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230. 葬送

 突然現れたエステラは、黒手袋の男のすぐ後ろにいた。

 男は背後を取られ、咄嗟に剣を抜き、振り向きざまに剣を振るった。だが、エステラの姿を見て、剣を落とすと、目を見開いたまま呆然としている。

 手下の男達も、誰一人として動けない。


 エステラが普通より可愛いハーフの女の子だった時から、ハイエルフになるまで、ずっと一緒だったマグダリーナ達はすっかり慣れてしまったが、初見の者にとって、それだけハイエルフの美しさは衝撃だった……


「な……んだ、お前……まさか精霊か……」

「そうとも云えるし、そうでもないわ」


 黒手袋の男に、エステラは曖昧に答える。

 小精霊の輝きを纏ったエステラは、この酸鼻を極めた現場に、余りにも不似合いだった。


 そしてエステラは、無残な死体と血溜まりに目をやると、淡く輝きながら歌いだした。

 それはハイエルフに伝わる、葬送の儀式だった。



《その器にただ一つの灯火 巡りの輪に揺られ宵闇に溶けゆかん》


 エステラの歌に呼応するかのように、亡骸達も淡く輝きだす。


《月の導きに続け 今が世界に還帰る時


器は大地になり 心は風のまま流るるだろう》


 マグダリーナの腕の中の、見知らぬスライムも輝きだした。

 ――これは、転移魔法の輝きだ。


《そして魂は女神の庭へと至り 冬に種となり 春には芽吹き美しき花となる


女神の愛に照らされながら》



 エステラが歌い終わると、無残な死体も血も何もかも、光になって、まるで空気に溶けるように消えて無くなった。


 そしてマグダリーナとレベッカ、ライアンも、見知らぬスライムと一緒に転移魔法で姿を消す。



 エステラは呆然としている男達に、手を振った。

「バイバイ」


 男達もデナード商業国へと、転移魔法で戻される。

 黒い手袋の手が、エステラへと伸ばされたが、届くことなく消えていった。



 一人残ったエステラは、空を見上げる。

「女神様……私が送った魂が、どうか無事に女神様の元に辿り着きますように……」


 エステラが初めて行った葬送は、母スーリヤだった。それから師であるディオンヌを。


 思い出すと愛おしくて、悲しくなる。

 ハイエルフはその寿命の長さ故に、人より多く、この愛おしさと悲しみを積み重ねて行くのだろう……


「良かった……間に合って……」


 エステラは流民達が使っていた魔導具を拾うと、視線を感じて振り向いた。

 草むらに、ヒラとハラの子分になったスライム達が顔を出している。そしてエステラに手を振りながら、ぽよんぽよん移動して行く。


「捜索に協力してくれて、ありがとう! それでえーと、どこに行くのかな? え? 仲間を増やす旅にでる?! そっか、たまにはショウネシーにも遊びに来てね」


 エステラは手を振りながら、内心、どゆこと??? と首を傾げていた。

 スライムは集団で生まれるが、その後は集団行動をしない……気ままに風に吹かれ、のんびり生きている魔獣だ。積極的に仲間を増やそうとは、ヒラとハラの影響としか思えない。帰ったら、お話しを聞かなければ。


 とりあえずエステラは、マグダリーナ達を無事保護したことを、ニレルとヨナス、そしてゼラに連絡した。




◇◇◇




「リーナお姉さま! レベッカお姉さま! ライアン兄さまぁ!! 皆んなご無事ですか?!」


 転移先で、真っ先に目に入ったのが、泣きそうな顔で走ってくるアンソニーだ。

 それから、純白のスライムが飛び出してくる。


「リーナぁぁぁ、タマ頑張ったんだよぉぉぉー」


くまっくまっ

ぶっぶっぶぅぅ


 ナードとヴヴも、それぞれの主人に向かって飛びついた。


「トニー!! 助けに来てくれてありがとう……」


 マグダリーナは真っ先に弟のアンソニーと抱き合った。アンソニーは学園に通う様になってから、以前のように気軽に手を繋いでくれる事がなくなった。自然な成長で当然な事だけど、ちょっと淋しかったのだ。

 それからタマを抱きしめようとして、知らないスライムを抱えたままだったことに気づいた。

 

 どうしようかなぁと、スライムを見る。スライムはぴっと片手を上げてマグダリーナに振って見せると、その手の中からぴょんと飛び出して、アンソニー達が使用していたと思われるテントへ向かって行ってしまった。


 レベッカやライアンとも抱き合っているアンソニーをチラリとみて、マグダリーナはタマを受け止めて肩に乗せる。

「もしかしてあの子、トニーの新しい従魔だったの?」


「違がうよ。ハラとヒラの子分だ。結構大変だったんだぜ。領民カードやエステラの魔導具の追跡ができなくってさー。タマが大体の方角を特定して、後はヒラとハラがスライムを片っ端から子分にして、数に任せて捜索してたんだからな」


 答えたのは、魔獣を解体して食材になったお肉の塊を持ってやって来たヴェリタスだった。


「おかげで俺とトニーはずっと、スライム達の為に魔獣狩りだ。こいつらよく食べるんだわ」

 ヴェリタスはお肉を切り分けて、あの見知らぬスライムに与える。

「お前、よく見つけてくれたよ。お手柄だ」


「ルタ……良かった……良かった……本当に……」

 いつも通りのヴェリタスを見て、マグダリーナは涙を流した。


「あー……ごめんな、すっげぇ心配させて。俺は妖精の実のおかげで助かった。この通り怪我一つなく、ピンピンしてるよ」


 ヴェリタスにハンカチを渡されて、マグダリーナはありがたく受け取る。

「もう無茶なことは、しないで……」

「わかってる。無茶にならないよう、もっと鍛えるよ」


「…………」

 マグダリーナはジト目でヴェリタスをみたが、彼はカラリとした笑顔で肩を竦めてみただけだった。


「さー皆さん、後片付けも済みましたし、ショウネシーに戻りましょー」

 チャーが元気に声をかけてくる。


「チャー! あなたも無事だったのね!」

「はい〜、あの結界さえ破れれば、自動回復機能が正常に働きましたので! ささ、お家に帰ってゆっくりしましょう〜」


「エステラは?」

 ふと気になって、聞いた。せっかく会えたのに、また離れてしまったのだ。


「大丈夫なの。念の為各国に行ってもらってたニレル達と合流してから帰って来るの。ショウネシーですぐ会えるなの」

 ハラの言葉に、マグダリーナは安心して、ショウネシーへ向かった。

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