194. 同じ?
「それで、エリック王子の魂は、エルフェーラ様と同じだったんですの?」
レベッカはセレンに聞いた。
セレンはゆっくりと首を横に振る。
「いや、エルフェーラ様ではなかった。ただ……」
「ただ?」
レベッカが繰り返して確認する。
「マグダリーナ嬢と同じ魂であった……」
マグダリーナとレベッカは目を見張ってセレンを見た。
マグダリーナがエリック王子と感じた不思議な感覚……あれは。
「そこの、タマ殿が」
「え?」
マグダリーナは驚いて、保護瓶の中の白いスライムを見た。
レベッカも勢いよく、タマを見る。
タマは頷いた。
「タマずっと……感じてたのー。おんなじって。だから、助けてって、いっぱい合図送ったー」
スライムの円な瞳から、ポタポタ涙が流れた。それは、綺麗な宝石になった。
――!?――
つまり、マグダリーナがエリック王子に感じたあれこれは、このタマが原因だったのだ……
「これ……夜光珠よ?」
タマの保護瓶から一粒抜き取って、エステラはテーブルに置いた。
「夜光珠って、真珠と同じくらい高価な宝石じゃね?」
ヴェリタスがそれを拾って、光に翳すと、七色の光が煌めく。
「どうもエリクサーの副作用みたいね」
エステラがタマを鑑定して言うと、ヒラとハラ、モモ、ササミとゼラが、残ったエリクサーをかけあって、ドヤァっとする。
「え、何やってんの?! そんなことしたって、皆んなを泣かせる気はないから無駄なんだけど?!」
エステラのその言葉に、従魔達は嬉し涙をダバダバ流して、そこらじゅう宝石だらけになった。
くまっ くっまぁっ
ぶぶぶぶっ
ナードとカーバンクルも羨ましがって、エリクサーを欲しがるのを、ライアンとレベッカは必死に止めた。
「だめだぞお前たちは。そんな強く無いんだから、宝石なんか出すようになったら、変なやつに狙われるだろ!」
「そうですわ! ナードの安全が一番ですのよ!」
ゼラが一番多くべそべそ泣いていた。
『壊すことしかできん、ハイドラゴンのワシが、こんな綺麗なものを生み出せるようになるなんて……』
エステラはゼラの頭を撫でた。
「じゃあ、ゼラのこの宝石と真珠で、愛用の耳飾り作ろうかな」
スライム三匹とササミも、自分の宝石をエステラにすっと差し出す。
マグダリーナは笑った。
「かなり豪華な耳飾りになるわね」
それからマグダリーナは、タマを見た。
「気づいてあげられなくて、ごめんねタマちゃん。よく立派に、一人で頑張ってたわ。偉いのね」
タマはキラキラした目で、マグダリーナを見た。
「タマ、リーナと一緒にいる!」
「えっと……」
マグダリーナは、エステラを見た。
エステラは頷く。
「リーナと同じ魂を持った子だから、タマちゃんについては、まずはリーナの意見を聞こうと思ってたの」
「そっか。じゃあこれからよろしくね、タマちゃん」
タマがテイムの光に包まれ、無事マグダリーナの従魔になった。
そしてマグダリーナは気づいた。
「あれ? この子特殊個体のスライムなのよね? ……かなり……弱くない?」
エステラは頷いた。
「スライムだからね。しかもずっと引きこもっていたし」
ハラがタマに聞く。
「そういえば、なんでタマはエリックのタマにいたなの? あそこは外に出てるから、内臓の方が安心感あると思うの」
(――え?)
「タマも初めはお腹あたりにいたよ。でもね、毒とか毒とかから逃げて、やっとたどり着いた安住の地が睾丸だったの」
(――え??)
「そっかぁ、そこで力尽きたなのね」
ハラは納得したようだが、マグダリーナはできなかった。
「え? タマ……こ……??」
「リーナお姉様、しっかりなさって!」
ふらつくマグダリーナをレベッカが支える。
マグダリーナはエステラを見た。
「ごめんね。実はそうなの。やっぱり乙女としてはショックよね。ちょっとタマちゃん一時間ほど、海中で禊させてくるわ」
タマはぶるぶる震えて泣きだした。
「いやぁ、海怖いー! リーナ助けてー!!」
ボタボタ溢れ落ちる、傷跡のように消えない宝石を見て、マグダリーナは覚悟を決めた。
「いいわっ! 海はまだはやいと思うのっ! ととのえるの魔法もあるし、なんならエステラの特製洗浄液でしっかり綺麗に洗うわ!! もちろん優しく!」
「リーナ!!」
ずっと保護瓶にいたタマが、とうとう自らマグダリーナの元に飛び込んできた。
飛び散る涙が宝石に変わり、容赦なくマグダリーナの頬と額にぶつかる。
「タマに優しくしてぇぇ!!!」
タマが首の下にくっついて来たのを、マグダリーナはしっかり、ととのえるの魔法をかけてから、優しく支えて撫でた。
そうしてショウネシー家に、食べて寝るだけの従魔が増えたのである。
◇◇◇
「それじゃあタマちゃんは、シンのお姉様ですね。仲良くして下さいね!」
アンソニーがそう言って、タマを撫でる。
「シン、よろしくね」
タマがシンの保育容器にぴたっとくっつくと、まだスライムベビーのシンは嬉しそうに飛び跳ねた。
「可愛いねー」
タマも上機嫌だ。
その間マグダリーナは、アンソニーがヒラとハラにもらった秘伝の育児書「かわいくつよいスライムの育て方」をナナメ読みしていく。
ダメだ。育児書なだけあって、手っ取り早くスライムを強くする方法など載ってない。
ヒラとハラに特訓して貰うしかないのか……それとも。
「その睾丸を、エステラに魔法で改造して貰おうと思うなよ」
背後からいきなり声がして、マグダリーナは驚いて振り返る。
「ルシン! この子はタマよ! 変な呼び方しないで!!」
「どっちでも変わらん」
「大きく違うわ!」
「ルシン兄さま、紅茶とハーブティーどっちが良いですか?」
アンソニーが笑顔で話しかける。
ルシンはくしゃっとアンソニーの頭を撫でて、それからじっと己の手を見た。
「ルシン兄さま?」
「ん、紅茶」
アンソニーは頷いて、紅茶を淹れ始めた。
ルシンは長い指で、タマをぷにっと突いた。
「ヒラやハラ達より、栄養状態が良くないな。魔石や魔獣を食わせた方がいい」
秘伝の育児書にも、そういう記載があった。やっぱり食事は大事らしい。
「もしかして、わざわざ助言しに来てくれたの?」
「別に。マグダリーナが睾丸になったって聞いたから、見学しに来ただけだ」
「…………っ、ほんっと、女の子にそんなこと言うなんて、さいってい!! どんなに顔が良くても、いい女にはモテないんだから!」
「そうか……それは困るな」
意外な返答が返って来て、マグダリーナはどきりとした。
「これからはマグダリーナだけにしよう」
さっとマグダリーナの頬が上気する。
ルシンは我関せずに、アンソニーの淹れた紅茶を飲み干すと、「美味かった」とだけ言って、来たとき同様、唐突に転移魔法で帰っていった。
もしも面白ければ、ブックマークと評価をお願いします!