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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック
202/285

202. 山吹色の菓子折り

 翌日ヴィヴィアン公爵令嬢は、領地経営科に堂々顔を出して、マグダリーナとライアンに小さな菓子折りを持ってきた。

 乙女チックな小型の収納鞄から、風呂敷包みが出てきた時点で察した。絶対美味しいディオンヌ商会のお菓子であることに。


「色々ご迷惑をおかけしたお詫びですわぁ。絶対お気に召すと思いますの。受け取って下さいませ。あ、レベッカ嬢には先に同じものをお渡ししてありますの」


らんめぇぇぇぇらぁ


「リーナ、リーナ、すっごく美味しいお菓子って言ってるのー!」


ぶぶぶうう ぶぶぶっ


 タマとカーバンクルがそれぞれの相方を、じっと見る。


 マグダリーナとライアンは視線を合わせて、頷いた。


「謝罪を受け入れます。これからは善き先輩として導いて下さい」

 マグダリーナは菓子折りを受け取る。

「私も昨日の無礼をお詫びします」

 ライアンも頭を下げて菓子折りを受け取る。


「ええ、オーズリー公爵家はショウネシー伯爵家に何かあれば、いつでも手を貸します。もちろんあたくしも。上級生に何かされましたら、いつでも相談に乗りますわぁ」


 いや、それは……


 なんだかこのご令嬢、頼りない予感しかしないのだ。


 そしてこの菓子折り、小さな正方形の箱なのに、やけに重い。多分この金色の金属の箱、金無垢だ。


 ライアンも不審に思ったのか、「開けてみてもいいですか?」と聞く。


 ヴィヴィアンは得意げな顔で頷いた。


 マグダリーナも自身がもらった菓子折りを開く。


 箱を開くと中身は、ディオンヌ商会のクッキーに焼きドーナツの詰め合わせだ。そして二重底になっている。まさか……!


「いただくと絶対心が踊ると保証付きの、山吹色のお菓子折りですわぁ!!!」


(………………!!!!!)


 二重底には、金貨が敷き詰められていた。五枚ずつ、細い小さな紙で括られた、ピッカピカの金貨が縦に五列横に五列の二十五個。


「おおおおー!!!」

 周囲からも感嘆の声が上がった。


「ご心配なさらなくてよろしくてよ。あたくし貯金が趣味なので、全てあたくしのお小遣いで賄いましたの。金貨を磨くと心が落ち着くので、心を込めて磨き上げた綺麗なお金ですわよ。このように素晴らしい経験が出来て、あたくしもとても嬉しく思いますわぁ」

 うっとりとヴィヴィアンは言った。


「貯金は根気が必要なのです。これだけの額をよく貯められましたね……」

 マグダリーナは、初めてこの令嬢を尊敬した。


「金貨ってキラキラして綺麗でしょう? 眺めるために置いておいたら、自然と貯まりましたわぁ」


 なるほど、無駄な散財をしないタイプが、財のある公爵家という恵まれた環境にいるとこうなるのか。


「それからあたくし、ショウネシー領に別荘を購入しようと思ってますの。叔母様もお父様も結婚までは好きにして良いとおっしゃったから、憧れの一人暮らしをするのですわ! あ、ラムちゃんが一緒ですから二人暮らしですわね」


らめぇーぇぇ♪


「――――え?」

「――――え??」

 ライアンとマグダリーナは目が点になった。


 貴族の令嬢が一人暮らし? しかも公爵家の?!

 そんなこと、この世界で可能……だわ……今のショウネシー領なら。


「裸足で波打ち際を歩くのは、ショウネシー領でないとできませんものぉ! おーほほほ」


 ヴィヴィアン公爵令嬢は上機嫌に、高笑いした。




◇◇◇




 とりあえず発案者のエステラは見たいだろうと、山吹色の菓子折りを、ショウネシー邸に帰ってすぐ、サロンでお披露目した。

 バークレー夫妻もいる。


 エステラは菓子折りを見て、手を叩いて感激した。

「案とお菓子は渡したけど、ここまで完璧にやってもらえるとは思わなかった! あのおねーさん、見込みあるわ」

 ニレルも期待に満ちた眼差しで、マグダリーナを見た。

「それで、リーナは云ったのかい? お主も悪よのぉって」


「言、え、ま、せ、ん!」

 まさかのニレルに聞かれて、マグダリーナは全力否定した。


 ブレアは箱のほうに興味があるらしく、マジマジと見ている。

「さすがオーズリー公爵家だな。あそこは豊富な金鉱がある。この箱もオーズリーの金で出来ている。ここの印がその証明と金の純度だよ。箱自体も歪みもない。いい腕の職人だな」


 黄金好きのコッコ(メス)達も、目を輝かせて見ていた。


「あ、それから、こっちはエステラにって預かってきたの」

 マグダリーナは、金の箱を渡す。

「え? 私にもあるの? 何かな〜」

 ご機嫌な様子で、箱を開けると、エステラは目を丸くして、すぐに閉めた。


「エステラ?」

 マグダリーナは、じわじわとエステラの瞳に涙が盛り上がるのを見た。


 エステラはすぐにニレルに抱きついて、ニレルの背中を猫のようにバリバリ掻きだしたかと思うと、箱を指差した。

「無理。一人で見れない」


 ニレルがエステラの代わりに箱を開ける。

 黄金で出来た小さな人形が入っている。

 耳の長い女の子が一体、耳の長い男性が二体。

 可愛くデフォルメされているが、それぞれエステラとニレルとエデンだと分かる。

 それから、ゼラとササミ(メス)、黄金の上半分に、つるりと研磨した宝石をつけてある三色のスライム。テーブルに日除。

 それらが乗せらていた金の板を外すと、二重底の箇所には、黄金の海と砂浜が現れた。海面にチラリと魔魚の顔が出ている凝りぶりだ。


「これは……すごい細工物だ……!!」

 目利きのブレアが感嘆の声を上げる。


 最後にお皿と小さなネギマグロンの串焼き、そしておにぎりがいくつも箱から出てきた。


 エステラはニレルの服で涙と鼻水を拭くと、砂金で出来た浜辺に人形を並べていく。テーブルにも串焼きとおにぎりを置く。

 そして保護魔法をかける。


「見て! すっごいものもらっちゃった!!」


 エステラは笑顔で自慢した。


 この芸術的な細工物は、保護ケースに入れて、ディオンヌ商会の図書館に展示されることになった。

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