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211. 迎えの鳥

 レピ通貨の流通が始まって、約半年。マグダリーナ達は中等部ニ年になっていた。


 飛び級しているマグダリーナとレベッカは十二歳になる。そしてアンソニーも学園に入学、同じく飛び級して初等部二年になっていた。


 ヴィヴィアン公爵令嬢が、マゴマゴ放送で「学園がお休みの日はショウネシー領のお家で、自由な一人暮らしを堪能してますわぁ」と、フリルのエプロンでお鍋を持ち、よく味の沁みたお鍋の中のオデンの具を説明しながらおっしゃったので、領民の女性人口比率も増えて来た。


 代わりにジョゼフの夫人とお子さんが、ジョゼフのいるエルロンド領へ行ってしまった。


 エルロンド領の女性人口を徐々に増やして行こうという試みの一環であり、新たに侍女等女性使用人を募集してエルロンド領に旅立つ。

 小さな子が居なくなるのは寂しかったが、ショウネシー領ではシャロンのお腹も目立つようになり、領民もハイエルフも皆楽しみにそわそわしていた。


 今までフィスフィア王国の貿易船を受け入れていたシーグローブ領の港街は、貿易場所がエルロンド領に切り替わったこともあり、国防も考慮して港を完全閉鎖した。

 そして早速ディオンヌ銀行から融資を受け、どこよりもはやく、ディオンヌ商会にショウネシー領並の道路や上下水等の整備を依頼した。更にエルロンド領への転移門を設置依頼して、エルロンド領と協力して観光業をはじめた。

 国内の貴族がこぞってエルロンド領の緑の都でうどんを食べ、浴衣や着物を買って帰るようになったので、エルロンドでは貴族用にディオンヌ商会の絹を使った、手描きの高級着物を扱うようにもなった。


 リーン王国は今、様々な変化の時を迎えていた。




◇◇◇




 辺境伯領に流民の幌馬車がやって来る。


 現状リーン王国の唯一の、入出国場所となったそこは、入国の審査が厳しくなっていた。


「旅券は?」

「アタシら流れの民にそんなものは無いよ。入国料と入領税、合わせていくらだい? 多めに払うのは何処の国に行っても一緒さ。エルで支払っても構わないんだろう?」

 目に力のある厳つい老婆が、門番と交渉する。

 流民の中でも、音楽や踊りを見せてお金を稼ぐ一団のようで、馬車の中から楽器の音が聞こえる。


「今は祭りの時期でもないのに、なんの為にこの国に来たんだ?」

「普通にこの国の様子見に決まってらぁ。アタシら方々の国を巡ってその話しをするのが商売なんだからさ。噂の神殿、新貨幣とやら……今なら色々変わったこの国の様子を、他の国で語るだけで、いつもより大きな儲けになるってもんだ。ところで噂の中心の『ショウネシー』ってどこら辺なんだい?」

 門番はやれやれと首を振る。

「ショウネシー領はこの国の一番端側になる。そのボロい幌馬車だと、途中で修理が必要になるぞ。まあいい、一応荷を改めさせて貰う。それからそっちの詰所で料金を払って、全員の似顔絵を描いてから入国だ」

「おやまあ、面倒なこったよ」


 老婆は文句を言いながらも、馬車の中に声をかけて、一座の者たちに詰所へ行くように指示をした。

 門番は流民の馬車の幌に開いた穴を、なんとなく数える。十一箇所も穴の開いた、古い幌だった。


 流民の一座は入国すると、まず辺境伯領の都で芸を披露して日銭を稼ぐ。

 歌と踊りの他にも手妻を披露する。

 手妻師の男が、踊り子の袖から出した白い鳥が、青い空を高く舞い上がって行った……




◇◇◇



「うーん、ハラとヒラは普通のスライムよりちょっと大きいですよね。シンは今の大きさで限界なのかなぁ」


 コッコ(オス)の上に載っている、ハラとヒラ、モモ、シン、タマを見比べて、アンソニーは首を傾げた。


 アンソニーはショウネシー邸の自分が従魔にしているコッコ達と、その群れのメンバーと、コッコ小屋にととのえるの魔法をかけてお手入れしていた。


 コッコの群れに一緒にいる、更生妖精熊達が、ととのえるの魔法を覚えてしまったので、ショウネシーのコッコカトリス達は手がかからず、いつも綺麗な状態だ。

 それでも従魔になったコッコ達は、やはり主に魔法をかけてもらったり、絹布を巻いた海綿で磨かれたりと手入れをしてもらうと嬉しい。だからアンソニーは、大切に手をかけていた。


「てり艶は良いのに、何が足りないんだろう?」


「そうね、後は進化かな。ハラとヒラはディンギルスライムまで進化してるし、進化していくと、徐々に普段の大きさも変わっていくみたいだから」


 エステラもアンソニーの隣で、絹布と海綿を使って、仔竜姿のゼラを磨き上げている。


 スライムベビーだったシンは、アンソニーの手厚い育児のお陰で、かわいくて強くて丈夫なスライムに育っていた。魔法も覚えて、アンソニーの頼もしい相棒になっている。今もコッコ(オス)の上でご機嫌に、りーんりーんぷるぷるすーんとお歌を歌う。


 マグダリーナとレベッカは日除けとテーブルセットを設置して、お茶をしながらスライムぷるぷるすーん輪唱を鑑賞していた。先にお手入れの終わったササミ(メス)もテーブルセットの下で、心地よくなってしまったのか健やかに眠っていた。

 ライアンとヴェリタスは、二人でウイングボードで走りに出てしまっている。チャーで海岸まで転移し、美しい海上を飛行するのが二人のブームらしい。


「リーナ、タマはいつ進化出来るー?」

「え? わからないわ。タマちゃん次第じゃないの?」


 突然そんな無垢な瞳で、そんなこと聞かれても困る。


「ハラとヒラの額の小さな宝石は、ディンギルに進化すると出来るものですの? ササミにもありますものね。ということは、モモちゃんもなんですの?」


 レベッカの疑問に、エステラとマグダリーナ、アンソニーは、重大なことに気づいた。


「そうだった、あれは二人がショウネシーに来る前だったわ」


 エステラが、女神の小さな精石の入った袋を取り出し、レベッカに四粒渡す。


「これは二人がショウネシーに来る前に頂いた、女神様の神力が結晶化した精石なの。ライアンと分けて」

「女神様の……!! ありがとうございますエステラお姉様! ということは、ハラ達の額にあるのは……」


 エステラは頷く。


「額に定着するかどうかは個人差があるけど、持っていると女神様と繋がりが強くなるわ。ナードに試してみて」


 レベッカは早速ナードの額に精石を付けた。


くまぁ!


 精石は額からぽとりと落ち、柔らかな熊毛の上を転がり、お腹……おそらくおへそであろう位置にくっ付いた。

 そして、青白いテイムの輝きに似た光に包まれた。


「……そこ?」

 マグダリーナは呆然として、一応ナードを鑑定する。


「更生妖精熊から『レベッカの為に頑張る更生妖精熊』って変化して鑑定にでるわ?! しかも注釈で、『女神の精石は額にあるとレベッカに撫でて貰ったり頬擦りして貰うのに邪魔な為、お腹にした』って……」


 ナードどんだけレベッカに愛されたいの?!

 レベッカが将来無事にお嫁に行けるか、マグダリーナは本気で心配になってきた。


「ナード……っ!!」

 レベッカは感激して、早速ナードを頬擦りしている。当然、ナードは、蜂蜜を食べている時のような、蕩けそうな顔をしていた。

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