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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック
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203. 恋しかるべき

 学園の舞踏会も無事に終え、いよいよエリック王子の成人の祝いの舞踏会準備に本腰を入れなければいけなくなった。

 と言っても、マグダリーナ達のすることは、盛装の準備くらいで、祝いの品の手配などは大人たちの仕事だ。


 ショウネシー家ではいつも通り、コッコの卵を献上するかとダーモットとハンフリーが話していた。


 女神教の配信動画のおかげで、ハイエルフという存在の認知が、国中に広まりつつあるので、彼らも成人祝いの舞踏会に呼ばれていた。




 そしてこの週末、さっそく某公爵令嬢は、別荘候補を見にショウネシー領に来ていた。


 エステラと一緒に、大体ショウネシー領を一回りしたところで、マグダリーナ達と合流し、図書館の一室に集まる。


「海が見える所が良いのですわぁ」

「流石にそこは街から離れすぎですから、生活には不便ですよ。魔獣もでますし。それにヴァイオレット氏からは、様子が見に行ける範囲でと言われています」

 公爵令嬢の要望に、さっそくマグダリーナは異議を唱えた。


 ヴィヴィアンからの贈り物を、すごく気に入ったエステラは、割と無茶な要望にも対応しそうだし、現実的な落とし所でなんとか納得していただかないと、とマグダリーナは額に汗をかいていた。


 ヴィヴィアン令嬢のお陰で判明したのだが、なんとヴァイオレット氏はヴィオラ・オーズリー公爵の異母弟だったのだ。

 感情をあまり面に出さないヴァイオレット氏が、珍しく姪っ子が無茶をしないか、胃を抱えていた。それはそうだ。その姪っ子、公爵が独身のままだったら次期公爵なのだ。公爵といえば、王族の次に身分の高い、やんごとなき家柄であるからして……


「いっそヴァイオレット服飾店の隣の店舗使う? 販売しなくても、作品の展示場として使ってもいいと思うのよ。職人さんに入ってもらえるよう、裏は工房になってるし」


 なんとエステラに送った細工物や、菓子折りの箱は、この公爵令嬢の手作りだったらしい。

 エステラの提案に、ヴィヴィアンは首を振った。


「ずっといられるかわからないのに、貴重な店舗は使えませんわぁ……あの美しいお花に囲まれたお家の隣にしますわ! 毎日あのお花が眺められますものね!」


 ルシンの家の隣だ。

 あそこなら、まあ安全だろう。マグダリーナも安心した。


 ヴィヴィアンはヴェリタスに話しかける。

「アスティン侯爵夫人は、今身重でいらっしゃるのでしたわよねっ。お相手はハイエルフなのだわぁ」

「ん、まあね」


「うちの叔母様もここに連れて来たら、どなたかさくっと身重にしてくださらないかしらぁ」


らめぇぇ


 ラムちゃんの鳴き声は、同意なのか否定なのか……


「さくっとは無理だろ。元々ハイエルフは子供ができる確率が低いんだ。だから、母上が無事出産できるよう、今も交代でハイエルフ達が側に居てくれてるし」

「そうなんですのぉ……」

 ヴィヴィアンは残念そうに目を瞑った。


「ヴィヴィアンお姉様は、公爵になりたくないんですの?」

 家政科同士で接する機会が多いので、レベッカは既にお姉様呼びをしていた。


「不安なのですわぁ。叔母様は学園卒業後、既に社交会出禁でしたもの。何をどうすれば良いのかさっぱりぽんですもの」


 さっぱりぽん……オーズリーの方言なのだろうか。


「とりあえず女主人として一通りのことは、と思いまして、領地の奥様方に家事全般に家計の把握、貯金に節約術と学びましたの。そしたらお父様が、努力の方向が明後日だと笑っておっしゃるのよ! 正解は教えてくださらないのぉぉ」


 ……なんだろう。想像していた公爵家と全然ちがうわ、オーズリー公爵家。こんな危なっかしい人達、野放しにしておいていいの?


「ヴィヴィアンお姉様はエリック王子の妃の地位に、興味はありませんの」

 レベッカはずばり聞いた。


「ありませんわぁ。どう考えても、王子妃になったら、好きなものを自由に作ったり出来ないですわよね? ラムちゃんが大きくなってしまいますわ。夜な夜な王宮の女官が一人……そしてまた一人……謎の衰弱死事件が発生してしまいますわぁぁぁ」


 眠り妖精は自身とテイマーの、不眠とストレスで大きくなる魔獣だ。そして大きくなると、他の生き物の命を食べ始めるという、熊とは別方向に危険度の高い魔獣だった。


「我が公爵家は、たまたま過去に王族を婿に迎えたから公爵家になっただけで、古い歴史ですと、危険で希少な眠り妖精を保護し、眠り妖精から人を守る活動をしていた一族なのですわぁ。その褒賞に、眠り妖精を可愛がっていた精霊様が、豊かな金鉱を与えて下さったんですの。ですから、眠り妖精をテイムした女性は、家のためではなく、自分の為に自分で伴侶を選ばないとなのですわぁ。ラムちゃんを大きくさせないように! ですからあたくし、五歳の頃から、何人もの男の子に求婚してるのに、惨、敗、なのですわぁぁぁ!!!!」


「もしかして、それで一人暮らしを?」

 マグダリーナは、ちょっと引き気味に聞いた。

「いつどこで出禁になっても、よろしくってよの練習ですわぁぁ」


「かわいそう。ヴィーかわいそうー、タマちゃんがいい男紹介してあげるー。エリックはどう?」

「いや、今さっきその人ダメだって言ってたところだからね」

 マグダリーナはタマを宥める。


「大丈夫よ。タマの出身地にスライムパワーダイレクトアタックすれば、可愛いベビーが誕生よ。タマそのくらいなら出来るよ!」

「……やめて……絶対、やめて差し上げて」


 ライアンとヴェリタスも、何かしら思うところがあったのだろう……さっと話題を変える。

「そうなると、エリック王子の婚約者になりそうな令嬢は、シーグローブ公爵家の令嬢くらいか?」

 ライアンがそう予想したが、ヴェリタスは首を横に振る。

「拝領貴族じゃなくても、伯爵位までの家系の令嬢は範囲に入るんじゃね? リーナに声かけて来たくらいだし」


 そうなんですの? とヴィヴィアンの視線がマグダリーナに注がれる。マグダリーナは身振り手振りでお断りしましたと伝える。


 ノックの音がして、エステラが返事すると、ニレルが飲み物を乗せたトレイを持って入って来た。

 アーケード屋台で売っている飲み物だ。

 今日はスパイスとサトウマンドラゴラ糖の入ったミルクティーだった。


「家は決まったのかい?」

 ニレルがテーブルにトレイを置くと、めいめいお礼を言って、自分のコップを取っていく。

「ルシンお兄ちゃんの家の隣かなって」

「あそこは風の通りも良いし、いい場所だと思うよ」

 ニレルは自然とエステラの隣に座る。

 それを見て、ヴィヴィアンは聞いた。


「ニレルさんが、エステラちゃんを自分の伴侶にするって決めたそうですわよね? 決め手は何でしたの?」


 その場の視線が全部、ニレルに集中した。エステラの視線もだ。


「私……産まれたばかりだったのよね? 赤ちゃんだったのよね……そういえば、赤ちゃん……相手に……なんで……」

 エステラが、今更ながら驚いた顔をしていた。


「どうしても、云わなきゃダメかい?」

 エステラが頷いたので、全員頷いた。


「……聞いても嫌わない?」

 そんな声と顔で言われたら、全世界の男女とも頷くと思われたが、エステラは冷静だった。


「待って、今から数秒、ニレルがどんな変態でも受け止める覚悟を作るから」


 エステラは目を閉じて、しばしの沈黙の後、目を開けた。

 その間、エステラの手がワキワキと妙な動きをしていたことは、気にしない事にする。


「よし、来い!!」

 意を決してエステラが言うと、ニレルは頷いて、エステラを抱きしめた。


「え、違くない?」

 ニレルの腕の中で目を丸くするエステラを見て、ヴェリタスが呆れた顔で言った。

「来いなんて言うからだよ」



 着席したニレルは、ミルクティーを少し飲んで落ち着くと話出した。


「僕がまだ幼い頃、ハイエルフよりもハイドラゴンよりも強い自分の力を恐れて、その一部を金の神殿に封印したきっかけだよ。僕は、ハイエルフを造れてしまった」


 幼いニレルの周囲は、始まりのハイエルフ達しかいなかった。母とも言えるエルフェーラも、王位は退いても、子育てに専念できないくらいには忙しかった。

 ディオンヌの側にハラがいるように、ニレルは自分だけの存在が欲しいと願った。


 そして、新たなハイエルフが。

 伸ばした手の先に、徐々に肉体化してゆく。

 自分だけの、自分の、ハイエルフ。


 ――――その瞬間、怖くなったのだ。


「あと少しで、すべて完成するという所で、ハイエルフはハイエルフを造ることはできない……その事実に気づき、僕は怖くなって……この世界に完全に生まれる前に、その子を壊して……殺してしまった……そこに宿っていた魂も、何処かにかき消えた……そうして僕は、僕の力の一部を封印したんだ。それから数千年経ち……叔母上の所で、産まれたばかりのエステラを見た。この腕に抱いて、エステラの魂が、あの時僕が造りきらなかったハイエルフの魂だとわかったんだ。長い時間をかけて、僕の所に戻ってきてくれたんだとわかって、僕の中に言葉にできない不思議な何かが生まれた。それから僕は、エステラが愛おしくてしょうがない」


 ニレルが話し終わると、静かな時間が流れた。


 やがてヴェリタスがぼそりと言った。

「難しすぎる」


 ニレルも頷いた。

「恋愛に関する僕らの感覚と、人族の感覚には差があるから、そうかもね。あんまり参考にならなくて申し訳なかったかな」


 え? そう簡単に種族の違いにしていいの? マグダリーナはちょっと疑問に思った。

 実際その封印した力の一部が、エルフとハーフだった人族のエステラを、本当にハイエルフに変えてしまったのだから、ニレルは清楚な顔をしてても業が深い……


 エステラが手を挙げた。

「つまりニレルは、可愛い赤ちゃんだった、このエステラちゃんの魅力にメロメロになっていた訳では、なかったと?」


 ニレルは慌てた。

「そうじゃない、もちろんきっかけは今言った通りだけど、ちゃんと可愛い赤ちゃんだったエステラの魅力にもメロメロになったさ」

「……なら、許す」


 と言いつつ、ちょこっとお口を尖らせてるエステラが可愛いなあとマグダリーナは思った。


 いつものように、真剣にニレルの話をノートに書き込みながら、過去のノートを見せてレベッカはヴィヴィアンに事情を説明する。


「とりあえずカンですけど、ハイエルフが恋愛対象に向かないことは、なんとなく理解しましたわぁ」


らめぇぇぇ


 ラムちゃんも同意した。

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