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217. 星惹の行進

 エステラに改造魔法を施された、マンドラゴラ達は、その身に光る帯をたなびかせながら、空へと舞い上がる。さながら、天女のように。

 そして、その実は丸く、短い手には星の形をした尖晶石の魔剣を持っていた。


「ん、これだと地面の整備は必要なさそうかな」

 マンドラゴラ達が土から出た後に、自ら土魔法を使い、穴をキレイにしたのを見て、エステラは満足気に頷いた。


「ちょっとイイカイ? なんで武器を持ってるんだ?」

 エデンはこちらに向かってくる、元マンドラゴラ達を見た。


「あの子達が、なんかそういうのが欲しいって云ってたので。攻撃はしてこないから大丈夫。ひとまず素材用はヒラの魔法収納に入っちゃって! 蕪らを育ててくれる子はショウネシー領へ。王都の工房の畑にも向かってもらえるかな? 希望者はうちの島に行っても大丈夫よ。あ、ハラはエイモスさんにもう大丈夫だって伝えて来てくれる?」

「わかったの!」


 エステラの言う事はよく聞くようで、改造マンドラゴラ達は軍隊のように規則正しい動きで、王都とショウネシー領へ向かって飛び立った。

 尖晶石の魔剣が煌めき、その様子は、朝に見えるはずのない、流星雨のようだった。


「…………」

 改造マンドラゴラを鑑定したニレルは、もう慣れた様子で、その内容に口を噤んだ。


(《マンドラゴン》美味しい蕪らを育てるマンドラゴラ派生竜種とあるけど……マンドラゴラの矜持も尊重して、そういう方向に行ったのか……)


 どうやらマンドラゴラ的に、野菜のように気軽な食材にされるのは許せなかったらしい。しかしここぞとばかりに竜種に変化しようとは、野心家な株達だ。


 エデンも鑑定をして、呆然としている。

「竜だって?! この丸い、とぼけた顔の奴らが……? マンドラゴンって……元のマンドラゴラの方が余程人に似た形だろう?」

「まあでも、色んな属性の魔法も使えるみたいだし、結果的に美味しい蕪らが食べられるなら、私はそれでいいかな」


 暢気なエステラの言葉に、大人二人は顔を見合わせる。


 ところがこの大量のマンドラゴン……その殆どがショウネシー領の、成長中のダンジョンに自ら吸い込まれていってしまったのだ。そしてダンジョンのはずのものは、みるみる大きく育ち、塔のような巨大な鉱物の結晶として聳え立っていた。


「私……ダンジョンって見たことないけど、こんな感じなの?!」


 エステラは長年冒険者をやっていた、ニレルを見る。ニレルはゆっくり首を横に振った。

 残ったマンドラゴン達は、一体だけエステラの腕にしがみつくと、後は残らずショウネシー量の農耕地へと、移動して行った。


「こんなのは初めて見る。他のダンジョンとは明らかに魔力の質が違う……」

 ニレルはダンジョンの近くに降り立ち、入り口がないか確認する。ついて行こうとするエステラを、危ないからとエデンが引き止めた。

 エステラが改造した魔獣が吸われたと言う事は、エステラの魔力も吸われる可能性があるかも知れない……


 ニレルは軽くため息を吐きながら、飛行してエステラの元に戻る。

「まだ入り口が見当たらない。このダンジョンは、まだ熟してないようだ……ギルギス国の多くのダンジョンや他の国のダンジョンも、洞窟のような入り口から地下へ降りて行くのが定番だけど、これは塔のように上がって行くものになりそうだね……それにとても精素が濃い。まるで神域みたいだ」


「女神様のダンジョン……」

 ぽつりとエステラが呟いた。

「なんだかそんな気がする……早く中に入ってみたいなぁ」


 ニレルは先に釘をさしておく。

「単独はダメだよ。ダンジョンに行く時は、必ず僕とパーティーを組むんだ。約束して?」

 エステラは素直に頷いた。

「流石に全く知らないダンジョンに、無防備に入ったりしないわ。初回はちゃんとニレルと一緒に行く」

「初回以降もだよ。僕を仲間外れにしちゃ駄目だよ」

 ニレルはエステラの髪を、指でそっと漉いた。


 エデンは元々、ダンジョンには然程興味はない。自分にとっての宝は、ダンジョンの外にしかないのだから。

 だがこれがショウネシーを潤す道具になるなら、使い勝手を良くする手伝いくらいはしてもいい。

「まあこのままクマゴー達に監視させておこう。ダンジョンの危険度によって、この周囲をどうするかも決めていかなくちゃならんからな。それより早く帰って、お赤飯とちらし寿司とやらを食べさせて貰いたいね。できればお酒と一緒に! んはははは!」


「まあエデンは変な酔い方しないから、まだ良いんだけど……」

 料理用にこっそり作っている、お米の清酒……所謂日本酒を解放するかどうか、エステラは悩んだ。




◇◇◇




「いぃぃああぁぁぁあぁ!!!!!」

 流民の幌馬車の中で、座長の老婆が血を流して叫んだ。

 厳つかった身体つきが、細身の老婆に変わり、その白い髪には、僅かに緑がかった水色の筋が混ざっている。


「婆様! なんだこれは!!」

 手妻師の男は、痛みに暴れる老婆を押さえ、血の出所を確認する。

 老婆の額から顔半分、まるで炎にでも炙られたかのように、溶け崩れている。そのまま身体にも傷は広がっていく。


「ぐぅぅぅ……っ!!」

 老婆は渾身の力を込めて、近くにいた若い踊り子の腕を掴んだ。

 踊り子は本能的な恐怖で、激しく身を捩らせ逃げようとするが、老婆の詠唱の方がはやかった。


「我が身の代わりとなり、果てよ!!」


 若い踊り子は、濁った紫黒の炎に包まれて、あっという間に絶命した。末期の悲鳴だけを残して、ぐずぐずに崩れてやがて骨をも残さず灰になる。だがそこに確かに死があったと主張するように、異臭が漂う。


「ぼさっとせずに、さっさと空気をいれかえな! あとお前は魔獣馬を手に入れてくるんだ。アタシを乗せて教国へ戻るんだよ!」

 手妻師の男は、一瞬何を言われてるのか理解できなかったが、顔を上げた老婆を見て素早く馬を探しに馬車を降りる。

 老婆の顔は出血こそ止まったものの、酷い傷で一刻も早く教国での治療が必要だと思われた。


 老婆は女達にクッションを重ねさせて、そこに横たわる。

「これが……あのお方の……大精霊様の恐れる、ハイエルフの力……」


 踊り子の衣裳を着た、黒髪の女性が老婆にポーションを渡す。その瞳には、気遣いの感情も何も浮かんでいない。歳も若くはない。だが踊り子の中で一番「踊れる」ことが、その身のこなしでわかる。


「その状態で、姿変えの魔法に耐えられるの?」

「耐えてみせるとも……」

 黒髪の女性はもう一本、老婆にポーションを渡す。老婆は震える手付きでそれを飲み干す。

「馬で教国まで移動するのも、かなり負担になるはずよ」

「途中の教会で治療を受けながら行くよ。姿変えはこの国を出るまででいい……」

「わかったわ。とりあえず休んで」

 老婆はふ、と笑みを浮かべる。


「お前は本当に良い娘に育ったよ、パイパー。あれだけ手を……魔力を尽くして、最高の呪いに仕立て上げたのに、何一つ成し遂げなかったクレメンティーンより、ずっとね……アタシの血を分けた娘だったのに、あんな役立たずになるなんて……」

「婆様、今喋ると身体に良くないわ」

 老婆はパイパーの手首を、力強く握る。

「お前に魔法の技と夫を与えたのはアタシだ。その恩を忘れちゃいけないよ。お前はこれから、息子と娘を迎えに行って、一緒に教国で幸せに暮らすんだ。必ず、子供達を連れて帰るんだよ」


 ギリギリと老婆はパイパーの手首を締め上げる。パイパーが頷くのを見て、老婆はようやく手を離すと、眠りについた。

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