表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
223/285

223. 魔剣

「トニー?」

 呼ばれた気がして、ヴェリタスは振り返る。


 辺りは不思議な緑の靄に包まれていて、まるで水中にいるように、緑の濃淡がゆらめいている。

 気がついたらここにいて、ぼんやり彷徨い歩いていた。

 透明で輝く羽を持った、丸い小さな光が、ヴェリタスの周りを飛び交っている。


 この羽には見覚えがある。


 以前ヨナスが見せてくれた、妖精の羽だ。


「お前ら妖精?」

 それは肯定と言うより、話しかけられて嬉しいという感じで、妖精達はヴェリタスの周りをくるくる回った。


「ここどこ? 俺、なんでここに居るんだ?」

 妖精達はヴェリタスの袖を引いて、彼の歩みを急かした。


 やがて目の前に、何かに突き刺さった、一本の剣が見えてくる。


「ああ、そうだった」

 剣の刺さっているものを見て、ヴェリタスは思い出した。

「俺、刺されたのか」

 そこには、ヴェリタス自身が、魔剣に胸を貫かれ、横たわっている。

「油断したなぁ……まさかあの時点でもう動けるとは思わなかった」


 ヴェリタスは、そっともう一人の自分に刺さっている魔剣を撫でる。

「すげぇ剣だったよお前。魔法まで斬っちまうもんな」


――汝が我を振るうなら、まず何を斬る?――


 魔剣が問いかけて来た。


「え? そーだな。本当に何でも斬れるなら、とりあえずお前に刺されて死ぬって運命を斬っておくかな」


――では成してみよ――


「軽々しく言うなー」

 一応ヴェリタスはそのまま剣を抜こうとするが、びくりともしない。

 これはもうこの形で、死の運命として固定されているのだ。


 だったら。


 ヴェリタスは目を瞑り、先程の魔剣の声を思い出す。そしてその印象と、精霊を、右手に強く意識する。

 妖精達が踊り出した。


 ヴェリタスの手には、もう一本の魔剣があった。

 そして目の前の運命を、迷いなく両断した。




◇◇◇




「……さん、ルタ兄さんっ」

「トニー……」


 ヴェリタスが目を覚ますと、アンソニーは思い切り抱きついた。

「良かった……無事で本当に……感謝します女神様」


「他の……皆んなは、」

 起き上がったヴェリタスは、泣きじゃくっているナードを見て察した。


 真っ二つになったチャーは、ルシンが現れると、自己再生が始まって、元の姿に戻った。

「ルタ様ーぁ」

「チャー……再生出来たのか。良かった」

「ルタ様こそご無事で……あ、これどうぞ」


 そう言ってチャーがヴェリタスに渡したのは、見た目は変わっているものの、間違いなくヴェリタスに刺さった魔剣であるのがわかった。しっかりと鞘に収まっている。

「この鞘は……それに見た目が変わってねぇ?」

「そこは妖精の贈り物だな。随分と気に入られたもんだ」

 ルシンは己の杖をヴェリタスの魔剣に翳す。

「我、白の神官たる三番目のハイエルフが、その権能を持って願い奉る。女神よ、妖精の贈り物たる魔剣に祝福を与えたまえ」


 ヴェリタスの剣は虹と白銀の輝きに包まれ、やがてその輝きを吸い込んでいく。


「ルシン兄、ありがとな」

 ルシンは黙って頷いた。




◇◇◇




 アンソニーとグレイの報告を聞いて、ショウネシー邸のサロンでは、マグダリーナ達を救出するための緊急会議が開かれていた。

 ルシンが捉えた魔剣の元の持ち主は、現在冒険者ギルドでアーベルが情報を聞き出す為に尋問を行なっている。

 パイパーの傷は致命傷ではないが軽くもなく、こちらも治療院でイラナの治療を受けながら、事情聴取だ。治療院とはアッシで映像が繋がっていた。


 もう一箇所アッシで通信が繋がってる所では、女性の泣き声が聞こえてくる。

 王都の中央街での事件を聞きつけた、オーズリー公爵、ヴィオラだ。


『アタクシが流民の話をしなかったら、こんなことにならなかった……』

「貴女のせいでは、決してない。捉えた流民から聞き出したことによると、元々うちの子達を狙っていたようだ。それにハイエルフ達が救出を手伝ってくれる。公爵はまだお身体が本調子ではない、安心してゆっくり休んでいただきたい」

 公爵の横で、むくむく大きくなるセワスヤンを気にしながら、ダーモットがアッシの通信越しに、ヴィオラを宥める。


ぐまぁぐままー

ぶぶぶぶぅぅぅぅ


 目をぱんぱんに腫らして、未だ泣き続けているナードとヴヴを、ヒラ、ハラ、モモが宥める。

 どうやら二匹とも、従魔契約は切れていないのに、主人であるレベッカとライアンとの繋がりが途絶えて、不安で仕方ないらしい。

 タマにはそっとシンが寄り添っていた。



「聖エルフェーラ教国には、対ハイエルフの結界が張り巡らされている。教国に入る前に三人を救出する必要がある」

 真剣な眼差しのニレルに、アーベルとイラナ以外のハイエルフ達が頷く。


「とはいえ、先日のマンドラゴラの罠もある。僕らが三人の救出に気を取られている間に、シャロンやセレンが狙われることがあってはならない。ショウネシー領は決して手薄にできないから、」

「私が行く」

 当然のようにエステラが言う。

「僕も行きます! 必ず助けに来てとお姉さまに言われましたから!!」

「俺も行く!!」

 続けてアンソニーとヴェリタスが名乗りでる。


「そこは今後の作戦によって決める。エステラ、ゼラを借りていいかい?」

「いいけど、まさか教国を……?」

 更地にしちゃうの……? と瞳で問いかけるエステラに、ニレルは首を横に振った。

「それは本当にどうしようもない時の、最後の手段だ。ドミニク」


 ニレルに呼ばれたドミニクは、蕾が花開くかの様に顔を輝かせた。

「はい! 我が君!!」


「僕の命令で、命を捨てられるか?」

 ドミニクは目を見張り、それから僅かに呼吸を深くした。

「我が君が、望むなら」


「生き残るために、ベンソンに従っていたのに?」

 ドミニクは、キヒヒと笑う。

「確かに命は惜しいが、我が君が私を望むと言うなら、全て捧げよう。貴方は特別なのだ。私にとって貴方に従うことは、精霊に対する親愛であり贖罪であり、またそのどれとも違う、表現しがたい何かだ。それは生きるか死ぬかと別の天秤の皿の上にある。何なりと命じていただきたい」


 ニレルはドミニクの覚悟に頷いた。

「ではゼラと一緒に、教国へ先回りして、リーナ達が教国に入国するようなことがあれば、足止めをしてほしい。やり方は任せる。必要なものがあれば用意しよう」

「かしこまりました」


「ゼラ、ドミニクさんをよろしくね」

『うむ、ワシが付いておるから、嬢ちゃんも安心して成すべきことをするんじゃよ』

 ドミニクは早速、ゼラを連れて準備に向かった。

もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ