27.コッコカトリスの騎乗
シャロンことオーブリー侯爵夫人へ、ディオンヌ商会から茶マゴーが四体納品される。
これは朝のショウネシー家の団欒の時間に、エステラとニレルが持って来た。
「昨日のエルフのおじさんと違う人だ……エルフは美形が多いって聞いてたけど、男でも想像以上に綺麗なんだな」
マグダリーナ十歳より一つ年上の、ピッチピチの十一歳ヴェリタスは、ニレルを見て忌憚ない感想を述べた。
おじさん呼ばわりされたエデンに、エステラは爆笑した。
エデンの外見は大体二十代半ばから後半に見える。
前世の感覚で、ダーモット以外は若く見えていたマグダリーナだったが、確かに小学生の頃はなんとなく、成人した大人がおじさんで、中高生くらいがお兄さんの範囲だったかもと思い出す。
「エデンは世界で一番歳上だから、ジジイでいいよ」
笑いながらエステラは言うが、ヴェリタスは横に首を振った。
「流石にあの外見の人をジジイ呼ばわりしたら、俺が生意気な小僧に見られるじゃん」
この従兄弟、何気に冷静だ。
マグダリーナは感心してヴェリタスを見た。
「ヴェリタス、貴方の相棒はどの子にする? 一応機能に違いはないわ」
エステラがそう言うと、茶マゴー達はズラッとヴェリタスの前に並んだ。
違いがわからない。
「1号は母上が相応しいから、俺は2号かな」
エステラは茶マゴー2号に、ヴェリタスの瞳と同じ色の、青いネクタイをつけた。
茶マゴー2号はちてててと短い足でヴェリタスの横に移動する。
「これからよろしくな、チャー」
「チャー、それが私の名前ですか!!」
チャーの顔が嬉しそうだ。頭の実ならぬ魔石もピカピカ輝いた。
マゴーは番号で識別されているから、名前をもらえたマゴーは、この茶マゴー2号が唯一だった。
◇◇◇
「コッコカトリスって竜種だって本にあったんだよ。でもなんか、想像と全然違うな」
早速目当てのコッコカトリスを前に、オスメスを並べてヴェリタスは興味深く呟いた。
「普通に変な鳥……?」
そう言った途端に、隣にいたササミ(メス)のダイレクトお尻アタックで軽く弾き飛ばされる。
ヒラとハラが手を伸ばして、ヴェリタスを受け止めた。
『小僧はまだまだ竜種を観る目がなっておらんのだ。鱗と牙があるばかりが竜種ではナイっ。我らコッコカトリスは、愛くるしく、純白に輝く羽毛は聖なる魔獣の証でもあるのだぞ!』
コッフ ココッフ!!
他のコッコ達も同意とばかりに頷く。
『ア……ッ』
興奮したせいで、ササミ(メス)のおちりから、卵がポロリした。
ハラはサッと素早く受け止めて、清浄の魔法をかけると魔法収納にしまった。
他のメス達も、もらいポロリをして卵を生んでいく。ヒラとハラと一緒に、チャーも卵集めに加わった。
「こんなに簡単に卵生んで、身体は大丈夫なのか?」
ヴェリタスタスがちょっと心配そうに聞く。コッコのメスは、とにかくよく卵を生んだ。
『雛の入った卵を産んでる訳ではないから、このくらい身体に負担は無いのだ。ただこの素晴らしい美味なる卵を狙って、他の魔獣がやってくるのが玉に瑕……』
「もしかして、他の魔獣に追われてショウネシー領まで来たの?」
エステラが聞くと、ササミ(メス)は頷いた。
『左様! 大方の魔獣は我らの敵ではないが、メスはある程度進化をせねば、非常に弱いのでな。メスを守る為にここまで来たのだ』
コッコカトリスの社会は、メスは生産、オスは戦闘と役割がはっきり分かれているようだった。
『メスの生む卵は、食べたものに力を与える。メスはこれぞと思ったオスに卵を与え、オスが卵を咀嚼した時に出す特殊な魔力を含んだ唾液が混ざった卵液を、オスから口移しで少し与えて貰えば、やがて雛の宿った卵を産むのだ』
思った以上にメルヘンな子作りだが、この体格差を思えば、むべなるかな。
だがマグダリーナは気づいてしまった。
「待って、メス達が毎朝ハンフリーさんに卵を渡してるのって……」
ササミ(メス)は、ムムムと難しい顔をした。
『云うな、我は人との間で雛を成すことなど叶わぬと……信じて……おる……』
最後声が小さい! 声が、小さいよ!!
何も知らないハンフリーは、毎朝笑顔で卵を受け取り、コッコ(メス)を撫でて、もちもち揉んでいる。
目の前のコッコカトリスが性別を超えたのだから、種族の垣根を越えようとするコッコ(メス)がいても不思議じゃない……
コッコカトリスは思ったより恐ろしい魔獣だった。
『我らは認めて乗せた者を、決して落とすことはない! 一流の魔獣なのでな! 安心して騎乗するが良い!』
ササミ(メス)がそう太鼓判を押すので、ヴェリタスは騎乗体験もしてみる。
アンソニーが手招きすると、二体のコッコ(オス)がやってきて、ヴェリタスとアンソニーの前で乗りやすいよう身体を伏せた。
シャロンとダーモットも数歩離れた場所で子供達の様子を見守っていたが、シャロンは自分も乗りたいと言い出した。
しゅっとシャロンとダーモットの前にもコッコ(オス)がやってきて伏せる。
「いや私は……」
遠慮するとダーモットが言う前に、コッコ(オス)は可愛い上目遣いでココココと甘え鳴きした。ダーモットは逆らえなくなった。
四体のコッコ(オス)は一斉にショウネシー子爵邸から飛び出すと、あっという間に見えなくなる。
そして少し離れた新しいアスティン邸まで一回りして帰ってきた。
バイク並みに走るのだから、ヘルメット必要ではとマグダリーナは思うのだが、コッコ(オス)は防御魔法の様なものを張り巡らして走っているらしく、落ちる心配はほぼないらしい。
「すっげぇ速い! 魔獣馬より速いんじゃないか? 乗せてくれてありがとうな」
ヴェリタスが興奮しながら乗せてくれたコッコ(オス)を撫でる。
アンソニーも無事テイマーとしての仕事をこなせたことに、ホッとしていた。
「この速さでドレスの裾が乱れることもなく、心地よい微風ほどしか感じませんでしたわ……随分と魔法の腕の良い魔獣ですのね!」
シャロン伯母様も驚いていた。
「お父さまは? 僕の従魔の乗り心地はいかがでしたか?」
「素晴らしい乗り心地だったよ、トニー」
ダーモットはアンソニーを抱き上げた。
アンソニーは太陽の様な笑顔を見せて、ダーモットの腕の中でマグダリーナとエステラ、ニレルに手を振った。
半月後、シャロンとヴェリタスが正式にオーブリー侯爵家と離縁し、ショウネシー領の邸宅で暮らし始める頃には、すっかり季節は冬になっていた。
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