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213. ヴヴ

 因みにライアンのカーバンクルにも女神の精石を与えたが、額の石に吸い込まれただけで、鑑定して見ても、なんの変化もなかった。


「カーバンクルは、気に入った人の側にただ居るだけで、本当に何にも役に立たない稀少で可愛いだけの魔獣なの。従魔としての便利さを求めずに、ただの愛玩動物だと思って」


 ライアンが成り行きでカーバンクルを従魔にする時、エステラがそう注意したが、本当にその通りすぎる。


「せっかくだから、この機会に名前でも付けてあげればどう?」

 マグダリーナはそう提案した。

「名前……」

 ライアンはジッとカーバンクルを見つめた。カーバンクルは、ぶっぶっと鳴きながら、期待に満ちた眼差しでライアンを見た。


「じゃあ、ヴヴ、にする」

 ヴヴと名付けられて、カーバンクルは目を細めてぶぶっと鳴いた。そしてライアンの頭の上で、自分の頭を擦りつけている。


「そんなに嬉しいのか……もっと早く名付けてやればよかった……」

 ライアンはヴヴを、優しく撫でた。

 それからレベッカの頭も撫でて、そっと女神の精石を、レベッカの額に付ける。

 女神の精石は、レベッカの額から落ちることなく煌いていた。


「似合ってるよ、レベッカ」

「ライアンお兄様……お兄様も女神様の精石を付けてみましょう?」


 ライアンはそっとレベッカから目を逸らした。

「俺は……俺にはそんな資格……」


 ライアンの頭の上で、ヴヴが助けを求めるように、マグダリーナを見ていた。


 多分、この役目はライアンと同じ立場のレベッカでは駄目なのだろう。


 マグダリーナは緊張しながら、ライアンに近づき、赤毛の前髪を掻き上げると、問答無用で女神の精石をライアンの額に押し当てた。

「資格とかそんなこと、判断なさるのは女神様であって、ライアン兄さんじゃないわ。ライアン兄さんとレベッカは、女神様がショウネシーに連れて来てくれたんだもの、もうショウネシーのものなの!」

「リーナ……」


 マグダリーナがライアンの額から手を離すと、女神の精石は落ちることなく輝いている。


「ほら、女神様もそうおっしゃってるわ!」


 自信満々に宣言したマグダリーナの横を、青い影が通り過ぎた。

 ヴェリタスがライアンを抱きしめる。負けじとレベッカもライアンに抱きついた。


「もう! なんでライアン兄さんそんなにモテモテなの?!」


 ヴェリタスとレベッカを抱え、ライアンの表情は複雑に揺れた。


「胴に身体強化して下さい。僕も混ざります!」


 どすっと音がして、アンソニーがライアンの真正面に飛び込んだ。先程、ニレルにエステラが抱きついていた位置だ。


 そうなるともう、ライアンは吹っ切れた顔をして、マグダリーナを見た。チャーミングなタレ目で。


「リーナも来る?」

「無理!!!!」

 いくら家族として認めていても、乙女としては遠慮する。それはもう恥ずかし過ぎる。

 ――モテモテの兄さんに、抱っこしてもらいました――

 脳内で文字に起こすと、センスのカケラもなさすぎて、恥ずかしさしかない字面だ。ダメダメすぎる。


 でもここで酷く拒否ったら、やっぱり傷つくだろう……乙女の範囲……乙女の範囲なら……


 マグダリーナはそっとライアンの背後に回って、その背中に自分の背中をちょこんと預けた。




◇◇◇




 その夜、マグダリーナは夢の中で、亡き母と一緒に窓の星を眺めていた。

 背中に母の手のぬくもりを感じながら。


 この夢は普通の夢じゃない……


 何度か経験した、何か大切なことを訴える夢だ。しかし母クレメンティーンは、黙ったままだし、声をかけないと。


「お母さま……」

 マグダリーナは恐る恐る声をかけてみた。美しいクレメンティーンの顔が愛おしげにマグダリーナを見つめる。


「アンソニーの寝顔を見て来たわ。大きくなって……リーナ、貴女も素敵な淑女に育ってくれたわ……私は両親の愛情を知らなかった……だからこんな悪い女になったのだと……私は誰の道具にもされない子を産んで、愛情で育つところが見たかった……それが何一つ叶う事ない人生を決められた、私のただ一つの抗い。子供達に充分な愛情をかける寿命も持たずに、家門が衰える事を知った上での、私の無責任で残酷な我儘……やっぱり私は悪女以外の何者にもなれなかった……だから当然、あなた達を産んだ事を後悔してないし、こうやって見守れることが嬉しいの……お父さまの……ダーモット様のおかげね」


 そこは素直に頷いて良いものなのだろうか? お父さま何もしてなくない? あ、子種は撒きましたね。


 久しぶりにマグダリーナのダーモットに対するダメダメ評価が上がった。

 しかし、不思議と嫌いではないのだ……あの暢気な人柄の所為だろう。


「リーナ」

 クレメンティーンは真剣な眼差しで、マグダリーナを見た。

「あの子を助けてあげて。彼はもう一人の私……貴女の兄と妹を、教国に取られてはいけない……そしてダーモット様に伝えて。やがて星の雫が、貴方を私の呪いから解き放ち、自由にしてくれると……」

 クレメンティーンの姿が薄らいでゆく。


「待ってお母さま! ライアンとレベッカに何か起きるの?! お父さまの呪いって……」


 当然、返事を得られないまま、マグダリーナは朝を迎えた。

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