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ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活  作者: 天三津空らげ
十章 マグダリーナとエリック
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189. 魔法使いの真珠

 真珠というのは、ダイヤモンドやルビー、サファイアなどに比べると、目立たない地味な宝石だと、マグダリーナは思っていた。


 だが、そうでは無い事を、この日マグダリーナは思い知った。


「ショウネシー嬢、その腕輪に付いているのは、まさか真珠だろうか……?」

「ええ、そうです。ショウネシーの海で育った真珠です」

「海…………!!!!」


 この会話、何回目だろう――

 マグダリーナは遠い目をした。


 そしてとうとう、ドロシー王女に手招きされた。「放課後、皆さんで王宮に寄っていらして」と。



 そうして、マグダリーナ、レベッカ、ライアン、ヴェリタス……何故かミネットまで王宮に呼び出された。




◇◇◇




「緊張しないで、学園と同じように寛いでちょうだい」


 アグネス王女が笑顔で言うが、王宮が初めてのミネットには無理な話しだった。緊張のあまり顔が強張っているので、マグダリーナとレベッカが両脇で手を握った。


「あの二人の事は、置物だとでも思って」


 王と王妃を見て、アグネス王女は微笑む。


「……む、無理、です……」

 ミネットは小さく答えた。


「えっと、今日はアグネス王女のご用事ですか? ミネットさんまでどうして……?」


 アグネス王女は肩を竦めた。

「私が学園卒業後、フィスフィア王国に嫁ぐのはご存知かしら」

「ええ、シャロン伯母様から聞いてます」


 アグネス王女は、ふと視線を、手元の紅茶の中に落とした。

「最近王都の街に、良く当たる街頭占い師がいると聞きましたわ」


 マグダリーナは嫌な予感がした。


「外つ国はやはり不安ですもの。私もこっそり変装して、占いに行きましたの。お顔は分からなかったけど、褐色の肌の不思議な占い師だったわ」


(やっぱりか)


「結婚の事を聞きましたら、『アンタは妻の沢山いる男に嫁いで、さして大事にもされず、生涯窮屈で寂しく過ごすだろう』ですって」

「そんな……」


 そしてアグネス王女は、例の本を取り出した。


「『だが、この本を金貨三枚で買うなら、嫁ぎ先で権力を得て、それなりに自由に暮らせる方法を教えてやる』ですって! 買うわよ! 買うしかないわよね!」


(なに商法なの――!!!)


 しかもミネットの時より値段が三倍になってるし。


「それで、なんておっしゃられたのですか?」

 レベッカが興味津々に聞き返した。


「星の魔女の真珠で、婚礼用の装飾をあつらえよ、ですって」


(だから、なに商法なの――――!?)


「何やってんの、ルシン兄……」


 ヴェリタスの呟きを、すかさずエリック王子が拾った。


「褐色の肌というからまさかと思ったが、やはりあの時のハイエルフ殿だったか。彼は何が目的でこのような事を?」


 マグダリーナ達は顔を見合わせて、揃って首を横に振った。


「ルシン兄さんの行動は、いつも突拍子ないけど、悪いことはしてない……と思う」

 ライアンは少し考え込んで言った。



「マグダリーナよ」

 にわかにセドリック王が声をかけてくる。


「はい」

「其方とレベッカの腕輪……ショウネシーでは真珠も獲れるのか?」

「ええ、はい。獲れるようになりました」

「なった?」

「私の友人が、やらかしました」

「左様か」


 王妃様が不安げな顔をした。

「でもシャロンは何も言ってなかったわ……」


「それは、私達はこの真珠を、彼女の物だと認識しているので、シャロン伯母様も勝手にお教えするわけにいかないと判断したのではないでしょうか。真珠はハイエルフの妊婦にとって必要な薬を作るための、素材でもあるのです」


「まあ……確かにそう言う事情でしたら、シャロンなら言わないでしょうね」

 王妃様は納得してくれた。


「ではその真珠は、販売する為の物では無いのだな」


 王様の言葉に、マグダリーナは頷いた。


「積極的に販売する気は無いけど、私達には身につけて欲しいそうです。あとルシンはハイエルフの中でも星読み……予知の能力が優れていて、シャロン伯母様の妊娠に真っ先に気づいたのも彼です。女の子だそうです」


「まあ……っ!!」

 王妃様が驚きの声をあげた。


「それは本当ですわ。私もその場に居ましたから」

 ドロシー王女も同意した。


「であればマグダリーナよ。其方の友は、我が娘の為に、大事な真珠を譲ってくれるであろうか」

「それは、間違いなく。最高の物を用意するでしょう」


 マグダリーナをはじめ、その場にいる全員……ミネットまで頷いた。


「ただし価格を決めるのは、ドーラ伯母様です」

「……そうきたか」


 マグダリーナは魔法収納から、真珠の入ったガラス皿を取り出した。


「こちら全て、ショウネシーの海で獲れた、魔法使いの真珠です」


「「「「「海!?」」」」」

 王族達は、一斉に驚いた。


「汚水を棄てとる海で、よく塩や真珠を獲ろうと思ったものよ……」


 セドリック王は、呆然と呟いた。


 ああ、なるほど、海が嫌われてるのには、そういう理由もあるのか……


 マグダリーナは一応付け加える。

「ショウネシーでは汚水は海に流していませんので」


「ではどう処理しとるのだ?」

「おトイレは魔法で分解してますし、生活排水も綺麗な水にしてから下水に流れる魔法が仕込んであるとか聞いてます。ゴミも普通に分解されたり、分別されて素材として再利用する為の仕組みが組まれてますし、燃料系も大体全部謎魔法仕込みで空気を汚さない仕組みです。正直私も理解できてません」


 少し考え込んで、王様は言った。

「……其方ら、もしあの魔法使いが居なくなってしまったらどうするつもりなのだ」


「どうもしません。基本的に彼女の作る物は、手入れ不要で永久に働く仕組みです。マゴーもその一環なので、多分私の孫の代にも、その後も、ショウネシーの暮らしは変わらないでしょう……」


 ショウネシーの街を作ったあの時、マグダリーナは知らなかったが、エステラには、そんなに長くない寿命しかなかった。

 今はハイエルフになってしまったので、おそらくマグダリーナが想像付かない程長く生きるのだろう……


 なので、ガチで暮らしと住まいと環境の快適さへの追求が、半端ない。


「そのおかげかショウネシーの海は透明度も高く、海中にも小精霊が戯れ、とても美しいと弟も言っていました」


「あら、トニー君は海へ入ってるんですの?」

 ドロシーは驚いて尋ねた。

 マグダリーナは頷く。


「今育てているスライムベビーが、真珠と一緒にいた子なので、海に縁が深いようなのです。一緒に海の魔法も覚えると、頑張っています」

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