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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック

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209. 新貨幣と銀行

 と言うわけで、新貨幣レピに付いての説明会である。

 なのに、なぜか初手からマグダリーナに王太子妃選定についての質問が殺到した。


 昨夜ニレルがエステラを連れて戻った時は、エステラはニレルの腕の中で泣き疲れて眠っていた。今朝も顔を見ていない。


 心配だが、レピのことも重要だ。


 断腸の思いで、この説明会に来ているのに、そんなこと聞いてこないでほしい。八つ当たりだけど!


「その件に関しましては、私は正式に任命の書類もいただいておりませんし、事前に話も伺っておりません。あの場を収める為の、エリック王太子の機転でしょう」


 マグダリーナはそう言って誤魔化した。本気でそうである事を願いながら。


 そうして本題にはいる。


「私達の国は、今迄定期的に造幣国である教国から、貨幣を購入しておりました。貨幣……お金をなぜ他国から購入する必要があるのか……どの硬貨も流通の中で古くなったり、すり減ったり、割れて使えなくなったりします。そういったものと交換する、新しい硬貨が必要なので、古い硬貨を教国に渡し、同額の新しい硬貨を、手数料と税の分を上乗せした金額で購入していました。その上、教国までの輸送費もかかります」


 マグダリーナは自国の貨幣を持つことの利点と短所、そしてどうやって普及させていくかを、平民用につくった動画や、タブレット魔導具を使った図解などで説明していく。


「今回ディオンヌ商会は、ショウネシー領やリオローラ商団で使用している資金口座機構を、『ディオンヌ銀行』として王国全土に拡張する事、資金の貸出し等金融業務全般を担ってくれることを承諾してくれました。望めば各領地、そして他国に支店を置く事もです。ただし、支店の従業員は魔導人形です。こちらのスライム・ゴーレム達になります。今後はこの銀行業務専用の魔導人形を『銀行員』と呼称します」


 壇上に登場したのは、頭に「銀」と書かれた魔魚の鱗をつけた、大量のスライム型魔導人形達だ。マグダリーナの足元に、ぷるっぷる揺れるのスライムの波が生まれる。


「今口座を作ってみたい方はいらっしゃいますか?」

 マグダリーナの質問に、幾人かの貴族の手が上がると、銀行員達が一斉にぽよんと跳ね、素早く移動する。


 各々口座や仕組みの説明をはじめ、あっという間に銀色の銀行カードを発行する。


「こんなに簡単に出来るのか!」

「これはもしかして財布代わりにもなるのか?!」


 そうなんです。魔法表示画面の操作で、その場で簡単に入出金が出来るのです。


「その表示画面は、個人的な情報……預金金額や口座番号等は予め他人に見えないよう設定されています。家族間で確認したりされたい時は、画面に出ている共有の文字を押すと見えるようになります」


 他人の様子を見て、我も我もと口座開設する者が増えていく。

 説明会が終わる頃には、全員が口座を持っていそうだった……


「エルとレピの切り替え期間中の一年間は、普通預金口座に入金したエルは、自動的にレピに交換されます。口座を持たなくても、銀行員に頼めば、エルをレピに交換することは可能です。お作りになられた銀行カードから、銀行員を呼び出すことも可能です。領地に速やかにレピを普及させるのにお役立て下さい」


 マグダリーナは、用意してある水を一口飲んで、気を引き締めた。ここからが難しいところだ。


「では、他国との取引はどうすれば良いのかを、説明いたします」


 王宮に呼び出された時、エステラが寝こけていた原因がこれだ。


 外貨取引市場を作っていたのだ。


「私達にとって、今後エルは外国の通貨『外貨』となります。外貨は銀行を通して売り買いします。金額は、その時の市場価格になります。そしてこの売買には手数料が掛かります」


 仕組みを作ったエステラ曰く、前世の外国為替取引市場は複雑過ぎるので、もう少し単純に、株式の値動きの仕組みを参考にしたと説明されたが、マグダリーナに取っては、それこそさっぱりぽんだ。


 なので、実際の現場を見てもらうことにする。


「外貨取引には『直接取引』『間接取引』の二種類あって、『直接取引』は外貨取引市場で直接売買取引をすることをさします。まず現在の市場の様子を、そちらの大画面に写します。銀行カードをお持ちの方は、そこから見ることも可能です」


 壇上の大画面では、価格の推移のグラフと、どの金額で何口売買したいか一目でわかる注文状況が表示される。


「このエルとレピの売買取引は、本日から始まりまし……ええ!?!」


 マグダリーナは驚きのあまり叫んだ。


「怖……っ!!!!」

 相場怖い……素人絶対手ェ出したらあかんヤツだ。


 市場開始から僅か一時間半、レピの価格がエルの倍値になっていた。


「し……失礼しました。市場では、エルもレピもそれぞれ百エル、百レピを最低売買単価としています。取引可能時間は朝九時から午後三時まで。ご覧の通り、直接取引では、毎時間値動きが有ります。この直接取引以外で取引する事を間接取引といい、その場合のエルとレピの交換価格は、前日の直接取引の終値で行います」


 会場から手が上がった。

「これはそれぞれ同額から売買取引が始まったが、今は百レピが二百三十エルで買われている……ということ……か?」

「その通りです」


「なぜ外国でレピが買われているんだ……?」


「これは推測ですが……現在直接取引の参加資格を持つのは、特定の条件を満たしたリオローラ商団の顧客です。そう言った方々は新しいもの、珍しいものに興味がお有りなのだと思います。レピは我が国だけの通貨。商人としてどんなものか知っておく必要があるから、まず買っておく。レピを口座に置くことで得られる利息もどのようなものか気になる。今はそういう情報の確認と検討のために購入する方がいて値上がっているのかも知れません。それにこのまま更に倍値になった場合。今度は持っているレピを売れば、購入時より多くのエルになり利益が得られます」


 会場がざわついた。


 その後もマグダリーナは、なんとかフィスフィア国やギルギス国の客人からの質問にも返答し、順調に説明会を終わらせた。


 取引の仕組みを作ったのはエステラだが、貿易国に対する措置や国民にどう広めるかの細かい発案は、マグダリーナとエリック王子で考えて、王様と宰相様が確認して決まったのだ。


 本当、教国が面倒なことを言ってこなければ、こんな苦労はしなかったのに……




◇◇◇




 エルからレピへの移行は、思ったより早く……半年過ぎで終わった。


 とある村の貧しい掃除人の少年が、魔獣に襲われそうになった時、偶然拾った小銅貨……一レピを魔獣に投げたら、見事に心臓に突き刺さり、一レピ以上の利益を得た。


 レピを持って行商へ行くと、途中魔獣に出会うことが少なくなった。


 そう言ったことが噂に流れ、国民は新貨幣のレピは縁起が良いと歓迎したからだ。

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