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231. オリガ

 デナード商業国の教会で治療を受けていたオリガは、そこそこ回復した魔力でパイパーに繋がり、今回の作戦の様子を見ようとした。

 だが、パイパーに繋いであった、魔力の糸が、綺麗さっぱり無くなっていた。


(死んだかパイパー、使い勝手の良い人形だったのに……)


 そこへ、デナード商業国の大主の一人、闇ギルドを統べる男がやってくる。


「どうだい、アタシの孫は、良い商品になりそうかい?」

 オリガ老婆は、ニヤリと笑って、男を見た。

 男は無言で、オリガに近づくと、くちびるを重ねた。

 無理矢理喉を伝う、焼けた感触に、オリガは咄嗟に男から離れる。

「……っ、」


 男は懐から小瓶を取り出して、素早く中の解毒中和薬を飲み干した。そして、氷のような温度でオリガを見下ろす。

「吐き出そうとしても無駄だ。その毒は、じわじわとお前の内臓を焼き溶かす。まさか秘蔵の毒薬を使うことになるとは思わなかったが、お前程の魔女ならこのくらいはしないとな」

「な……ぜ……」

「お前は自分の孫を餌に、俺たちにとんでもないものの相手をさせようとした。その報いだ。せいぜい女神に祈るがいい。お前は教国の犬だろう、慈悲に預かれるはずだ」

 男はオリガに背を向けて、教会を去った。その眼裏には、輝かしいエステラの姿が、今も美しく揺らめいている。

 それは闇に属する人間の、ナニカを焼き焦がすには充分だった。



 オリガは喉元の焼ける痛みに、悲鳴を上げ、のたうつ。教会員が慌てて様子を見に来て、回復魔法の使い手を呼びに行った。


 この毒薬がどんなものか、オリガはよく知っている。教国がエルロンド王国から仕入れていたものだから。オリガは全て知っていた。女神に祈っても慈悲など得られないことも。全て大精霊様が行っていたことだったのだから。

 その大精霊様は、現在何かしらの理由で酷く弱り、現教皇の身体を捨て、寿命を迎えんとする前教皇の身体の中にいる。このまま前教皇が亡くなれば、大精霊様も滅びるだろう……今はゼフがなんとか、前教皇の延命を行っていた。


 こんなところで、終わりたくない。


 オリガは歯を食いしばって、思考を巡らせる。己も娘も全て捧げてきた。大精霊様はオリガに特別に他者を操る魔法を伝授したが、どんなに尽くしても流民のまま。教国人としての安寧や幸福を与えてはくれなかった。


 一番力のある存在。それに従えば、幸福が手に入るはず……大精霊様を邪魔する存在を排除しなければ、大聖霊様を一番力のある存在にしなければ、オリガに幸福は訪れない。

 己が何故、そんな風に考えるようになったのかも思い出せないまま、オリガはあることを思いついた。



「大丈夫ですか? 回復魔法をかけますね」


 聖属性の魔力を持つ教会員が駆けつけてきた。

 オリガは大事に懐にしまってあった魔導具を取り出す。

 聖属性持ちの人間の命と引き換えに、聖エルフェーラ教国の聖十一教会、その中枢部……ゼフのいる場所へ転移することが出来る、たった一つの使い切りの魔導具だった。それを、やってきた教会員の胸に突き刺す。


「――――っ!!!!」

 教会員は、叫びを上げることも出来ずに、みるみる干涸びていった。


 そして、オリガは転移魔法の光に包まれる。


 聖十一教会には「アレ」がある。

 大精霊様から伝授された、この能力があれば、「アレ」を新たな身体にできるはず。


 決して朽ちることのない、褐色の肌に黄金の巻毛の美しい肉体が――――

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