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222. 誘拐

「くそっ」

 ヴェリタスは魔剣の男の攻撃を交わしながら、なるべく距離を取る。


「ふん、ハイエルフの手助けを待っても無駄だぞ。この結界は聖エルフェーラ教国と同じ、ハイエルフが入れない結界になってるからな」

 魔剣の男は自身の勝利を確信しながら、ヴェリタスの心を折ろうとする。


「そーかよ」

 手持ちの剣をバラバラに斬られ、ヴェリタスは風魔法をぶつけた。

 男の魔剣はそれすら、斬って捨てた。


「魔法も斬るのか……」

 チラリとレベッカを見る。レベッカは、ただ無心に結界に拳をぶつけていた。


 グレイとアンソニーは火蛇を倒したものの、更に三体魔獣を召喚されて、手が離せない。

 マグダリーナに魔狼が襲いかかるのを、アンソニーが氷魔法で仕留めた。

「お姉さま、ライアン兄さんの傷を、早く!」

「分かったわ!」


 マグダリーナが再びライアンに向かって走り出した時、流民の幌馬車から声がした。

「準備できたぞ!」


 魔剣の男にできた、一瞬の隙を逃さず、ライアンは風魔法と身体強化で、一気に距離を詰める。


「うぉおおおおお!!!!」

 ライアンは男の喉を狙って切りつけたが、ギリギリでかわされ、浅い傷しか付けられなかった。


(待って! ライアン兄さん動かないで!!!)


 ライアンの素早い動きで戦闘に入られては、マグダリーナは追いつけないし、回復魔法もかけれない。今度から動いてる相手に回復魔法をかける方法を習わないと……


 マグダリーナは回復薬を取り出した。

「エア、お願い。これをライアン兄さんにかけて!」

『わかったぴゅん!』


 エアは素早くライアンに向かって飛ぶ。


 だが魔剣の男は、エアをも真っ二つに斬った。


 青い小鳥は光の粒になって消え、回復薬は虚しく地面に落ちて溢れた。


「エア――――!!!!」

 マグダリーナは叫んだ。男はライアンを殴って気絶させる。


 その時、ヴェリタスが動いた。


 素早く男の懐に入り、その手を翳す。


「我創世の女神に願い奉る。我と我が仲間に剣を向けるこの男が、二度と魔法が使えぬように!!」


 青白い魔法の輝きが、魔剣の男を包む。

「ぐあぁぁぁ!!!! く……くそ……」

 男は最後の悪あがきに、魔剣をヴェリタスの胸に突き立てた。


 そして。


 ヴェリタスは、マグダリーナの目の前で、ゆっくりと仰向けに倒れた。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 マグダリーナの叫びに、レベッカが渾身の魔力を込めて、結界を殴り付けた。

 ピシリと糸くずのような小さな綻びが出来る。そこから、小さな小精霊達が、涙のように流れ込んできた。


 踊り子達は素早く幌馬車へと乗り込んでいく。


 魔獣を討伐し終わったグレイとアンソニーも駆けてくる。


「パイパー、どれが聖属性の娘だ?」

 ヴェリタスに魔法を封じられた男は、よろめきながらも立ち上がる。

 もう一人の男がやってきて、ライアンを抱えた。


「やめて! 私の子を連れてかないで!!」

 パイパーは男をつき飛ばす。

「どうした、パイパー。お前の子だ。お前と一緒に行くんだろう」

 突き飛ばされた男は訳がわからないという顔をしている。


 流れ込む小精霊たちがマグダリーナに教えてくれた。彼が来る。怒りを纏って。


 その時、流民の幌馬車が光り出した。


(――あれは、まさか。転移魔法の光……?!)


「くっ……抜けん」

 魔剣の男が、ヴェリタスの胸から剣を抜き取ろうとするが、びくともしない。

 そして、か細い結界の綻びから、白光の槍が降り注ぎ、男を貫いた。


「やばい! おい、こいつの命が惜しかったら、妹の方も来るんだ! 直ぐにだ!」

 突き飛ばされた方の男が、ライアンの首に短剣を当てる。

 レベッカの肩が揺れる。


「ダメよ! 来ちゃダメ! お願い、ライアンを離して!!」

 パイパーが叫ぶ。

 男の目の色が、すっと冷えたものに変わり、男の短剣がパイパーの身体に吸い込まれた。

「裏切り者め……」

 パイパーは倒れた。そこに、じわりと赤い水たまりが出来ていく。


 男はそのまま、気と血の気を失った、青白い顔のライアンを抱えて幌馬車へ向かう。


「お兄様!!!」

 レベッカは、とうとう走り出した。


ぷーくまっぷー


 ナードも後を追うが、レベッカはそれを許さなかった。


「ついて来ちゃダメよナード! 来たら絶交なんだから!!!」

 従魔であるナードは、主の命令に逆らえない。ぽろぽろ涙を流して、くまーくまーと鳴いた。


 マグダリーナは、遠くなる二人を見て、どうしようもなく胸が苦しくなった。クレメンティーンが夢で言ってた事を思い出す。


 ――貴女の兄と妹を教国に取られてはいけない――


 アンソニーは幌馬車に向けて魔法を放ったが、どれも幌馬車を包む光に弾き飛ばされてしまう。

「そんな……」


「トニー、タマとヴヴをお願い」

「お姉さま?!」

 マグダリーナはアンソニーにタマとヴヴを渡すと、レベッカの後を追った。


「お姉さま……!!!」

「あとはお願い! 必ず助けに来て!!!」


 マグダリーナは走った。マグダリーナに気づいたレベッカが驚いた顔をする。


「ライアン兄さんの妹は、私達二人よ!!」

 そうやって幌馬車に乗り込んだ瞬間、幌馬車はアンソニーとグレイの目の前からかききえた。




◇◇◇




「……間に合わなかったか」

 結界の隙間を無理矢理広げてやって来たのは、ルシンだった。

 一緒に来たマゴーが、倒れている男とパイパーに、ほどほどの治療をしながら、捕縛する。


「……ルシン兄様」

 ルシンは、アンソニーの涙をそっと拭った。

「準備が……準備が必要です。お姉さま達とお兄さまを助けに行くための……僕に力を貸して下さい」

 ルシンは頷いた。


「アンソニー様、ヴェリタス様が……!!」

 胸を刺されているのに、出血の無いヴェリタスを、不思議に思って調べていたグレイが声をかける。


「妖精の実……!!」

 アンソニーは、ヴェリタスの胸元でキラキラ光っている木屑のようなものを見て、瞳を輝かせた。


 生きている。彼はまだ生きている。


 アンソニーはそっとヴェリタスの手を握った。

「起きて……! ルタ兄さん!!」

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