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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック
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210. 秘密

「昨日は皆んなに心配かけて、ごめんなさい」


 ショウネシー一家もアスティン一家も、ハイエルフ達と一緒に、エリック王子の成人祝いの翌日も、エステラの金と星の魔法工房にいた。ついでにヴィヴィアン公爵令嬢も。


 マグダリーナがレピ説明会から帰ってきて、ようやくエステラも部屋から出て来た。


 珍しくヒラだけじゃなく、ハラまでエステラの首元に密着して、甘えん坊モードだった。

 モモはヒラにくっついて、団子になってエステラにくっついている。


「大丈夫、なのか? エステラ……」

 ヴェリタスが心配そうに聞いた。


「うん、気持ちの整理はつけた」

 エステラが、サロンのソファに座る。

 すかさずササミ(メス)がエステラの膝の上に乗り、ゼラがその上に乗った。


 アンソニーが魔法で紅茶を淹れて、エステラの前に置く。


「美味しい……トニー随分魔法の速度も速くなったわ」

 エステラはカップの中を見つめて、微かに笑んだ。


「ニレルともちゃんと話し合ったの。もう決まってることなら、後悔しないようやりたいことやって、その時のための準備も進めようって。だから今ニレルは、2号のところで修行してる。2号を全部回収しないと、まずスタート地点に立てないもの」


 エステラはもう一口、紅茶を飲み込む。


「そしてニレルが神になったら、私が真っ先にその名を貰うわ。エステラちゃんは、創世の女神と新しい神の二柱の名を持つ、最高に可愛くて、最高のつよつよ魔法使いになるのです!」


 エステラは高らかに宣言した。


 その様子に、皆安心する。

 マグダリーナも安心してエステラの隣に座り、レピ説明会が無事終わったことを話す。


 ヴェリタスは、ため息を吐いた。

 それに気づいたライアンが声をかける。

「どうした?」

「んー……ドミニク叔父上のこと思い出してさ」

「ドミニクさん?」


「あの人言ってたじゃん、ニレルのこと、『精霊の王か、新たな神のよう』ってさ。なんか意外とわかってる感じなのが悔しいっつーか……あの人に敵わないのは、絶対嫌っつーか……」

「じゃあ、はやく追い越せるようにならないとな」

 ライアンは笑ってヴェリタスを小突いた。




◇◇◇




 その夜も工房に泊まる。そして朝食後に学園に行く者、ショウネシー領に帰るもの……それぞれ解散となる。


 とうとうレベッカは、念願のエルフェーラ様が使用していた部屋でお泊りすることができた。


 マグダリーナはエステラと同じ部屋で、二人並んで眠った。


 ふとマグダリーナは、眩しさを感じて目を覚ました。

 視界に不思議な白金と虹色の輝きが目に入る。


 エステラの隣に、白金と虹色の輝く何かがいた。


 恐怖はない。不思議とあたたかさや安らぎが満ちる輝きだ。

 その輝きは、エステラに覆い被さるように移動し、まるで優しく抱きしめるかのように、エステラに重なった。


 そうして、星の瞬きのような光が辺りを満たす……


(まさか……創世の女神様……!?)


 やがて光はエステラの中に吸い込まれるようにして収まった。


「……なに、今の」

「しっ」

 マグダリーナは背後から伸びた手に、突然口を塞がれた。

 視界に入る褐色の手に、犯人は分かったが、なぜ乙女の寝室にいる貴様。


 転移魔法で庭園に連れ出され、早速マグダリーナは抗議した。

「ルシン! いつから寝所にいたの?!」

「女神の気配がしたから、様子を見にきただけだ」


「女神の……それじゃあやっぱりあの光は女神様だったのね……エステラにいったい、何を」


「心配要らない……人の子供は幼い内は病気に罹りやすい。そうだな?」

「え? ええ」

 ルシンが何を言いたいのかわからないが、マグダリーナは聞かれたことには返事しておく。


「ハイエルフは肉体が安定するまで百年はかかる。様子を見るついでに、神力で強化していったんだ」

「……えーと、それって、エステラはかなり女神様に特別扱いされてない?」


 確か以前、ルシンは言ったのだ。ニレルと始まりのハイエルフとハイドラゴンだけが女神の特別で、他はバンクロフト領の豆袋の中の豆と等しいと。


 そしてエステラは、その豆の一粒だったと。


「これは俺とマグダリーナとの秘密だが」

「また、秘密が増えるの?!」


「安心しろ。今度の秘密は、絶対に本人に喋れないような仕様になってる」

「嫌な予感しかしないわ……」

「では、聞かないか?」


 マグダリーナは首を横に振った。

「エステラに関わる事なら、知らなくちゃ……」


 ルシンは星空を眺めた。


「ニレルが初めてハイエルフを造ろうとした時、女神は喜んだ。それは間違いなく、神の力の顕れだったからだ。だから、そのハイエルフに宿る魂として、女神は自身の一部を与えた」

「――――は?」

「一部といっても、人からしたら髪一本……いや、まつ毛が一本抜けた程のようなもんだ。目の前から消えたら、忘れる」


 マグダリーナは言葉が出なかった。


 待って、つまり。


 ニレルが完成直前に殺したハイエルフの魂は女神の一部で。

 おそらくその時、もしくはその後のウシュ帝国滅亡時に……その魂は異世界に行き、女神もその存在を忘れてたってこと?!


「だが数千年経ち、女神の一部は異世界を経て豆袋に戻って来た。無論女神は豆の事など、いちいち気にしない。だが豆の方は、袋に差し入れられた女神の手を見て、自分の還る所だと確信して飛びついた。無論女神は豆の事など、いちいち気にしない。適当に選んだと思った豆を、そのままスーリヤの中の胎児の身体に宿らせた」


 マグダリーナは開いた口が塞がらなかった。


「女神がエステラが自身の一部……写し身だと気づいたのは、エステラがニレルのハイエルフになってからだ」

「……そんなに、気づかないものなの?」


 ルシンが黙って頷いた。

「マグダリーナも睾丸が自分と同じ魂だと気づかなかっただろ」

「タマちゃんです!!」


「神界にいる神は人から遠い。この世界で生きる為の肉体を持たないからな。だからハイエルフは、世界を神に伝える媒体だ。他の生命も。皆、女神に女神が作った世界を伝える媒体……まあだが実際に生きてる側はそれどころじゃないだろう。これが神と人の距離だ」


 ルシンは再び、星空を見上げた。

「……ニレルは、肉体を手放し、生命の喜びや苦しみ、虚しさ……そういったものも手放して、人に寄り添えなくなるのが嫌なんだろうな……まあそういう訳で、今までヒソヒソ話くらいにしか伝わって来なかった世界の様子を、エステラは動画で女神に伝える存在だ。女神にとって、特別になった」

「……なるほど」


「だから手ずから手入れに来たのさ。自分の世話は自分でするってやつだ」

「……なるほど、わからない」


 マグダリーナはため息を吐いた。

 エステラが特別な存在といわれても、今更驚く気はない。

 だけど女神は自身の都合で、エステラが、大好きなニレルと別れることになることを、どう思っているんだろう……


 多分どうとも思っていないのだ。

 今までのルシンの話から予想するに、そんな気がする。


 ニレルは神になどなりたくないと言った。人からあまりにも遠いと。


 エステラはそんなことはないと言う。女神様はいつでも力を貸してくれると。


 おそらく女神は多面体のように、見る角度によって、そして見る人によっても感じ方が違うのだ。それこそ神秘のように。


 ルシンに正解を聞いてみたかったが、顔を上げると、マグダリーナはエステラが健やかに寝る寝室に戻っていた。


 真っ暗のはずが、薄ぼんやりと眠るエステラと、エステラの従魔達が見える。

 睡眠重視のエステラはともかく、従魔達は誰も女神の存在に気づかなかったのだろうか……そっと覗き込むと、ゼラと目が合った。


 どうやらハイドラゴンは、ちゃんと女神の降臨に気づいていたらしい。

 心配いらんよという風に、仔竜姿の短い尾っぽを振って、マグダリーナに片目を瞑って見せる。


 マグダリーナは健やかに眠るエステラの顔をそっと見て、転がっているタマを潰さないよう気をつけながら、自分の寝台に戻った。


 ぷりんとしたタマを眺めながら、確かに同じ魂って言われても、よくわからないなと思う。今は従魔契約をしているから、ちょっと離れてもタマの居場所とかなら分かるけど。


 特別な縁はあるかも知れないが、別個体はやはり別個体であるのだ。

 マグダリーナとタマの魂は一緒でも、心はそれぞれ、身体と一緒で大切な一つを持っているのだから。




 それ以後も、女神は時々エステラを見守りに来るようになった。

 一度女神の輝きを直に見たせいか、マグダリーナは側に居なくても、不思議とそれを感じることができた。

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