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263. 間違いなく?

 正気に戻ったマグダリーナは、父の再婚については一旦忘れることにし、せっかくだから国外のことについて、アルバート殿下に聞いてみる。


「アルバート殿下、私は今回……その、ほんの少し別の国の空気に触れることができたのですが、もしかしてこの国は、大陸で一番治安が良かったりしますか?」


 姪と抱き合って喜んでいたアルバート殿下は、ふいに真顔になって着席し、マグダリーナを見た。


「そうだね……感じ方は人それぞれだが、そう思ってくれたなら、私は嬉しいよ。我が国は大国でありながら、地理的に他国が侵略するにも、他国へ侵攻するのも難しい。辺境伯領とシーグローブ領、陸と海の出入り口さえ気をつけていれば良いから、内政に力を入れられたんだ」

 マグダリーナは頷いた。


「隣国のギルギス領はダンジョンが多く、魔獣も多い。通常のダンジョンは、積極的にダンジョンアタックをしないとダンジョンの魔物が溢れ出て、大量の魔獣になって町を滅ぼす。だからギルギスは冒険者が多い。その殆どが生活に余裕のない平民だ。魔獣や魔物を倒す力がないと、たかりや盗賊等に身をやつす者も少なくない。そういう者達がデナード商業国に流れるので、あの国の治安が一番不安だ。その分、犯罪の処罰も重く奴隷制度が残っていたりする……だからマグダリーナ嬢が先程のダンジョン検証に同意を示してくれて助かったよ。我が国の法では、その領地内にもしダンジョンが発生した場合は、領地の所有者の物となる。隣国のギルギス国とは極力揉め事は避けたいからね」


 つまり大陸一魔獣出没率が高い、危険なギルギス王国が隣にあるおかげで、他国に攻められずに済んでいるというわけなのだろう……。


「えっと、そのダンジョンの事なんですが、女神の塔の本当の所有者はエステラなんです」

「そうなのかい?」


 マグダリーナは頷いた。

「鑑定魔法でみたら、『所有者:エステラ、管理者:リィンの町の町長、町長不在時マンドラゴンズ』と……」


(どうやらその気になったら、エステラの魔法収納に仕舞えるみたいです。あれ)


 というのは、マグダリーナの心の中にだけに、しまっておいた。






 ロイヤル三人組は、さっそくリィンの町に行って泊まってみたいからと、上機嫌でアスティン家のコッコ車で出発した。ヴェリタスは、もちろん案内をしなくては行けないので、一緒に向かった。

 見送りの挨拶の時、ヴェリタスの顔には、なんて言って良いかわからないと、正直に書いてあって、ポンポンと優しくマグダリーナの肩を叩いてくれた。




「なんて事……リィンの町のドワーフ達に、さっそく仕事ができたわね……一体いくら掛かるのかしら?」


 別室でこっそりダンジョン品の査定作業をしていたドーラやカレン、ニレルとエステラがサロンにやってくると、ドーラがため息を吐いてそう言った。


「?」


 王族が去って、気が抜けたマグダリーナは、一瞬なんのことかわからなかった。だがドーラ伯母様は、腰に手を当てて、ダーモットを見据える。


「流石に第一王女を迎える訳だから、後妻だから何もしませんとは行かないわよ。王都と領地で小規模でも宴はしないといけないし、ドレスや宝飾品、家具なんかも準備してあげないと。今は夏よ? ドロシー王女の卒業なんてあっという間でしょうに」


 目を瞑って黙ったままだったダーモットは、魔法収納から、ダンジョンの宝箱で手に入れた、黄金の剣を取り出した。


「ドーラ姉上、これをセドリックに法外な値段で売って下さい」


 ドーラは黙ってダーモットから剣を受け取ると、ゴスっと柄をダーモットの鳩尾にめり込ませた。


「一流の商売人は、不必要に自国の王家に散財させないものよ。これは、お前が、王女を迎えに行く時に、佩いて、行く、の、よ!!」

「ぐ……ぐぅ……」


「クレメンティーンの時は本当に呆れる程、なにもしなかったんだから。今度はキチンとしてあげなさい。お前は二度目でも、王女には一生に一度になるかもしれないんだから! ケーレブ、忙しくなるわよ!」

 ケーレブは黙って頷いた。


「ドーラ伯母様、わ……私……」

 そうだわ。第一王女様が嫁いで来るのだから、ただお迎えするだけで良いわけがない。ことの大変さに気づき、マグダリーナはだんだん気が動転してきた。


「落ち着きない、リーナ。リーナは今、町長としてやるべきことをするの。それだけで良いわ。お金のことも、毎日ダーモットがダンジョンで稼いで来るから心配要らないわ。準備もディオンヌ商会に手伝ってもらうから大丈夫よ。いいわね?」


 ドーラはマグダリーナの肩に手を置いて、もう一度、大丈夫よと繰り返した。マグダリーナは、ぎゅっとドーラに抱きついた。


「ありがとうドーラ伯母様。伯母様が居てくれて、本当に良かった……」

 ドーラはマグダリーナの背中を優しく摩った。


 そして、マグダリーナは、大事なことを思い出した。

「大変!! まずはオーズリー公爵家に招待のお手紙出さなくっちゃ!!」


 同盟関係にあるのに、声もかけずに王家の視察だけ受け入れて集客するのは、流石に良くないだろう。


「おっと、その前に!」

 エデンが慌てるマグダリーナに声をかける。


「セレンを連れて来たぞ」

 いつの間に出かけていたのか、エデンの背後には、身を縮こませたセレンがいた。




◇◇◇




「間違いございません」


「間違いないの?! お父さまがエルフェーラ様なの!?」

 もう今日は色んなことがありすぎて、マグダリーナの驚きにも疲れが滲む。沢山喋って、声も掠れてきた。


 セレンは、ゆっくり頷いた。


「何かの手違いじゃないかな?」

 ダーモット自身は、のんびりそう言う。

「そうね。いくらなんでも、こんな剣を振るしか能のないダーモットとエルフェーラ様を一緒にしたらダメよ」

 ドーラも首を横に振って、そう言う。


 マグダリーナ達は、ニレルを見た。


「まあ……どっちでも良いんじゃないかな。ダーモットはダーモットでしかないんだし」


「まあ……確かにそうよね」

 疲労と信じたくない気持ちも相まって、マグダリーナはとうとう思考を放棄した。


「お父さまの【権能スキル】は、どういうふうに働いているんですか?」

 アンソニーがエデンを見た。

「いや、全く働いてない。おそらく【ギフト】が影響してるんだろうと思うがな……」


 二番目の休息、という謎のギフトだろう。


(つまりお父さま、働かないでも周囲から援助されてたの、前世でものすごい徳を積んでたからなのね……明日から働いて貰うけど)


 まさかの王女様を迎えないといけないのだ。しっかり稼いでもらわないと困る。


 マグダリーナも自らの仕事をすべしと、オーズリー公爵、ヴィオラ様宛の手紙を書きはじめた。


 公爵の姪で、ショウネシーの領都に別宅を持っているヴィヴィアン公爵令嬢は、夏休みの前半は家族で過ごし、後半からこちらに来ることになっている。

 あのヴィヴィアン公爵令嬢が、ダンジョンに興味あるかどうかはわからないが、オーズリー公爵家はテイマーの家系……公爵の方は姪にくっついて、積極的に従魔のレベル上げに来られそうな予感がする。ダーモットと同じで、社交されてないので暇だろうし……。


 ふと、エリック王太子の成人祝いの舞踏会のことを思い出す。

 精霊を呼び出し、黄金を得た公爵を思い出して、なんとなく心配になった。


 公爵自身は背中に鬼人、空気に迫力、口と行動に毒を宿す人だから、滅多なことは無いだろうが、ヴィヴィアン公爵令嬢の方は、何処か危なっかしい。変な輩が寄って来ないか心配だ。


 マグダリーナにさえ寄ってきた輩がいるのだ。

 結婚詐欺から決闘に発展した時のことを思い出して、マグダリーナは遠い目をした。


「タマちゃん、そのうち、ヴィヴィアン様の結婚相手も見つけてあげてね」

「いいよー、タマ頑張るよー」


 マグダリーナは、タマを優しく撫でた。

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