?」


 尻叩きで終わりじゃない、のか……。ないわよね……、発砲したんだもの……重い犯罪よね?


 『ぷ』

 〈はい! 彼らはこの町を乗っ取ろうとやってきたので『不毛の刑』に処すのです〉


 「不毛の刑……? ああ、全身脱毛!」

 『ぷぷ』

 〈いえいえ、性器を切り取って、子孫を残せなくするのです。我々も無駄に命までは取りませんから、ご安心下さい〉


 ご安心、出来なくなった――――!!


 不毛の刑の内容が聞こえたのだろう。パァン パァンの音の間から、人の喘ぐ声的なものが高くなった。マンドラゴン達は可愛らしい無表情のまま、パンっパンっと肉と肉がぶつかる音を鳴らし続けていた。


 「待って! 待って! 刑罰はこの程度にしてちょうだい! もう顔も変形してるし!」

 『ぷぷ』

 〈命をとらないのは、充分な恩寵です。彼らは神に仇なすもの。不具にするくらいにはしないと、罪と罰の釣り合いがとれません〉


 「この人達、他国の人なんでしょう? まずはどうしてこうなっているのか、状況を確認させてちょうだい」


 とりあえずマグダリーナは、マンドラゴン達が安易に処してしまわないよう、時間稼ぎをしながら考える。


 『ぷ! ぷ!』

 〈はい! こやつらはここまで来る道中に、この国の民に攻撃をしました。さらに入町税を支払わず、無理矢理門を通ろうとしたので、現行犯でお縄です!!〉


 現行犯かぁ……そうよね。

 この世界に弁護士はいない。現行犯で捕まったらもう罪状によってはトントンと処罰が決まる。因みに刑罰を決めるのは、その領地や町の責任者だ。それは他国民とて同じ。それが王族だった場合には、そのまま宣戦布告とみなされるのだ。


 だからアーベルには、是が非ともギルギス国に帰していただきたかった……。


 「何が目的でこんなことをしたのかは、聞いた?」

 『ぷ』

 〈はい、この町を乗っ取りに来たと〉


 (言ったの? 馬鹿じゃないの!!!)


 乗っ取りはマンドラゴンの状況判断ではなく言質があった……マグダリーナは内心頭を抱えた。


 「いくらなんでも、この人数でこの町をどうこうできるわけないわ……流石にそんな妄言を鵜呑みにするのはちょっと……」

 マンドラゴンには悪いが、そう言って思案して見せる。


 「ああそういえば、以前エリック王子から、ギルギス国から《女神の恩恵》について検証したいと問い合わせがあったと聞いています。貴方達がその調査隊ですか?」


 マグダリーナの問いに、一番若い少年が答えた。


 「何が調査隊だ。俺はギルギス王国第三王子ゼハト。こんなことをしてただで済むと思うな! 俺たちはこの町を貰いに来たのだ。リーン王国最強の辺境伯騎士団といえども大したことは無かった。この国は弱い! 配信などと嘘まやかしを作って人々を操る! 俺はその嘘を暴きに来たのだ!!」

 「捕まってお縄にされた状態で?」


 マグダリーナは額に手を当てて、うっかり本音を漏らしてしまった。しかも、聞いてない身分まで明かさないでほしい。それ、うちの国に対する宣戦布告だから。


 その反対端の成人男性が、地面に擦り付けるように深く頭を下げて謝罪する。


 「冒険者ギルド本部長をしている、レイモットと申します。王子や管轄下の冒険者達を止められず、大変申し訳ございませんでした」

 「謝罪を受け入れます。マンドラゴン、この方の罪の重さはどう?」

 『ぷ』

 〈鑑定結果にも、彼には偽りなしと。釈放致しますか?〉

 「そうしてちょうだい」


 釈放されたは良いが、腫れた頬を押さえながらレイモットは所在なさげにしている。とりあえず念のため、マンドラゴンが付き添っていた。そして早速、入町税を徴収されている。


 残りの冒険者と王子は主犯格なので、どうしようもない……冒険者の方も、王子がいるから大丈夫だと思っているフシがある。


 ここで甘い顔をしたら、同じような輩が現れる……。刑罰は犯罪を抑制するためにも、重い方がいいとは理解していても、感情的にはなかなか踏み切れ無かった……。


 せめて、途中で辺境伯騎士団を攻撃しなければ……そして、入町税を大人しく支払っていれば……アルバート王弟殿下達が、上手く取りなしてくれただろうに。


 マグダリーナがいま泣きたいほど嫌なのは、これを発端に、ギルギス王国と戦争になるかも知れないことだった。王族達もそれを考慮して来てくださったのに。


 色々考えて、人々が動いていたことが、全て台無しだ。


 「ゼハト王子。貴方が本当に王族だと言うなら、軽々しくこのような行動をしてはいけなかった……。貴方の冒険者ランクはいくつですか?」


 ゼハトは頬をパンパンに腫らしながら、マグダリーナを睨みつけた。この状態でそんな態度なのは、なけなしの自尊心を振り絞ってか、現実を見れないうつけなのか。


 「Bランクだ」


 マグダリーナは頷いた。

 「でしたら、刑罰を行う前に、検証を済ませてしまいましょう。丁度配信もしていますし。ギルド長を含めたギルギス国六人と……マゴー、先程の辺境伯騎士団の方の中で、三階層まで協力してくれそうな方がいたらこちらに来てもらって」


 秘書マゴーは、すちゃっと敬礼して姿を消した。


 「まずは初めてダンジョンに入る、バーナード第二王子と辺境伯騎士団の方と一緒に、三階まで行って《女神の恩恵》の検証をしましょう。それから……」


 マグダリーナは動揺を悟られぬよう、唾を呑み込んだ。ダンジョンの魔物は、野生の魔獣よりレベルが高い……これは公平な取引……いや、賭になるはずだ。


 「今日、私達家族は、父もまだ足を踏み入れていない二十階層に挑戦することにします。父は冒険者でも騎士でもないし、パーティ内の冒険者の最高ランクはDランクです」


 ザハト王子が鼻で笑った気配がする。


 「二十階に出現する魔物は、ショウネシーの冒険者がDランクに昇格する時の討伐条件になっている魔獣です。もし貴方達がそこで私達より多く魔物を倒し、ギルギス王国の強さを示すというなら『不毛の刑』を免除し、ショウネシー領への入領禁止へ減刑します」


 そう、公平な賭……。エステラとニレル以外、誰もまだ二十階には足を踏み入れていないし、向こうもAランクパーティとBランクならばそこそこ戦力もあるだろう。

 こっちはダーモット以外は未成年しか居ないのだから、数が少し多くても丁度良いはずだ。

 感情に伴って譲歩できるのは、多分ここまで。なんとか『不毛の刑』を免れるよう頑張ってほしい。そしてショウネシー領を出た後は、王宮側でなんとか上手く処理してほしい。


 だが、マグダリーナは思いも寄らなかった。

 自身の優しさと気弱さが、相手に付け入る隙としてうつり、年若い王子が良からぬことを考えていることを。

 そして、リーン王国の大人やハイエルフは、もっと狡猾であることを。


 ザハト王子は高らかに宣言した。


 「良いだろう、挑戦してやる! そしてこの俺達が、創世の女神とやらの化けの皮を剥いでやる! 女神エルフェーラこそが真の女神。ここに誓約(うけい)する。それは俺達の勝利で証明される」


 その時、タマ・シャリオ号からニレルが降りてきた。


 彼らも予定が変更になるのか、薄暗い階層のために身につけていた、サングラスを外している。

 見慣れたマグダリーナ以外、男達は皆その美男ぶりに目を奪われた。


 「さて、創世の女神を貶める誓約(うけい)をされては、僕らハイエルフも黙ってはいられない。僕もショウネシー側のパーティとして参加してもいいかな?」


 『不毛の刑』が、確定した瞬間だった。

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