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269. 公爵家の事情

 「あっははは! 婚約おめでとう、ダーモット・ショウネシー」

 「もー、ヴィオラちゃんったら。そんなに笑っちゃ失礼よ! 申し訳ございませんません、ショウネシー伯爵。うちの公爵と娘のこと、よろしくお願いします」


 貴族会が終わった後、ショウネシー家のコッコ車は、オーズリー公爵邸に向かった。夏の後半をショウネシーで過ごす、ヴィヴィアン公爵令嬢と、ヴィオラ・オーズリー公爵を迎えにだ。

 公爵は早速ダーモットの婚約の話を聞いて、大爆笑してくれた。そして、最後にニヤリと笑う。


 「イイ男よ、君は。一癖も二癖もあるオンナばっかり受け入れても、振り回されずに安定してる」

 「素直に褒め言葉と、受け取らせていただいても?」


 おっとりとそう言うダーモットに対して、公爵はケッと呆れた顔して返した。


 「そんな訳ないでしょう。代わりに周囲が訳も分からず、振り回されてるじゃない。ま、そこが面白いんだけど」


 カラカラ笑いながら、公爵はコッコ車のコッコ達に近づいた。


 「これがコッコカトリス? イイ魔獣ね。ショウネシーでテイムしてもよくって?」

 「どうぞ。コッコは決して、騎乗者を落としませんから、ご令嬢の移動にも使えますよ」

 「あら、それは助かるわ」


 それから公爵は、マグダリーナとヴェリタスをぎゅっと抱きしめた。


 「君達が無事で、本当に良かった……」


 公爵がそんなに心配してくれたとは思わず、マグダリーナは驚いた。

 そしてとても複雑だった。

 公爵はマグダリーナとレベッカに、酷いことを仕掛けた。

 前世の社会の感覚では、そういう人は決して許してはいけなかったし、距離をとるべき相手であった。

 ライアンの機転で未遂に終わったからこそ、おそらくダーモットは公爵に借りを作って平和的対応をとり、こうやって普通に接している。ヴィヴィアンからの山吹色の菓子折りの他にも、公爵家からの謝罪金もあった。ようは示談だ。

 マグダリーナは、周りに恵まれ運が良かったのだ。だから許せた。


 でも。


 「公爵は、私とレベッカがお嫌いではないのですか?」


 マグダリーナはぽつりと、そう呟いてしまった。


  「君達にしたことは、後悔してるわ。莫迦なことだとわかっていても、自分で自分が止められなかった。ヴィヴィアンが居なくなって、やっと正気に戻れたのよ」


 公爵は真っ直ぐ強い眼差しで、マグダリーナに向き合う。


 「嫌ってなんかいないわ。正気に戻してくれて、感謝してる」


◇◇◇


 「アタクシは面倒なオンナでしょう? 先代公爵からセワスヤンを引き継いだ時、どうしてアタクシのように、自制の効かない人間に、公爵家と貴重で危険な魔獣を任せるのか不思議だったのよ。でも伯母様……先代は言ったのよ。お前はセワスヤンと精霊に認められて、オーズリーを愛しているから大丈夫だと」


 コッコ車の中で窓の外を見ていた公爵は、視線を戻してマグダリーナを見た。


 「君の魔法使いがね、教えてくれたのよ。アタクシが感情に振り回されやすいのは、常に周囲の魔力や精霊の気配を感じとって、脳が疲弊しやすいからですって。対処法を教えてもらったから、少しはマシになったはずよ」

 「そうなんですか……あの、先代公爵が伯母様ということは、その方ご結婚なさらなかったのですか?」

 「そうよ。アタクシも結婚適齢期はとうに過ぎたし、次の公爵はヴィヴィアンね」


 「諦めては嫌なのですわぁ! 叔母様、子供だけでも作りましょう!!」


 悲痛な眼差しで、ヴィヴィアン公爵令嬢が公爵を見た。


 「往生際が悪いわね」

 「だってぇ、あたくし叔母様のように踊れませんものぉ。精霊と交感する貴重な伝統舞踊を途絶えさせてしまいますぅぅ」

 「あー……」


 公爵も遠い目をした。 

 ヴィヴィアンは公爵代理の一人娘なので、ヴィヴィアンが公爵家を継いでも、結婚して子供を産まなければ、公爵家は途絶えてしまう。


 「あとはヴァイオレットが結婚して子供を作るのを期待するしか無いかしらねぇ……」

 「ヴァイオレット叔父様にそんな甲斐性が有れば、もうとっくにあたくしに従姉妹が居ましてよぉ」


 先代公爵の弟、ヴィオラ公爵の父が迎えた、そこそこの家柄出身の貴族だった妻は、神秘に近いオーズリー一族に馴染めなかった。

 なまじ魔力が高いばかりに、今まで感じなかった精霊の気配を敏感に感じ取りすぎて、神経を擦り減らしていったのだ……。

 そして公爵家を継げる女子を産んでしばらく後に、離縁して実家に逃げた。

 それでも、なるべく一族の血を絶やさぬようにと、公爵の父は先代に仕えていた領地出身の平民女性を、後妻に迎えたのだそう。

 その人こそが、現在ショウネシー領都で唯一の服飾店を営む、ヴァイオレット氏の母親だ。

 その彼女も、息子が職人として独立する際、少しでも手助けにと一緒にオーズリー家を出てしまった。

 いや普通、公爵家ほどの権力持ってるなら、二人も奥さん手放すかしらと思わなくもないが、そこがストレスと不眠で危険な魔獣に育つ、眠り妖精と長く付き合ってきた一族の考え方なんだろう。

 因みにヴァイオレット氏も、例の舞踊は踊れないとのこと。


 「たまーに、運動能力の代わりに、もの作りの才が抜きんでてる子が出てくるのよね。うちは」


 つまりヴァイオレット氏とヴィヴィアン公爵令嬢がそうなのだ。ヴァイオレット氏が特に姪を気にかけているのは、仲間意識もあるのかも知れない。

 身分と年齢を考えれば、王弟殿下が公爵家に婿入りは有りだと思うが、地雷の気配がして、マグダリーナは口に出さなかった。

 それにアルバート王弟殿下の身体は、ダンジョンの呪いで男性になったのだ。言いにくいが、子供が作れるかどうかまでは謎である。

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