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215. バンクロフト領占領される

「危機?」

 マグダリーナはエステラに聞き返した。


 エステラはクマゴーを呼び出すと、直ぐに上空からバンクロフト領を調べるよう命じた。


「何があったんだい?」

 様子がおかしいことに気づき、ニレル達も休暇所にやってくる。


「小豆を買いにエイモスさんの所に行ったのよ……」


 エイモスはバンクロフト領の豆商人で、ディオンヌ商会のお得意様でもある。

 いつもは日の出る前から王都へ馬車を飛ばして、何日もかけて王都へ豆を売りに行っている事が多い。今日はたまたま領地にいて、この早朝から在庫整理をしていた。


 豆は果実では無いが、木に成る。

 それすなわち、貴族も食す。


 バンクロフトでは、大豆以外にも様々な豆を栽培しており、わざわざ小豆を買いにきたエステラに、もちろんエイモスは興味を持った。


 そして倉庫の外で豆に付いて話しはじめると、ふいに空からパラパラと何かが降ってくる……

 確認しようとした途端、あろうことか鳥のフンがエステラの頭に落ちてきたのだ。


 慌ててエステラが浄化と、ととのえるの魔法で綺麗にすると……まるでそれが導火線だったかのように。


 ―――― 一面にマンドラゴラが生えた。



「してやられたわ……どうやら先に降ってきたのが術具で、近くで魔法を使えば発動する仕組みだったのよ……しかも発動者の魔力量で範囲が変わる……」


「……つまり?」

 マグダリーナは嫌な予感がした。


「バンクロフト領が、マンドラゴラに占領されました」

 エステラは恥ずかしそうに、赤くなった顔を押さえて言った。


「そうか……」

 ニレルは安堵の息を落とした。


「バンクロフト領で済んで良かったよ。ショウネシー領の結界が無かったら、王国中マンドラゴラに占領されてたかな」


 ズシャァっと、エステラはその場で崩れ落ちた。


「……と、とりあえず、エイモスさんには危険だから、何とかするまで領民達には外に出ないように伝えて欲しいってお願いしてあるの。そう云うわけで、私はちょっともう一度バンクロフト領に行って来るから、ニレルはこれで……」


 エステラはヨロヨロとニレルの手に、小豆の入った袋を乗せた。


「お赤飯と、ちらし寿司の準備をお願い……」


 ニレルは首を横に振った。

「両方とも僕は食べた事がないから、エステラかマゴーじゃないと無理だよ。それに、そんな大量のマンドラゴラにどう対処するつもりなんだい?」


 バンクロフト領も広い。数十株なんて単位じゃお話しにならない量だろう。きっと何十……いや何千万株かもしれない。

 マグダリーナはそれを、ちまちま活け締めしていく所を想像して、途方も無さに絶句した。


 きっとエステラもそうだろう。思いっきり顔に「めんどくさい」と書いてある。


「いっそ、そのまま全部マゴーになってくれれば、楽なのにね」

 マグダリーナは、脳内のちまちました労働を、仮想団扇で仰ぎ散らしながら、都合の良い願望を漏らす。


 エステラは目を見開いて、マグダリーナを見た。

「それだわ! その手があったわ!! ありがとうリーナ」


「え? え? 本当にマゴーにするの?!」


 エステラは慈母のような清らかな微笑みを見せた。


「マンドラゴラといえど魔獣は魔獣、それなら、私の改造魔法が通じるはずよ。一株残らず品種改造してやるわ」


 エステラは杖を取り出して、やる気に満ちた眼差しで、顔を上げた。


 ニレルも杖を取り出す。

 以前使っていた純白の杖ではなく、黒と金の杖だ。


「僕も一緒に行こう。品種改造したところで、土から出して収穫しなくちゃいけないのは変わらないだろう?」

「昼前までに、さっさと終わらせるとしよう。んっはははは」

 朝練でレベッカに稽古をつけていたエデンも、上機嫌に漆黒の杖を取り出した。


 まあこの三人で対応するなら、大丈夫だろう。マグダリーナは気持ちを楽にした。


 エステラの従魔達もエステラの周りに集まって、一緒に転移魔法で移動する気でいた。その中に、一匹、大福か肉まんのような白いスライムが混じっている。その影に、黄身餡のような色のスライムもいた。


 マグダリーナとアンソニーは、慌てて自分のスライムを回収する。


「えー、タマもマンドラゴラの大繁殖見たいー」

「タマはひ弱だからダメよ。せめてシンくらい丈夫になってからじゃないと。それにタマが見て、どうなるものでもないでしょう?」


 タマは大きさこそ普通のスライムの大きさになったが、人の赤ん坊並みの頑丈さしかなかった。

 風に吹かれて飛んでいる、野生のスライムよりはマシだけど。


 マグダリーナとしては、なるべく自分の魔導具の防御魔法の範囲内にいて欲しい。


「シンもーう。シンも、ヒラとハラとモモと一緒に行くにょ」

 アンソニーに捕獲されて、黄身色スライムのシンもぷるぷるしている。こちらはベビーから立派なスライムに成長したが、まだまだ幼く、先輩スライム達に遊んで欲しい盛りだ。


「シンが行っちゃったら、僕さみしいよ?」

「トニー、行かないにょ?」

 シンがきょとんとして聞いた。

 アンソニーは頷いた。

 シンはにゅっと手を出して、アンソニーの指を握った。


「シン、トニーと一緒にいるにょ」


 アンソニーは笑顔になって、そっとシンに頬ずりした。


 エステラ達三人以外は、皆一旦解散だ。

 直ぐに役所に向かおうとしたハンフリーを、フェリックスが止めた。


「いけません、ハンフリー様。まずはお着替えをなさって、お食事をして、いつも通り準備を整えて下さい。貴方が動く時は、領内に異常が現れた時です。それまでは落ち着いて下さい」

 フェリックスはすっかりハンフリーの従者が板についてきた。しかも、仕事が出来る男だ。


 全員フェリックスの言葉に頷くので、ハンフリーは従うしかなかった。


 何か気になることがあったのか、朝練メンバーにいたセレンが、ハイエルフ三人に近づく。

 エデンの顔を見て逡巡し、ニレルに話しかけた。


「先程のお話、教国に与する流民の中に、鳥を操る術を仕掛ける者がいると聞いた事があります。何卒お気を付けてください」

「承知した。ならば貴方もショウネシー領から出ず、しっかりルシンの側に居るように」

 セレンは頷いた。

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