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235. ユニコニス

「また来たのか。懲りもせず」


 夢のように美しい湖の畔に、夢のように美しい、白銀に輝くユニコニスがいた。

 マグダリーナもレベッカも、その美しさに、悔しいが見惚れるしかない。


 そこへ美しい竪琴の音が響く。エステラだ。昨日セレンと一緒に作っていた曲を奏でる。

 エステラの透明な歌声が、竪琴の音と共に風に乗って、光に溶けてゆく。


《深き緑の湖の畔に 孤独なユニコニス

たった一頭で星降る夜を 幾たび過ごす

彼に寄り添う魔獣はおらず

彼の声聞く妖精もない


深き緑の湖の畔の 孤独なユニコニス

ある日白き(かいな)の 乙女に出会う

乙女は優しく彼に触れ

やがて彼は乙女の膝に眠る


深き緑の湖の畔の 乙女とユニコニス

乙女は白き(かいな)で 彼に手綱をつけた

彼は動けず成すがまま

乙女の白き(かいな)は ユニコニスの血に染まる》


 それはユニコニスが、素材狙いの乙女に狩られる歌だったが、当のユニコニスは、歌詞の内容よりもエステラの美貌に見惚れていた。


 エステラは新年に着る白い衣装に、黄金で象嵌された白い竪琴を持ち、女神の光花で髪を飾っている。まさに天使か精霊かという姿で、何故か肩にはタマを乗せていた。

 何故かタマを。


 ヒラとハラとモモは、麻袋を持って、マグダリーナ達の横で待機している。残りの白色竜種トリオはユニコニスを警戒させない為に、ニレルと一緒に王都の工房で待機中だ。


 エステラはユニコニスにゆっくり近づく。明らかにユニコニスはそれを待っていた。そわそわと毛繕いしながら。


「美しき乙女よ。其方になら私の世話をさせてやろう……さあ、服を脱ぐがよい」

 ユニコニスの鼻息は荒い。


 エステラの身につけている物は、全て浄化済みで穢れの心配は一切ない。

 マグダリーナは、タダのダメダメ馬だと判定した。エステラもそうだろう。


 エステラは呆れを含んだ眼差しで、ユニコニスを見た。

「……素っ裸になるのは貴方の方よ」


 エステラが手を掲げると、魔法の光がユニコニスを包み、あっという間に全身の毛を……無くしてしまった。

 そして三色スライムの持つ麻袋に、ととのえるの魔法で綺麗にされたユニコニスの毛がどっさり入る。


 見たか、変態スケベ馬よ。

 これが脱毛魔法の第一人者たる、エステラの力だ。


「なに!?」

 慌てるユニコニスに、タマが飛び付いた。

「かぷっとして、ちうー!!」



「タ、タマちゃん!!」

 心配になってマグダリーナが飛び出そうとするのを、アンソニーとヴェリタスが止める。


「大丈夫です、お姉さま。タマちゃん吸血を覚えてから、かなり丈夫になってますから」

「なんて?」

「吸血だよ。リーナ達を捜索してる間に覚えたスキルな」

「……なんで?!」


 ユニコニスにくっついている、タマの身体がみるみる膨れていく。

 ユニコニスがふらりと膝を付くと、タマは離れた。


「み……漲るぅ〜」

 タマは真紅に輝くと、一瞬で元の大きさに戻り、元気にマグダリーナの元へ跳ねて来た。


「リーナ! タマ進化したー」

「え?! 本当だわ。ハイスライムになってる!!」


 マグダリーナは鑑定でタマを確認して、喜んだ。

 だが鑑定画面に気になる表示があったのは、帰ってから確認することにする。


 エステラと入れ替わり、ドロシー王女が伏したユニコニスの側にいく。そしてタマと入れ替わるように、ヒラも。


 ドロシー王女は、ユニコニスの角を踏み付けた。

「私に従いなさい。さもなくば、貴方の醜態が王国中の魔獣に知れ渡ってよ」


 普段嫋やかで優しいドロシー王女だが、怒ると威圧感が半端ない。

 もしかして一番セドリック王に、中身が似ているのはこの王女かもしれない……マグダリーナはエリックとバーナード、二人の王子の顔を頭の中に浮かべてみたが、今のドロシー王女に敵う気はしなかった。


 ユニコニスは悔しげに唸る。

「其方のように凡庸な顔の娘になど……」

 鋭く風を切る音がして、ユニコニスの角が根元から切り落とされた。素晴らしい剣の腕前である。

 剣を手にしたドロシー王女は、そのまま剣先を、ユニコニスの首に向ける。


「この湖の畔にいたのはユニコニスだと思っていたけれど、全く違ったようですわ」


 ポロロンとエステラは竪琴を爪弾く。

 ドロシー王女は、毛も角も無くした哀れなユニコニスを、冷淡に見下す。

「彼女の身につけている物は、全て聖別された清らかなもの。それを脱げとは、本物のユニコニスなら言うわけがなくってよ。しかも、神獣の主に向かって」


 エステラは始めに歌った歌の最後の一節を歌う。

 乙女の白き(かいな)は ユニコニスの血に染まる……と。


「それに角を無くして毛も無くした、滑稽な姿の貴方に、人の乙女の容姿を判じる資格は無いはず。王女の名にかけて成敗致しましょう、醜い魔獣よ。それとも命乞いしてみますか? 貴方の態度次第では、私に仕えることを許してあげても、よろしくてよ」


 ユニコニスはブルブル震えて、ドロシー王女とその側にいるヒラを見比べた。

「今晩、馬刺しぃ?」

 ヒラがあどけない仕草で、ユニコニスを見る。


 ――――とうとうユニコニスは、屈服した。ドロシー王女に。

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