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245. 教国の魔導具を解析

 教国の流民達の使っていた、魔導具の解析が終わった。


 その結果、教国にある対ハイエルフ結界は、内部から破るしかない事がわかる。ついでにハイドラゴンは出入りはできるが、結界を壊すことは出来ない……ゼラで試すと、攻撃は全て吸い取られて、結界をより強固にした。


「つまり誰かが、内側から結界を壊す必要があると言うことか……」

 ハンフリーの言葉に、エステラはため息をついた。

「もしくは、設定されてるハイエルフの想定値を超える『力』で壊すことね」

「可能なのかい?」

「出来たとしても、多分結界を支えてる聖女たちは、漏れなく死んじゃう……」

「別の方法を探そう」

 ハンフリーは即答した。


「そもそも教国の魔導具は、何故動かすのに聖属性の魔力が必要なんだ?」

 フェリクスがルシンに聞いたが、知らんと一蹴された。


 代わりにエステラが説明する。

「聖魔法の魔力には、元々精素の割合が多めなのよ。聖属性持ちが希少とされるのはそのためね。教国の魔導具は動かすのに一定量の精素が必要なんだわ」


「だから、聖属性の魔力持ちの子を、片っ端から教会所属にしていったんだな……」

 ヴェリタスが呻いた。


「しかも足りない分は、聖属性持ちの人の生命力を使用する仕組みになってたのよ」


 そんな訳でレベッカは今、治療院で異常がないか検査中だ。


 馬車の中でレベッカのポーションが、収納鞄から出した途端に変質したのも、中の魔力を吸い取られていたせいだろう。


 それからエステラは真剣な顔をして、言った。

「後どうしても不明な点があるの……」


 マグダリーナをはじめ、そこに集まっていた者達は、緊張した面持ちで、エステラを見た。


「精素を動力に使うなら、なんで直接大気中から集めずに、わざわざ聖属性の魔力を利用してるのかさっぱりぽんなのよ……それに精霊だって云うなら、そもそも魔導具なんか使わなくても、自分で結界張れるよね?」


 その疑問には、エデンが答える。

「ふっは。そもそも本来なら女神の庭に行くべきところを、他人の身体に憑依してる時点で、自分で結界を張るほどの力はないと見ていい。あと魔導具の技術的なことは、エステラの方がはるかに上だ。比べてやるな……」


 エステラは驚いた顔をした。


「まさか……ウシュ時代の魔導具は現代の魔導具より高い技術使ってるでしょ?」

「ウシュの魔導具は、ドワーフが作り上げた道具にハイエルフが魔法を付与して仕上げるからこその品質だ。ヤツの側にドワーフ族がいないなら、まあ限界はあるだろうな」


「ブレアおじさまは両親がドワーフの血を引いてるって言ってたわ。教国にもドワーフは居るんじゃないの?」

 ドーラ伯母様の配偶者である、元大富豪の紳士を思い出して、マグダリーナはエデンを見た。


「そりゃドワーフはエルフよりは積極的に人族に混ざって生活はしているが、その分ウシュ時代からの技術は失われていってると思った方がいい。なんせウシュが滅んだ後は、長く戦乱の世が続いたしな。才能はあっても、やり方を知らなきゃ生かしようがないだろ?」

「戦乱があったのなら、尚更技術は進歩するものなんじゃないの? ……その、兵器の開発とかで」


 エデンは珍しくため息を吐いた。

「せっかく同胞が精霊化して世界の滅亡を止めたのに、その後また戦で世界が危うくなったら、たまったもんじゃない。俺とディオンヌ……それから生き残ったハイエルフ達で、ウシュの魔導具の中でも兵器とその資料は消した。そして生き残ったドワーフ族をドワーフの国のあった所で比較的安全な場所に集めて、戦に巻き込まれないよう保護してたんだよ……ところがナカナカ戦は収まらない……最終的にディオンヌとニレルが戦に介入した」

「え?」

「え?」

「どうやって……ですか……?」


 驚いてニレルを見るマグダリーナとエステラのあとに、アンソニーが全員の疑問を代表して口にする。


「僕と叔母上で、ちょっと大きな魔法を使って、冷静になってもらっただけだよ」

 ふわりとした微笑で、二レルはそう言う。しかし、いまのマグダリーナはもうご理解していた。二レルのこの人の良さそうな雰囲気、自分にとって都合の悪いことから意識をそらす行動だ。


 天然か計算か。絶対計算ずくだと思う。エステラは別の男性選んだっていいんじゃないかしら。


 不意にマグダリーナは、背筋がぞくり、とした。肩の上のタマもぶるりと震えた。

 そっと視線を上げると、優しい微笑みの二レルと目が合う。神霊の気配にある程度敏感になったマグダリーナだけには、二レルの瞳の奥に熾火のような不穏な光が見えた。


(思考、読まれてる……? ま、まさかね……)


「んははは! 有り体に云えば、脅しだな。女神の使者だと名乗って、これ以上争いを続けるなら滅びを与えると……何ヶ所か地形を変えたんだったかな?」


(ほらやっぱり、洒落にならないやつ――――!!!!?)


「私まだ、地形まで変えたことない……」

 エステラが悔しそうに、呟いた。


「落ち着けよ。エステラはショウネシーの海を制覇したから、地形まで変える必要ないだろ」

「いや、海のことを抜きにしても、地形変える必要性は今のところどこにも無いよ」

 ヴェリタスに続いてハンフリーまで、隙あらば大規模魔法を使いたいエステラを諭す。


(くっ、二レルはあざとくても、エステラは天然でやらかすんだった――――)


 でも、エステラなら許す。

 マグダリーナには、その覚悟が決まっていた。だって、エステラだから。


「まあ、それで戦が収まったは良いが、今度は『女神とは?』となってな。そん時にどっかの国でウシュの資料が見つかって、それがエルフェーラの名前が記載された姿絵だったのさ。ディオンヌとニレルも、外見はエルフェーラに似たところがあったし、これが女神に違いないとあっという間に『女神エルフェーラ』が広まった」

「世界規模の戦乱の時代を終わらせちゃったんだったら、そうなっちゃうわね……」

 二レルからの圧もなくなって、マグダリーナは安堵の息を吐いた。


「んはは! ま、そうだな」




◇◇◇




 レベッカの身体は幸い大きな異常はなかったが、疲労が回復しきっていないようなので、しっかりと食事と睡眠をとるよう注意を受けてきた。それはレベッカに付き添ったライアンも同じだった。

 三人の中で、マグダリーナだけ回復がはやかったのは、多分エステラのくれた腕輪の魔導具のおかげだろう。


「やっぱりまずは睡眠からよね……」

「エステラが寝る前に蜂蜜ミルクを飲むとぐっすり眠れると言ってました。それに快眠すやすやねんねの子守歌をお父さまにお願いしましょう!」


 アンソニーは小さな錬成空間を作って、ミルクと蜂蜜を混ぜていく。蜂蜜は、女神の光花の蜂蜜だ。

 ティーカップにナードとヴヴの分も蜂蜜ミルクを注ぐと、マグダリーナに一杯差し出した。

「お姉さまもどうぞ」

「ありがとう、いただきます」

 マグダリーナは自然と笑顔になりながら、蜂蜜ミルクの入ったティーカップを受け取った。

「美味しい……これならきっと、二人もよく眠れるわ」

 蜂蜜の甘さと一緒に、光花の香りが広がる。女神様がお側で見守ってくださっている感じがして、気持ちがほぐれるに違いない。


「お姉さまもしっかりお休みになって下さいね」

 シンとタマがワゴンの準備をして、アンソニーは蜂蜜ミルクを配りにいった。さりげなくタマも付いていってしまう。

 まあいい。アンソニーの手助けになるなら、大いに良し。


 マグダリーナはせっかくなので、先に寝室で寛ぐことにした。


 寝衣に着替え終わると、タマも戻ってくる。

「タマちゃん、お疲れ様。トニーの手伝いありがとう」

「心配ないよー。蜂蜜ミルク飲んで、ぐっすり寝ればきっと元気回復よー」

「そうね……大きく体調を崩す前に、分かって良かった。幸い今は夏休みだし」


 マグダリーナはタマを撫でて、寝台に横になった。夏の夜には、スライムのひんやりぷりぷるボディは心地よい。


「リーナ」

 寝室のドアが軽くノックされ、ダーモットがそっと顔を覗かせる。

「お父さま?! 何かあったのですか?」

 起きあがろうとしたマグダリーナに、ダーモットは手振りでそのままでと示す。


 まさか。


「リーナが最後になってしまったけど、よく眠れるようにね」


 子守歌?!


 アッシが灯りを消すと、ダーモットが持ってきた、小さな妖精灯の灯りだけが、優しく灯っている。


 ダーモットは、戸惑うマグダリーナの肩まで夏用の布団をかけると、優しくポンポンした。そして、タマも撫でる。


 穏やかなダーモットの歌声に、不覚にもマグダリーナは、心地よく眠りについてしまったのだった……


《ねんね ねんね すやすやねんね 月も星も 君が大好き 

ねんね ねんね すやすやねんね あした起きれば わくわくいっぱい……》

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