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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十二章 悪女

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234. ハラの気持ち

 学園から帰ると、ヴェリタス以外はエステラの家に行くことにした。

 ヴェリタスは最近、帰ってすぐに魔法でアスティン邸の環境を整えて、シャロンの手伝いをしている。


 いつも通り、呼び鈴を鳴らす前に現れるササミ(メス)に足を浄化され、渡り廊下と縁側を歩く。以前と同じ、水の部屋に通された。


『今、主はこの状態でな』

 ササミ(メス)が、すーと開けた襖の奥。その畳部屋では、紙の散らばった机の横で、エステラがスライム素材ジェルマットレスでヒラを抱えて眠っている。その向かいでは、ドミニクが机に突っ伏して寝ていた。


 机の上に、流民の馬車に付いていた魔導具が乗っているので、おそらくその解析をしていたのだろう。


「お邪魔だったかしら……」

 ぽつりとマグダリーナは呟いた。


「そんなことは無いよ」

 ニレルが飲み物やお菓子の乗ったワゴンをひいて、縁側から声をかける。

「ちょうどおやつが出来たから、起こそうと思っていた所だよ。飲み物は冷たいものでよかったかな?」

「ありがとうニレル」


「エルロンドから取り寄せた、ササヨモギで作ったパフェだよ」


 抹茶ならぬササヨモギパフェを出されて、マグダリーナは感激した。

 飲み物もササヨモギ冷茶だった。


 ニレルはハラとモモを持って、エステラの頬にぴとっと当てる。

「エステラ、起きないとアイスが溶けちゃうよ」

「や……アイス……食べる……」

 モゾモゾと目を擦ったエステラは、まだ寝ぼけ目で、マグダリーナ達をじっと見た。

 それから慌てて起き出して、ととのえるの魔法をかけてやってきた。


「やだぁ……寝てるの見えてた?!」

「大丈夫よ。エステラは寝顔もかわいいから」

 マグダリーナ達は笑った。


「まあ、リーナ達だからいっか」

 エステラも開き直って、席に付く。


「ん〜ん、美味しい〜」

 エステラがササヨモギパフェを頬張って、頬を緩める。

 それから、あ、と真剣な顔になって、ヴヴにパフェを食べさせているライアンを見た。


「ライアン、あなたが生まれた時、お師匠が何をしたのか知ってる人がいたの」

「え?」


 思いもかけない言葉に、ライアンが顔を上げると、エステラの手は、ハラに向けられていた。

 ハラは元々ディオンヌの従魔だった。当時も一緒にいたのだ。知っていて不思議はない。


「ハラはレーヴィーが大嫌いなの」

 ハラはぽつりと言った。


「スライムが弱い魔獣になったのは、レーヴィーが権能で介入したからなの。許せないの。……でも、ライアンのことは嫌いじゃないの」


 ライアンはじっとハラを見た。


「ハラの気持ち、もう少し整理出来るまで待って欲しいの。ライアンが成人したら、ハラの知ってること全部話すなの」


 ライアンは頷いた。

「俺はハラの心に任せるよ。ディオンヌさんがエステラの師匠なら、俺やパイパーさんに悪いようにするような人とは思えないし」


 ハラは飛び跳ね、ライアンの頬にぴととくっついて、離れた。

「ハラの心とディオンヌを大事に感じてくれて、ありがとうなの。ライアンはいい子なの」


 それからマグダリーナは、ドロシー王女からの依頼を相談した。


 ただの水属性用の杖の素材採取が、馬対王女の面子をかけた戦いに発展していることを。


「えー幻滅……ユニコニスって一角獣でしょ? 前世の幻想譚のイメージ台無しだわ」

 エステラが呆れた様子で言った。


『まーあいつら、オスしかおらん種族じゃから、そうやって人間のメスで憂さ晴らししとるんじゃ。まともに相手せんでええよ。まあ、穢れを嫌う種族じゃから、宝飾品や衣服を脱がせようとするのは、その為もあるんじゃがな。人が身につける物は、大抵、そこに至るまで色んな欲望や人の念に晒されてきとるからな』

 ゼラがササヨモギアイスを、お口の端に付けながら言うので、エステラがそっとハンカチで綺麗にしてあげる。


「オスしか居なくて、どうやって繁殖しているんですの?」

 レベッカが首を傾げた。


『二本角のバイコニスはメスしかおらん。ユニコニスはバイコニスと番うんじゃよ。穢れを嫌うユニコニスと違って、バイコニスは穢れに強く、穢れを祓う故、大抵穢れの多い場所におる。なんで、ユニコニスがバイコニスに出会う確率はほぼ無いと云われとるんじゃ』


「それで性格が捻くれちゃったんですの……」


「どっちにしろ、あの温厚なドロシー王女を怒らせたんだから、相当ダメ馬だと思うわ……」

 マグダリーナの言葉に、タマちゃんも頷いた。

「女の子の容姿を貶す時点で、オスとしてダメダメなのー。タマは頑張ってたエリックの中で暮らしてたから、ダメなオスには厳しいよー」


(そうなんだ……)


 王族の教育など、相当に厳しいに違いない。それと比較される方が可哀想な気がしなくも無いが、比較されるのが魔獣ってどうなんだろうか……


「水属性の杖に合う芯材って、他にはどんなものがあるんだ?」

 ライアンがエステラに聞く。


「スライムは全属性対応可能よ。私も三歳くらいの時には、スライム杖使ってたわよね?」

 エステラはニレルを見たが、ニレルは首を横に振った。

「あれはエステラ以外は、扱うのが難しいかな」


「あとは水蜂の羽とか、水蛇の鱗や鬣かしら……この国には水属性の魔獣はそんなに多くないのよ。あ、プラの葉っぱも使えるわ」

『ぷ?』

 いる? とプラが葉に尖晶石の魔剣を当てながら、ライアンの顔を見て聞く。

「いや、いまはいいよ」


「後は女神像の噴水の中に咲いてる花も、使えるわ。水蜂や水蛇の杖が合わなくなってくると、一角魔獣馬の角や立髪を使うのが一般的なんだけど、リーナの先輩は随分魔力が高いのね」

「ルタがよく手合わせをしてもらってるらしいから、そうだと思う」

「その内他の属性の魔法も扱うことを考えると、やっぱりユニコニスか、プラかスライムか花かしら……」

「魔法について話をした程度の先輩なの。特別に親しいわけでもないから、流石にプラの葉は貰えないわ」


 後で念のために、噴水で花を摘んでおこう。マグダリーナはそっと思った。

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