187. 星の魔女と女性用品
お風呂から上がった後のマグダリーナ達は、あれよあれよとスラゴー達に美健魔法を施され、身体中を美容クリームでマッサージされる。
ミネットだけは、別室でエステラが施術していた。きっとその間に悩みを聞いているんだろう。
美健魔法の施術の後は、エステラはミネットに『おブラ様』と『特別な日のショーツ』を選ぶ。
そしてショーツにつける薄型のクッションと洗浄浄化機能付きポーチ……これは……
「この薄型クッションが経血を吸い取ってくれるわ。こんな風に」
エステラは一リットルはあるであろう、水入れの中の水を、クッションにザブっとかけた。
明らかに溢してると思われたが、周囲の何処にも濡れた所がない。
クッションの方は水を吸って少し膨れていたが、直ぐに元に戻った。
「この貝型のポーチに近づければ、汚れもなく清潔な状態になって、何度も使えるわ」
エステラはポーチの中に、クッション三枚とショーツ二枚、そして身体に汚れがついた時の洗浄布と洗浄水の入ったボトルを入れた。
そして、最後に真珠貝で作った腕輪型の時計をミネットの腕につける。
「これは濡れても何しても壊れないから安心して。身につけてる間の貴女の身体情報を取得管理して、体調が良くない時や月経の周期のお知らせをしてくれるの。説明書はこれね」
「こんなすごい魔導具の数々……それに先程の施術……い…いくら払えば良いんんでしょう」
制服を着たが、ミネットは震えてる。
「その真珠貝はショウネシーの海で獲れた、ショウネシーだけの真珠貝。このショウネシーの魔法使いの加護魔法が込めてあるわ。誰かに聞かれたら、そう答えてくれればいい。あと魔導具の使い心地や改良して欲しい所とかあったら教えて。そして結果が出なくても、さっき言ったことを実践してくれるなら、それでいいわ」
エステラはふんわり笑った。
ミネットは腕輪をみて呆然とした。
「真珠貝……これが……?! 生まれて初めて見たわ……」
◇◇◇
ミネットを送り届けたあと、ショウネシーに帰る。
異変に真っ先に気づいたのは、レベッカだった。
「どういうことですの……どうしてリーナお姉様とライアン兄様、二人とも髪もお肌もツヤツヤして、揃って良い匂いさせていますの?!」
ダーモットの顔色がサッと変わる。
助け船を出したのは、デキる双子のメイドだった。
「レベッカ様、私たちもツヤプルなんですよー。とっても良い匂いなんですの」
「せっかくのんびりエステラ様の王都の工房で美容三昧してたら、父さんがわざわざリーナ様とライアン様を連れて迎えに来るんですよぉ、私たちマゴーと一緒だったのに」
「ええーもしかしてお姉様も兄様も、金と星の工房でお風呂に入って美容三昧してきましたの? ずるい……」
「ごめんなレベッカ、今度はちゃんとエステラに頼んで皆んなで行こう? ダーモット父さんも一緒に」
「いつ? いつにしますの?」
何処か縋るようなレベッカの様子に、大分いっぱいいっぱいになってるんだなと、マグダリーナとライアンは切なくなった。
マグダリーナとライアンはダーモットを見る。
「今週末の二日間……エステラ達さえ良ければ……」
半ば押されるように、ダーモットは言った。
マグダリーナは早速、エステラの予定を確認したのだった。
◇◇◇
「うん、大丈夫だよー」
マグダリーナに快く返事をして、エステラは通信を切った。
エステラはディオンヌ商会の事務所にいた。
そこにはエステラの他に、エデンとニレル、そしてドーラがいた。
「ごめんねドーラさん、ルシンお兄ちゃん勝手に王都で、エルロンドの本売ってたの。もしかして黙って在庫持ってってるんじゃ無いか心配になって……」
「それは確認したから大丈夫よ。ちゃんと代金払って買って行ったみたいだから。いくらで売ってたの?」
「金一」
「金一ねぇ……写本では無いし、王都で売るなら妥当な価格かしら」
ニレルがそれぞれの前にお茶を置いていく。
お茶の香りを堪能しながら、エデンが告げた。
「例の動画、とうとう公開されるらしいぞ。次の土曜からだ。うちはアーケード広場と図書館にするか?」
エステラは頷いた。
「そうね……あと各家庭のアッシでも配信ね。マゴー、準備はお願い」
「かしこまりましたー」
「あ、それでねドーラさん、女性用の下着とか必需品を幾つか作ったの。今何人かにモニターしてもらってるから、ドーラさんとカレンさんにもお願いできる?」
「あら、どんな商品?」
エステラは双子やミネットに渡した製品をドーラやカレンの分も渡し、最後に真珠を使った腕輪時計を渡して、絶句された。
「まさかこれを配るつもり? ショウネシーの身内以外には、絶対おやめなさい」
「あ、はい。リーナの友達には真珠貝で作ったのを渡してます」
「貝ならまだ大丈夫かしらね。そっちも見せてくれる?」
「はい……」
「それでこっちの商品はリオローラで売れる?」
「おブラ様はサイズが重要なので、通販には合わないかも……」
ドーラは素朴な疑問を口にした。
「なんで『様』なんてついてるの?」
「女性の大事なお胸を守る下着だからです! 私も今つけてます! というわけで、エデンちょっと触ってみて」
「んっはぁぁあ?! ダメだろ娘の胸とか触りたくないぞ」
「至極真っ当なご意見に、初めてエデンが父親で良かったと思うわ。でもこれ性能実験だからやって」
エデンは躊躇いつつも、そっとエステラの胸に手を近づける。近づけると触れる前にバチっと電撃が走った。
「っ痛て、なるほど、魔法付与付きか」
エデンが腕をみると『この人変態です』と火傷で描かれていた。
「…………」
エデンはスンとした。
「それからニレル、これで思い切りやって」
エステラはニレルに短剣を渡した。
ニレルは手の中で短剣を回転させて握り直すと、エステラの胸を狙って振り下ろした。
瞬時に防御壁が展開され、短剣の刃が折れた。
「…………」
ニレルはやっぱりかという顔をした。
「もしかして、下半身の方の下着も、同じ防御力かしら?」
ドーラの問いに、エステラは頷いた。
「ダメ?」
「ダメではないけど、びっくりして声が出なかったわ」
「こういうものは、まずショウネシー領の女性達に広めたいの。各家庭に魔導洗濯機もあるし、雑貨屋内に専用コーナー作ろうかと。おブラ様とかはともかく、月経関係用品は女性の生活向上に絶対必要だもの。そこは頑張ってスラゴー達に生産してもらうつもりだから、リオローラの通販にも乗せて欲しいし」
「ねぇ、エステラの言う月経って穢血のことかしら?」
「え……けつ?」
「女性は穢れを溜めやすいから、溜まった穢れを血で流すようにできてるのよ」
エステラは目が点になった。
そうか異世界。前世と人体の仕組みは違うのか。そもそもハイエルフだって生理ないしなと、ディオンヌから引き継いだ『集合的情報記憶魔法』を使う。
違う、そうじゃなかった。人族のそこは前世の人間と一緒だわ。
思ったより、この世界、医療進んでなかった。魔法あるから。
「ドーラさん、それ違う。その出血はそんなんじゃない……」
「そうなの?!」
「動画……正しい知識の動画作らねば……」
エステラは頭を抱えた。