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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック
194/285

194. 同じ?

「それで、エリック王子の魂は、エルフェーラ様と同じだったんですの?」


 レベッカはセレンに聞いた。

 セレンはゆっくりと首を横に振る。


「いや、エルフェーラ様ではなかった。ただ……」

「ただ?」

 レベッカが繰り返して確認する。


「マグダリーナ嬢と同じ魂であった……」


 マグダリーナとレベッカは目を見張ってセレンを見た。


 マグダリーナがエリック王子と感じた不思議な感覚……あれは。


「そこの、タマ殿が」


「え?」


 マグダリーナは驚いて、保護瓶の中の白いスライムを見た。

 レベッカも勢いよく、タマを見る。


 タマは頷いた。

「タマずっと……感じてたのー。おんなじって。だから、助けてって、いっぱい合図送ったー」


 スライムの円な瞳から、ポタポタ涙が流れた。それは、綺麗な宝石になった。


 ――!?――


 つまり、マグダリーナがエリック王子に感じたあれこれは、このタマが原因だったのだ……



「これ……夜光珠よ?」

 タマの保護瓶から一粒抜き取って、エステラはテーブルに置いた。


「夜光珠って、真珠と同じくらい高価な宝石じゃね?」

 ヴェリタスがそれを拾って、光に翳すと、七色の光が煌めく。


「どうもエリクサーの副作用みたいね」

 エステラがタマを鑑定して言うと、ヒラとハラ、モモ、ササミとゼラが、残ったエリクサーをかけあって、ドヤァっとする。


「え、何やってんの?! そんなことしたって、皆んなを泣かせる気はないから無駄なんだけど?!」

 エステラのその言葉に、従魔達は嬉し涙をダバダバ流して、そこらじゅう宝石だらけになった。


くまっ くっまぁっ

ぶぶぶぶっ


 ナードとカーバンクルも羨ましがって、エリクサーを欲しがるのを、ライアンとレベッカは必死に止めた。

「だめだぞお前たちは。そんな強く無いんだから、宝石なんか出すようになったら、変なやつに狙われるだろ!」

「そうですわ! ナードの安全が一番ですのよ!」


 ゼラが一番多くべそべそ泣いていた。


『壊すことしかできん、ハイドラゴンのワシが、こんな綺麗なものを生み出せるようになるなんて……』


 エステラはゼラの頭を撫でた。

「じゃあ、ゼラのこの宝石と真珠で、愛用の耳飾り作ろうかな」

 スライム三匹とササミも、自分の宝石をエステラにすっと差し出す。


 マグダリーナは笑った。

「かなり豪華な耳飾りになるわね」


 それからマグダリーナは、タマを見た。

「気づいてあげられなくて、ごめんねタマちゃん。よく立派に、一人で頑張ってたわ。偉いのね」


 タマはキラキラした目で、マグダリーナを見た。

「タマ、リーナと一緒にいる!」

「えっと……」


 マグダリーナは、エステラを見た。

 エステラは頷く。


「リーナと同じ魂を持った子だから、タマちゃんについては、まずはリーナの意見を聞こうと思ってたの」


「そっか。じゃあこれからよろしくね、タマちゃん」

 タマがテイムの光に包まれ、無事マグダリーナの従魔になった。


 そしてマグダリーナは気づいた。

「あれ? この子特殊個体のスライムなのよね? ……かなり……弱くない?」

 エステラは頷いた。

「スライムだからね。しかもずっと引きこもっていたし」


 ハラがタマに聞く。

「そういえば、なんでタマはエリックのタマにいたなの? あそこは外に出てるから、内臓の方が安心感あると思うの」


(――え?)


「タマも初めはお腹あたりにいたよ。でもね、毒とか毒とかから逃げて、やっとたどり着いた安住の地が睾丸だったの」


(――え??)


「そっかぁ、そこで力尽きたなのね」

 ハラは納得したようだが、マグダリーナはできなかった。


「え? タマ……こ……??」

「リーナお姉様、しっかりなさって!」

 ふらつくマグダリーナをレベッカが支える。


 マグダリーナはエステラを見た。

「ごめんね。実はそうなの。やっぱり乙女としてはショックよね。ちょっとタマちゃん一時間ほど、海中で禊させてくるわ」


 タマはぶるぶる震えて泣きだした。

「いやぁ、海怖いー! リーナ助けてー!!」


 ボタボタ溢れ落ちる、傷跡のように消えない宝石を見て、マグダリーナは覚悟を決めた。

「いいわっ! 海はまだはやいと思うのっ! ととのえるの魔法もあるし、なんならエステラの特製洗浄液でしっかり綺麗に洗うわ!! もちろん優しく!」


「リーナ!!」

 ずっと保護瓶にいたタマが、とうとう自らマグダリーナの元に飛び込んできた。

 飛び散る涙が宝石に変わり、容赦なくマグダリーナの頬と額にぶつかる。


「タマに優しくしてぇぇ!!!」


 タマが首の下にくっついて来たのを、マグダリーナはしっかり、ととのえるの魔法をかけてから、優しく支えて撫でた。


 そうしてショウネシー家に、食べて寝るだけの従魔が増えたのである。




◇◇◇




「それじゃあタマちゃんは、シンのお姉様ですね。仲良くして下さいね!」

 アンソニーがそう言って、タマを撫でる。


「シン、よろしくね」

 タマがシンの保育容器にぴたっとくっつくと、まだスライムベビーのシンは嬉しそうに飛び跳ねた。


「可愛いねー」

 タマも上機嫌だ。


 その間マグダリーナは、アンソニーがヒラとハラにもらった秘伝の育児書「かわいくつよいスライムの育て方」をナナメ読みしていく。


 ダメだ。育児書なだけあって、手っ取り早くスライムを強くする方法など載ってない。

 ヒラとハラに特訓して貰うしかないのか……それとも。


「その睾丸を、エステラに魔法で改造して貰おうと思うなよ」

 背後からいきなり声がして、マグダリーナは驚いて振り返る。


「ルシン! この子はタマよ! 変な呼び方しないで!!」

「どっちでも変わらん」

「大きく違うわ!」


「ルシン兄さま、紅茶とハーブティーどっちが良いですか?」

 アンソニーが笑顔で話しかける。

 ルシンはくしゃっとアンソニーの頭を撫でて、それからじっと己の手を見た。


「ルシン兄さま?」

「ん、紅茶」

 アンソニーは頷いて、紅茶を淹れ始めた。


 ルシンは長い指で、タマをぷにっと突いた。

「ヒラやハラ達より、栄養状態が良くないな。魔石や魔獣を食わせた方がいい」


 秘伝の育児書にも、そういう記載があった。やっぱり食事は大事らしい。


「もしかして、わざわざ助言しに来てくれたの?」

「別に。マグダリーナが睾丸になったって聞いたから、見学しに来ただけだ」


「…………っ、ほんっと、女の子にそんなこと言うなんて、さいってい!! どんなに顔が良くても、いい女にはモテないんだから!」

「そうか……それは困るな」


 意外な返答が返って来て、マグダリーナはどきりとした。


「これからはマグダリーナだけにしよう」


 さっとマグダリーナの頬が上気する。


 ルシンは我関せずに、アンソニーの淹れた紅茶を飲み干すと、「美味かった」とだけ言って、来たとき同様、唐突に転移魔法で帰っていった。

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