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244. まさかの妖精のいたずら

「魔法って、すごいのね……」


 マグダリーナはもう、それしか言葉が出てこなかった。


 エステラが新開発した魔導具『みるみるエコーくん』は、シンプルな球体型にして、母体がそれを握れば、お腹の中の赤ちゃんの様子を動画で見ることができるという優れものだ。

 もちろん、胎児や母体に異常がないかを検査する機能も付いている。


 先日行ったシャロンの健診の後に、撮影していた赤ちゃんの様子を、ショウネシー邸サロンで見せてもらっているところだった。


「あ、蹴ってますの……! よく動くのですわ……」

「随分と元気な赤ちゃんなんですね」

 レベッカとライアンが、驚いて動画に見入っている。

 ヴェリタスは、ちょっと自慢げな顔をして、ハーブティーを飲んで余裕をみせていた。きっと検診で先に一緒に見ていたんだろう。


 ジョゼフの奥さんがショウネシーに来た時に、お腹の子供の状態を確かめるために作られた魔導具なので、赤ちゃん動画を見るのは二回目だった。だが、明らかにシャロンの女の子の方が、よく動いている。

 元気で異常がないと言う事は、良いことだ。


「お耳がちゃんと長く尖ってます……!」

「本当だわ。額に見えるのが、きっと精石ね」

「ええ、そうです。あの精石がもう少し大きく育たないと、出産時期にならないのです」

 イラナの説明に、マグダリーナは素直に疑問を口にした。

「精石が大きくなるのを待つ間に、身体の方はぐんぐん育ち過ぎたりしない?」

「ええ、今の感じだと、大丈夫ですよ」


 イラナの言葉に、エステラも頷いたので、マグダリーナは安心した。


「大きく育つと、どうしていけないんですか?」

 アンソニーが、子供らしい質問を、マグダリーナにして来た。

 うむ、説明しにくい。


「えっと、もちろん小さ過ぎても赤ちゃんの健康状態が良くないからいけないんだけど、大きすぎると、今度は出産時に母体に負担をかけたり、難産になりやすいの……ええと、同じ瓶でも、シンとハラだと大きさが違うから、出入りのし易さに差が出るような感じ……?」

 アンソニーは、ピンときた顔をした。

「詰まってしまうのですか?」

「そ……そうね、そんな感じかしら」


 丁度エステラが、何か思い出したような顔をして言った。

「あっ、大丈夫よ! ハイエルフの子は産道を通らずに、転移魔法でお腹から出てくるのよ」

「「えっ?!」」

 マグダリーナだけでなく、シャロンも驚いた顔をした。

「ここに見える臍の緒とかは、どうするの?」

 マグダリーナは想像できなくて質問した。

「その時がくると、自然と臍の緒が切れてそのまま胎盤と一緒に精石に吸収されるの。そして転移して出てくる。ハイエルフの助産は、出てきた赤ちゃんを受けとめることね。それにシャロンさんはハイエルフとは身体の造りが違うから、産後はやっぱり大事をとって安静にしていたほうが良いわ」

「まあ……もしかして、転移魔法でお腹から出てきても、それは私のお腹の上とか、寝台の上とかではないということかしら?」

 驚くシャロンに、イラナは頷いた。

「子によってそれぞれです。私はハイエルフの助産経験もありますから、安心して下さい。デボラも私が受けとめました」

 エステラも手を挙げる。

「私も助産として一緒にいるから安心して! ヒラやハラ達と一緒にどこに現れても、必ず受けとめるわ!」


 女性の穢血に関しても、エステラとイラナの人形を使った人形劇と図解で、情緒のない正しい月経の知識の動画が出来上がっている。これは既に全国配信されていた。


 ついでにイラナの治療院では年齢ごとの検診の他にも『男女のお付き合い前の特別検診』を推奨していて、これも積極的にマゴマゴ放送で宣伝されている。

 まあ問題があるとすれば、検診に関しては、今のところショウネシーの治療院でしか行ってないので、広く国民にすすめることが難しいとこだ。



 因みにシャロンの赤ちゃんの映像は、父親であるイラナ以外のハイエルフ男子には公開されない。

 それを知って、この場にいる男性陣も慌てたが、人とハイエルフの感覚の違いに基づいた区別なので、気にしなくて良いとイラナは答えた。



 産婦人科的方面以外にも、エステラが異世界の医療方面の知識をイラナに伝授したことで、それをヒントに、こちらの世界に合わせた魔法や新薬の研究もイラナは行っていた。

 そしてポーションや塗り薬だけでなく、粉薬や錠剤も少しずつ作られていった。




◇◇◇




「どういう……こと……?!」

 完成しない、初級回復薬を見て、マグダリーナは震えた。


 ショウネシー領の医療の発達に触発され、今後また何かあった時のために、マグダリーナもポーションくらいは作れるようになろうと思ったのだ。


 初級回復薬のレシピは簡単だ。材料も二種類の薬草と綺麗な水の三つで、最後に魔力を込める。最期くらいしか失敗のしようがない。なのに、薬草と水を入れた鍋は火にかけた瞬間景気良く噴水し、キッチンを水浸しにした。


 先生役のエステラが、呆然として言った。

「……妖精のいたずらだわ」

「え?! お父さまと同じやつ?!」


 エステラは頷いた。

「ダーモットさんは、書類を破いちゃうけど、リーナの場合は調理に分類される行動は、だいたい失敗する感じかしら」

 じっとエステラは、マグダリーナを鑑定する。

「ポーション作りは調理に入るのっ?!」

「多分。お湯を沸かすだけなら大丈夫だと思う。薬草が入ったのはアウトだったわね」

「そんな……」


 つまり今後、一人の時は白湯しか飲めないということだろうか……


「そんな……」

 マゴーが綺麗にしてくれた床に座り込んで手をつき、マグダリーナは項垂れた。


 一緒にいたアンソニーが、あることを思い出した。

「でも焼肉やバーベキューのお肉は、焼いて食べれました!!」

「それはまだ妖精にくっつかれる前だったからよ」

「そんな……」

 アンソニーも口をつぐむ。


「大丈夫ですわ。今の今まで調理をしなくて済んでいますもの。リーナお姉様はそのままで」

 レベッカが肩ポンをして、慰めてくれる。


「まあ、普通の貴族令嬢ならそんなもんだろ。母上もお茶しか淹れれないし」

 ヴェリタスの言葉に、マグダリーナははっとした。


「そうよ! お茶なら、ティーポットにお湯を注げば良いだけよね! きっと出来るわ!!」




◇◇◇




「にっが!!!」

 ちゃんとスプーンで茶葉を計り、お湯を注いで、基本の時間通り待っただけなのに、通常より濃い色の苦渋い紅茶になってしまった。


「お茶の成分が濃く出てるようね。リーナのいたずら妖精は、水の妖精ね」

 エステラはマグダリーナの淹れたお茶を薄めて、ミルクと砂糖、そしてスパイスを入れて味を整える。


「はい、どうぞ」

「美味しい……」

 あの苦い紅茶がベースになってるとは思えぬほど、まろやかでコクのあるミルクティーだった。


「妖精のいたずらは、困ったことがある反面、その妖精からの贈り物でもあるのよ。ほら、ダーモットさんは風魔法の扱いが上手いしね」

「私の場合は……?」


 ミルクティーのカップを両手で支えるマグダリーナを、エステラはじっと見た。


「うーん、味覚が鋭くなってるわ。つまり美味しいものをより美味しくいただけると云うことよ! 今までリーナの周りにこんな強い妖精の気配は無かったから、多分、あのユニコニスのところで連れてきたのね」


 なんてこと! 作れないのに食べる方面に才能が現れてしまうなんて……


「ますますショウネシー以外で暮らせない身体になってしまったわ……」

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